「第10版 電子部品技術ロードマップ」を発刊/
部品技術ロードマップ専門委員会の活動紹介
(図1)第10版電子部品技術ロードマップ
(図1)電子部品技術ロードマップ 電子部品技術基礎編
電子部品部会/部品技術ロードマップ専門委員会では、2019年に発刊した「電子部品技術ロードマップ」を全面改訂し、専門委員会活動20周年記念号として「電子部品技術の現在・過去・未来を俯瞰する」を副題とした「第10版 電子部品技術ロードマップ(図1左)」を2022年3月に発刊しました。これに先んじて、汎用的になってきた電子部品やその技術をまとめた「電子部品技術ロードマップ 電子部品技術基礎編(図1右)」を2021年3月にJEITAホームページ上に公開しており、この両者を併せて、電子部品を扱う技術者や関係者を対象に、電子部品を取り巻く環境や電子部品の変遷、電子部品の技術動向、さらに20年先に向けて期待される技術動向について解説しています(図2)。本稿では、「第10版 電子部品技術ロードマップ」の概要をご紹介するとともに、専門委員会の活動内容についてご紹介します。
【図2:「第10版 電子部品技術ロードマップ」の章構成】
ロードマップ 第1章 はじめに
第1章では、「過去20年10年を振り返る」として歴代の編集・発行責任者から当時の思いなどの寄稿をいただくとともに、次項のように、これまでのロードマップと実際の技術進化を比較してみることで、過去10年のロードマップで提示した情報や狙いの検証を行っています。
これまでのロードマップ検証
【図3:電子部品技術を取り巻く環境とその変遷】
これまでのロードマップの検証にあたっては、電子部品技術の変遷に大きな影響を与えてきた「スマートフォン」と「カーエレクトロニクス」の変革を踏まえ(図3)、それらを支えた技術のキーワードとして、「高密度化」「信号の高速化」「多機能化」の観点から主要部品を中心に検証しています。
「高密度化」においては、スマートフォンの進化とともに進んできた電子部品の小型化や高機能化のトレンドについてLCR部品を中心にまとめています。
「信号の高速化」においては、高密度化と併せて通信の高周波化に伴う高周波部品の小型・低背化やモジュール化と、インタフェース部であるコネクタの高周波対応についてまとめています。
「多機能化」においては、スマートフォン・カーエレクトロニクスともに高機能化が進んでおり、それを支えるキーコンポーネンツである各種センサの進化についてまとめています。
これらの検証結果がこれまでの電子部品技術の変遷のまとめとしてご参考になれば幸いです。
ロードマップ 第2章 注目フィールド
第2章では、今後の電子部品業界の発展に影響を与える注目フィールドとして下記の4つを取り上げ、各フィールドにおける「アフターコロナの社会変化」と「カーボンニュートラル社会実現」を踏まえた20年後の姿を想定し、社会変化や技術動向を電子部品の立場で解説しています。
1.環境・エネルギー
カーボンニュートラルや持続可能な社会の実現のために企業活動を継続する上で避けられない課題としてこの分野を最初に取り上げ、環境では多くの地球環境問題の中でも脱炭素課題に着目して「CO2」「プラスチック」視点で、エネルギーでは「創エネ」「省エネ」「畜エネ」視点で、それぞれの現状と課題・対応策を解説しています。
2.スマートモビリティ
次に、カーボンニュートラルの実現とCOVID-19による社会環境変化の影響によって著しく変化しているこの分野を取り上げ、2040年のスマートモビリティ像を描きながら、それらに必要とされる技術の動向を「CASE」を軸に解説しています。また自動車のみならず、他の陸・海・空のモビリティの動向についても解説しています。
3.宇宙
続いて、近年多くの民間企業が参入し、今後の発展が期待される宇宙産業を取り上げ、その歴史や概要を紹介した後、人工衛星の利活用を中心とした事業や技術、さらにそこで使用される電子部品についての動向を紹介しています。
4.医療
最後に、超高齢社会において大きな課題であるこの分野を取り上げ、IoT・ビッグデータ・AI・5G・ロボット技術を活用した電子機器がもたらす医療分野の技術変革について、「ヘルスケア・予防」「診断」「治療」「リハビリ・介護」「機能再生」のステージに分けて紹介しています。また電子部品メーカーとして事業参入する際の法規制への対応についても簡単に解説しています。
ロードマップ 第3章 電子部品
第3章の電子部品の技術動向では、11の電子部品・電子材料を取り上げ、各部品の分類・特徴・構造などの基本的な内容は「電子部品技術基礎編」で解説しているため、本章ではロードマップとして可能な限り10年後を見据えたそれぞれの技術動向に絞って記述しています。
1.インダクタ
【図4:RFインダクタのインダクタンス範囲予測】
本節では、「小型/車載用パワーインダクタ(電源用)」「高周波リアクトル・トランス」「RFインダクタ」に分類して、それぞれの近年の技術動向について解説しています。
