一社だけでは解けない課題が増えている
――近年、「データスペース」という言葉を耳にする機会が増えてきました。なぜ今、注目されているのでしょうか。
加えて欧州では、巨大プラットフォーマーへのデータ集中に対する問題意識を背景に、個人や企業が自らのデータを管理する「データ主権」の考え方が重要視されています。データを守るだけでなく、主権を保ったまま企業間で活用し、産業の価値に変えていく。その基盤となるデータ連携の仕組みとして「データスペース」の整備が進められてきました。データスペースは、異なる国・業種・組織の間で、信頼性のある大量かつ多種多様なデータを連携するための標準化された仕組みです(『産業データスペースの構築に向けた第2次提言 概要』2025年5月、日本経済団体連合会より)。
日本でデータスペースの必要性が急速に高まっているのは、そうした欧州への追随だけではなく、現実の産業課題が、企業間連携を不可避なものにしているからです。
「データスペース」という言葉が国内で議論されるようになったのは、2022年から2023年ごろだったと思います。当初は「欧州で企業間データ連携の仕組みづくりが進んでいる」という紹介が中心でした。それが2024年から2025年にかけて、国内でも具体的なユースケースや実装が見え始めました。今は、コンセプトを説明し、試行する段階から、実際に社会へ広げていく段階へ移りつつあります。
背景にあるのは、企業を取り巻く環境の変化です。これまでは、各社が懸命に改善を重ねれば一定の競争力や収益性を維持できてきました。しかし、環境規制への対応や、サプライチェーンの混乱、地政学的なリスクなど、一社だけでは解決し切れない問題が急増しています。
例えばCO2排出量を減らす場合、自社工場だけを改善しても十分ではありません。原材料の調達から生産、物流、販売まで、サプライチェーン全体で取り組む必要があります。供給網が途切れれば、ある日突然、必要な材料や部品が手に入らなくなることもある。そうなると、経営課題以前に現場の生産そのものが止まりかねません。サプライチェーン上の企業がデータを共有し、状況を把握しながら対策を考える必要性が、はるかに高まっているのです。