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キーボードからアバター、感情認識まで
― ユーザーインターフェースの国際標準化がJEITAへ ―
2026年4月、ISO/IEC JTC 1/SC 35(User interfaces)国内委員会WGsの事務局がJEITAに移管され、新たに活動を開始しました。
SC 35は、人と情報・システムとの接点であるユーザーインターフェースの国際標準化を担う分科委員会です。キーボードやアイコンから、アクセシビリティ、自然な操作、アバター、感情情報処理まで、幅広い分野を対象としています。本稿では、JEITAで新たに活動を開始したSC 35について、その概要や日本の国際標準化への貢献、7つのWGの活動をご紹介します。
はじめに
ISO/IEC JTC 1/SC 35の国内委員長を務めております、産業技術総合研究所の大山潤爾と申します。
2026年4月から、ISO/IEC JTC 1/SC 35国内委員会WGsの事務局がJEITAに移管され、AV&IT標準化委員会傘下の「ISO/IEC JTC 1/SC 35対応標準化G」として活動を開始しました(図1)。
そこで、本稿では、SC 35のスコープや最近の活動状況、国内委員会および各WGの活動メンバーについてご紹介します。

SC 35は、ユーザーインターフェース、すなわち人と情報やシステムとの接点を対象としており、さまざまな情報技術が最終的に利用者にどのように操作され、理解されるかという観点から、その設計・評価・運用等に関する標準化に取り組んでいます。そのため、JEITAで運営されている他のTCやSCとも相補的な関係にあります。
本稿をご一読いただき、SC 35の活動にご興味を持っていただけましたら、ぜひお気軽にお声がけください。
ISO/IEC JTC 1/SC 35について
ISO/IEC JTC 1は、ISO(国際標準化機構)とIEC(国際電気標準会議)が共同で設置するJTC(Joint Technical Committee)の第一技術委員会として、“Information Technology”(情報技術)を対象としています。JTC 1は、人工知能(SC 42)、IoT・デジタルツイン(SC 41)、ソフトウェア・システム工学(SC 7)、コンピュータグラフィックス(SC 24)、マルチメディア(SC 29)など、情報技術全般を扱う多数の分科委員会(SC)から構成されています。
その中でSC 35は、“User interfaces”(ユーザーインターフェース)を担当し、人間がコンピュータやデジタルサービスを利用する際の操作性や利便性、アクセシビリティなど、人間中心のインターフェース技術を専門に扱う分科委員会として位置付けられています。
SC 35の活動範囲(Scope)は、「情報技術におけるユーザーインターフェースに関する要求事項、設計指針及び関連技術の国際標準化」とされており、従来のGUI(Graphical User Interface)だけでなく、近年ではXR(VR・AR・MR)、ロケーションベースドエンターテイメント(LBE)、メタバース、アバター、ナチュラルユーザーインターフェース(NUI)、感情認識インターフェースなど、次世代のヒューマン・コンピュータ・インタラクション(HCI)に関連する規格開発を進めています。また、高齢者や障害者を含む多様な利用者への配慮、多言語・多文化への対応なども重要なテーマとなっています。
SC 35には現在、7つのワーキンググループ(Working Group:WG)が設置されています。2026年4月時点では、WG 1は韓国、WG 2およびWG 4は日本、WG 5はフランス、WG 6はカナダ、WG 9は韓国、WG 10は中国から選出された専門家が、それぞれコンビーナー(Convenor)を務めています。議長(Chair)はフランスから選出されており、幹事国(Secretariat)もフランスです。
WG 1 :Keyboards, methods and devices related to input and its feedback
WG 2 :Graphical user interface and interaction
WG 4 :User interfaces for mobile and wearable devices
WG 5 :Cultural and linguistic adaptability
WG 6 :User interfaces accessibility
WG 9 :Natural user interfaces and interactions
WG 10 :Affective computing user interfaces

日本はSC 35の設置に関わり、設置当初からPメンバーとして長年にわたり活動しています。また、WG 2およびWG 4のコンビーナーを務めるほか、多数の規格開発でプロジェクトエディターを務めるなど、SC 35において特に存在感の大きい国の一つとなっています。
以下、各WGの活動内容と国内主査についてご紹介します。


ISO/IEC JTC 1/SC 35 国内委員長 大山 潤爾
産業技術総合研究所 主任研究員。筑波大学人間系 准教授。東京大学経済学研究科 特任研究員。修士(工学)/修士(神経科学)/博士(学術)。拡張体験デザイン協会DAAX 運営委員長。日本心理学会サイバーフィジカル心理学研究会 共同代表。電子情報通信学会コミュニケーションクオリティ研究会 専門委員。ISO/IEC JTC 1/AG 23 エキスパート。趣味は映画鑑賞とカフェ巡り。
WG 1
活動紹介
キーボードをはじめとする情報通信機器の入力ユーザーインターフェースに関するISO/IEC規格を審議しており、特にコンピュータのキーボードやキーのレイアウトに関する国際規格であるISO/IEC 9995シリーズを担当しています。
近年では、基本原則(Part 1)、英数字部分(Part 2)、ラテン文字の国際キーボード配列(Part 3)、数値部分(Part 4)、多言語及び多文字種の入力のためのグループ及び機構(Part 9)、図形文字で表すシンボル及び方法(Part 10)、デッドキーの機能と入力文字の種類(Part 11)がそれぞれ改定されました。
また、仮想キーボードのユーザーインターフェースに関するISO/IEC 22121シリーズも担当しており、仮想キーボードのインタラクションに関する技術や機能を規定するPart 3が発行されました。