「小型パワーインダクタ」は、酸化物結合型メタル材などの新素材開発と工法開発が活発であり、さらなる小型化と高性能化が期待されます。
「車載用パワーインダクタ」は、素材開発のみならず製造技術開発も大きく進展し、より一層の高性能化や高信頼性化が期待されます。
「高周波リアクトル・トランス」は、より高度な設計技術と素材選定による高性能化が期待されます。
「RFインダクタ」は、製品構造設計・電極材料・電極構造の開発が進み、更なる小型化や高性能化が期待されます。サイズとしては、2031年に同一サイズで1.5倍程度のインダクタンス値になると予測されます(図4)。
2.コンデンサ
【図5:各コンデンサのラインナップ比較】
本節では、「積層セラミックコンデンサ」「薄型コンデンサ」「アルミ電解コンデンサ」「フィルムコンデンサ」について、その特徴と開発動向について解説しています。
「積層セラミックコンデンサ」は、小型化の進歩は鈍化傾向にあるものの、高耐圧化や大容量化の技術が進み適用範囲が広がっています(図5)。
「薄膜コンデンサ」は、CPUやMPUなどの高機能化に伴って需要が拡大しており、その応用例などについて紹介しています。
「アルミ電解コンデンサ」については、車載用として用いるための技術動向について紹介しています。
「フィルムコンデンサ」については、自動車の電動化に対応するための使用例と技術動向を紹介しています。
3.抵抗器
【図6:長辺電極化による更なる小型化・高電力化の実現】
本節では、チップ抵抗器の「技術トレンド」と「基板放熱を活用した熱設計への取り組み」について解説しています。
「技術トレンド」では、小型化が進むサイズトレンドや、環境面からの鉛フリー化、さらには長辺電極化による高電力化(図6)などについて解説しています。
「熱設計への取り組み」では、小型・高電力化に伴ってチップ抵抗器の温度上昇が基板の放熱性の影響を大きく受けるようになることから、負荷軽減曲線の周囲温度による規定から端子部温度による規定への変更の提案などについて解説しています。
4.EMC部品
【図7:ノイズ対策の要点】
本節では、基本的な「EMC対策の考え方」について解説した後、実例となる「フィールド別のノイズ対策動向」について解説しています。
「EMC対策の考え方」においては、対策の基本4要素である「シールド」「反射」「吸収」「バイパス」について、それぞれの原理と効果を解説するとともに、実際に使用される対策部品例を紹介しています。
「フィールド別のノイズ対策動向」においては、フィールドとして「パソコン」「スマートフォン」「IoT/5G」「AIスピーカー」「自動車」を取り上げ、それぞれにおけるノイズ源とその対策方法、および使用されるEMC部品の役割について解説しています。
これらを基に、ノイズ対策の要点を図7のようにまとめています。
5.通信デバイス・モジュール
【図8:ミリ波通信モジュールの構造例】
本節では、携帯電話の進化に伴って部品点数が増加している高周波部品・モジュールについて、「表面弾性波(SAW)フィルタ」「5G用バルク弾性波(BAW)フィルタ」「5G用LTCCフィルタ」「5G用アンテナモジュール(AiP)」の事例を紹介しています。
「SAWフィルタ」では、温度補償SAWフィルタや、高Q表面波素子による送受周波数帯間ギャップが狭いデュプレクサの開発事例などを紹介しています。
「BAWフィルタ」では、FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)における、周波数温度係数の低減や、広帯域化、高周波化といった技術について紹介しています。
「LTCCフィルタ」ではミリ波帯用のフィルタ設計技術を、また「AiP」ではミリ波通信モジュールの構成やパッケージ技術(図8)について紹介しており、Beyond 5G・6Gに向けてのミリ波通信モジュールの普及が期待されます。
6.コネクタ
【図9:バッテリ電動車のシステム概要】
本節では、“CASE”を中心とした動きが活発な自動車用途に着目し、その中でも「車載高速・高周波コネクタ」「電動車向けコネクタ」「電動車充電用コネクタ」について解説しています。
「車載高速・高周波コネクタ」は、ナビゲーション・持ち込みICT機器・各種センサなどとの接続のために需要が増加しているもので、それらの伝送方式やコネクタの使われ方・規格の動向などを紹介しています。
「電動車向けコネクタ」では、「高電流系(図9)」と「制御系」とに分けて、それぞれのコネクタの種類や求められる性能・動向について紹介しています。
バッテリの充電に使用される「電動車充電用コネクタ」では、充電方式や使われ方、規格とその動向、システムの多様化について紹介しています。
7.入出力デバイス
【図10:車室内空間のHMIの変化】
本節では、Society 5.0へ向けた社会動向やCOVID-19による社会生活の変容から、「リモート社会で活躍する入出力デバイス」と「リアルデータからの価値創生とHMIの進化」の2つをテーマとして取り上げて解説しています。