WG1 主査紹介 原田 佑規
京都先端科学大学人文学部准教授。博士(心理学)。研究テーマは視覚的注意の予測及び人と環境の相互作用メカニズムの解明。
WG 2
活動紹介
WG 2は、情報通信機器のユーザーインターフェースに用いられる図記号及びアイコンに関するISO/IEC規格の審議を担当しています。国内WG 2は10名の委員で構成されています。また、国際SC 35/WG 2では、現在、山本喜一氏がコンビーナーを務めています。
WG 2では、SC 35の所掌範囲において必要となる図記号及びアイコン、ユーザーインタラクションに関する規格案件について、IEC TC 3/SC 3C(機器・装置用図記号)と連携しながら審議を行っています。特に、携帯端末やタッチパネル端末で使用されるアイコン及び関連文書に関する国際規格の審議において、国内意見の反映に努めています。
また、WG 1と協力し、自然言語選択を示す図記号を含むキーボード用図記号に関する規格の審議にも取り組んでいます。
最近の主な活動と成果
テレワークの普及に伴い、オフィスが提供するサービスは多様化しており、その内容を分かりやすく表現する方法が求められています。
この課題に対応するため、日本は「サービス付きオフィスにおけるサービスを表現するアイコン」の国際規格化を提案しました。プロジェクトリーダーは関喜一氏が務め、その成果として、2025年7月にISO/IEC 20931(*1)が発行されました。
本規格で定められたアイコンを用いることで、サービス付きオフィスにおけるサービス表示の共通化が可能となり、利用者の利便性向上やサービス内容の理解促進につながります。また、事業者による質の高いサービスの提供を促すとともに、共通の図記号・アイコンの活用による国際的な相互運用性の向上や、日本企業の海外展開にも寄与することが期待されます。
(*1)ISO/IEC 20931 Information technology — User interfaces — Icons for representing services in serviced offices (2025年7月発行)

メタバースやVR・ARの普及に伴い、利用者を表現する「アバター」の活用が急速に広がっています。一方で、アバターのデザインや利用方法は多様であり、利用者の利便性やアクセシビリティ、倫理的な配慮を含めた共通指針が求められています。
この課題に対応するため、WG 2では、アバターに関するユーザーインターフェースガイドラインの国際規格化を進めてきました。大山潤爾氏がプロジェクトエディターを務め、その成果として、2026年5月にISO/IEC 24216-1(*2)が発行されました。
本規格により、アバターを利用するサービスにおける共通理解が促進され、利用者の利便性向上につながるとともに、安全で信頼できるデジタルサービス環境の実現に寄与することが期待されます。
(*2)ISO/IEC 24216-1 Information technology — User interface guidelines on avatars — Part 1: General (2026年5月発行)
今後の活動に向けて
WG 2では、新たな日本提案の国際規格化に向けた活動を進めています。情報通信機器のユーザーインターフェースは、タッチパネルや新たなジェスチャー機能の普及などにより、大きく変化しています。こうした技術動向については、各WGが連携しながら横断的な議論を進めています。
今後も、これらの技術動向を踏まえ、各種情報通信機器におけるアイコンやシンボルの標準化に向けた検討をさらに推進していきます。


WG 2 主査紹介 堀本 佳成
元日本電気株式会社(NEC)デザイン部門所属。企業在籍中は社内デザイナーとして、さまざまな製品・サービスの開発に携わるとともに、多くのプロジェクトにおいてデザインマネジメントを担当。専門分野はプロダクトデザイン及び人間工学。国際標準化活動においては、現在、IEC TC 3/SC 3CのAssistant Secretary(国際幹事補)を務める。
・グッドデザイン賞受賞(1996年、1997年、2001年)
・2015年 IEC 1906 Award受賞 (国際賞)
・2024年 令和6年度産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰受賞
WG 4
活動紹介
WG 4では、モバイル及びウェアラブル機器のユーザーインターフェースに関するISO/IEC規格を審議しています。国際SC 35/WG 4では、山本喜一氏がコンビーナーを務めています。
WG 4は、メニュー選択ユーザーインターフェースに関する国際規格であるISO/IEC 17549シリーズの開発を担当しました。特に、4方向キーを使ったメニュー選択について規定するPart 2では、日本のエキスパートがプロジェクトエディターを務め、標準化を推進しました。
また、障害者にも配慮した入力方法として、押ボタン、ジョイスティック、画像認識等を情報機器の入力インターフェースとして利用する「プログレッシブインターフェース」に関する国際規格ISO/IEC 25721を日本から提案し、日本のエキスパートがプロジェクトエディターを務めて標準化を進めています。
WG 5
活動紹介
WG 5では、ユーザーインターフェースの多様性を実現するために必要な、言語や文化への適応性に関するISO/IEC規格を審議しています。国際SC 35/WG 5では、フランスのThibault Grouas氏がコンビーナーを務めています。
WG 5は、日本提案の音声命令に関する国際規格ISO/IEC 30122シリーズの開発を担当しました。この規格群は、情報機器を音声で操作するユーザーインターフェースの基本事項を定めたもので、JEITAの音声命令規格を取り入れています。規格開発にあたっては、日本のエキスパートがプロジェクトエディターを務めました。
このほか、音声を使用したインターフェースに関する規格として、対面発話翻訳の国際規格ISO/IEC 20382シリーズ、自動同時通訳の国際規格ISO/IEC 23773シリーズ、全二重対話インターフェースの国際規格ISO/IEC 24661等を開発しました。
さらに、マルチモーダルな消費者サービスシステムに関する国際規格ISO/IEC 25420や、マルチシナリオ発話翻訳に関する国際規格ISO/IEC 26161の標準化も進めています。

WG 4・WG 5 主査紹介 関 喜一
産業技術総合研究所 上級主任研究員。博士(工学)。音による視覚障害者の支援技術の研究、及び情報アクセシビリティの標準化に従事。ISO/IEC JTC 1/SC 35国内幹事。
WG 6
活動紹介
WG 6では、高齢者や障害者を含むすべての人が情報通信機器やサービスを利用できるよう、ユーザーインターフェースのアクセシビリティに関するISO/IEC規格を審議しています。国際SC 35/WG 6では、カナダのDavid Fourney氏がコンビーナーを務めています。
WG 6では、ユーザーインターフェースの設計指針や要求事項に関する標準化を進めています。これまでに、アクセシビリティの設計及び評価の枠組みを定めるISO/IEC 29138シリーズ、ソフトウェアやウェブのアクセシビリティ要件を扱うISO/IEC 20071シリーズ、開発プロセスにおけるアクセシビリティの確保を対象としたISO/IEC 30071シリーズの整備を進めてきました。
また、各国の関連規格やガイドラインとの整合を図りつつ、対話型システム等におけるアクセシビリティ要件の標準化にも取り組んでいます。日本からもエキスパートが積極的に参画し、国際的なアクセシビリティの向上に貢献しています。

WG 6 主査紹介 三浦 貴大
産業技術総合研究所 上級主任研究員、博士(情報理工学)。障害者、高齢者、彼らの支援者を支援する技術等々の開発・調査研究に従事。
WG 9
活動紹介
WG 9では、ユーザーインターフェースの中でも、手指や身体のジェスチャー、音声など、人間の自然な動作に基づくインターフェースに関連する規格を策定しています。国際SC 35/WG 9では、韓国のJee-In Kim教授がコンビーナーを務めています。
手指のジェスチャーについては、特にスクリーンリーダーの操作に関するISO/IEC 30113シリーズを発行しました。また、全身の動きの表現を規定するISO/IEC 25421が開発の最終段階にあり、手指の動きの表現を規定する規格の開発も進めています。音声によるインターフェースについては、ISO/IEC 7818を発行しました。
さらに、キーボード、マウス、タッチパネルなどの入力手段に依存しない入力インターフェースを実現するためのISO/IEC 4933や、自然インターフェースの可用性の評価基準を規定するISO/IEC 4944も発行しました。現在は、エージェントによるユーザーインターフェースに関する規格群の開発を進めています。

WG9 主査紹介 山本 喜一
元慶応義塾大学理工学部情報工学科教授。工学博士。ISO/IEC JTC 1/SC 35 WG 2及びWG 4国際コンビーナー。
WG 10
活動紹介
WG 10では、ユーザーの感情状態を認識・推定し、コンピュータとのユーザーインターフェースに反映させる「感情情報処理(Affective Computing)」に関するISO/IEC規格を審議しています。国際SC 35/WG 10では、ISO/IEC 30150シリーズ(感情情報処理ユーザーインターフェース)の整備を中心に活動しています。
WG 10では、基本的な感情情報の表現やICTシステムにおける取り扱いを定めるとともに、応用分野における幅広いテーマの標準化を進めています。
これまでに、感情情報処理ユーザーインターフェースの基本モデルを定めるISO/IEC 30150-1が、感情情報処理に関する初の国際規格として2022年に発行されました。今後も、ISO/IEC 30150シリーズのさらなる整備が進められる予定です。

WG10 主査紹介 杉本 麻樹
慶應義塾大学理工学部 教授、博士(工学)。サイバーフィジカル環境における人間の状態認識と身体拡張の研究に従事。
問い合わせ先
SC 35では、ユーザーインターフェースに関わるさまざまな分野の専門家が、国際標準化活動に取り組んでいます。
SC 35の活動や国際標準化への参加にご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽に事務局までお問い合わせください。
ISO/IEC JTC 1/SC 35 対応標準化G 事務局
一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA) 標準化センター
お問い合わせは https://www.jeita.or.jp/japanese/contact/ まで