「リモート社会で活躍する入出力デバイス」としては、「スマートグラス」と「マイクロフォン」を取り上げ、それぞれの技術動向について解説しています。
「リアルデータからの価値創生とHMIの進化」では、人の感情や感覚を情報化してフィジカル空間とサイバー空間をつなぐ役割とコロナ禍社会を鑑みて「非接触HMI」に着目し、空中での表示・操作・触覚提示技術とそこに使用されるデバイスの技術動向について解説しています。またその応用事例として「車室内におけるHMI」を取り上げ、自動運転の進化に合わせたHMIの変化についてまとめています(図10)。
8.センサ
【図11:センサ市場とセンサインテリジェント化のロードマップ】
本節では、注目されるフィールド/機器として、市場の成長とセンサの活躍が期待される「自動車」「ロボット」「メディカル/ヘルスケア」の3つを選定し、その中でのセンサ応用について解説しています。
「自動車」では、“CASE”の“A”と“E”に着目した、ADAS・自動運転に関するセンサや、xEV/BMSに関するセンサに加え、Euro NCAPの動向で注目される車内の子供置き去り検知センサの動向について紹介しています。
「ロボット」では、人に寄り添うロボットに着目し、搬送ロボットにおける近接センサや、介護ロボットにおける触覚センサについての動向を紹介しています。
「メディカル/ヘルスケア」では、超高齢社会・感染症拡大防止で注目される医療系センサ群に着目し、ウイルスや細菌を検出するセンサや、脳磁・血中ガス・光断層撮影などのバイオマーカーの検知に使用されるセンサの動向について紹介しています。
また、その他のトピックスとして、「IoT/センサネットワークにおける活用事例」や「生物機能利用センサ」「センサ実装技術」について紹介し、「ムーンショット型研究開発制度」(内閣府)による動向を踏まえて、ロードマップとしてまとめています(図11)。
9.アクチュエータ
【図12:IoA(Internet of Action)概念図】
本節では、期待される応用分野として「HMI」と「ソフトロボティクス」を取り上げ、前者は「感性価値向上」の視点で、後者は「柔らかい動作実現」の視点で技術動向を解説しています。
「感性価値を高めるHMIアクチュエータ技術」では、HMIアクチュエータの概要を説明した後、「心地」をキーワードとして、「心地」のメカニズムや、「心地」を生成するHMIアクチュエータと「心地」を創出するHMIシステムの技術進化について解説しています。
「ソフトロボティクスへのアクチュエータ技術動向」では、柔軟な動作を高速に行うための力センサを使わない制御方式に着目して、その技術動向について解説しています。
今後、「動き情報」のネットワーク化であるIoA構想(図12)が進む中で、力触覚情報から素早く正確な動作を再現可能とする制御性の良いアクチュエータが求められます。
10.電子部品材料
【図13:高周波プローブに使用されるPIN-PMN-PT圧電単結晶】
本節では、電子部品の要求特性を満たすために使用されている材料の中で、特に注目する材料として、「二次電池材料」「圧電材料」「有機デバイス用材料」の3つを取り上げて解説しています。
「二次電池材料」では、さまざまな用途で利用されているリチウムイオン電池(LiB)を中心に、液系LiBから全個体LiBへの流れの中での材料開発動向とともに、さらなるエネルギー密度向上のためのポストLiB材料などについても紹介しています。
「圧電材料」では、医療用超音波プローブやジャイロセンサなどに使用される単結晶材料(図13)や薄膜について紹介しています。
11.発光デバイス
【図14:端面発光レーザと面発光レーザ】
本節では、発光デバイスの中でも半導体発光デバイスに着目し、「LED(発光ダイオード)」と「LD(レーザダイオード)」を取り上げて解説しています。
「LED」では、発光波長領域の拡大により用途が広がっている紫外線領域と赤外線領域のLEDについて、その用途や動向を紹介しています。
「LD」では、近年注目されている面発光レーザ(図14)に着目し、VCSEL(垂直共振器型面発光レーザ)とPCSEL(フォトニック結晶面発光レーザ)について概要と動向を紹介しています。
ロードマップ 第4章 2040年の電子部品の展望
第4章では、2040年の電子部品の展望を語るにあたり、今後成長が望まれ、日本として重点的な取り組み分野である「量子技術」「テラヘルツ波」「光」の3つを取り上げ、主としてこれら注目分野の目指す応用と技術内容を解説しています。
1.量子技術
量子技術は、超高速情報処理や超高感度センシングなどの実現に向けて、世界での開発競争が激化している分野です。
本節では、日本政府が進める量子イノベーションの取り組みについて紹介した後、「量子コンピュータ」「量子計測・センシング」「量子暗号・通信」「量子マテリアル」の各分野について解説し、それぞれの課題と電子部品の展望をまとめています。
2.テラヘルツ波
テラヘルツ波は、電波としては周波数が高く、光としては波長が長いために、技術的難易度が高く活用が進んでいなかった電磁波ですが、近年、6G・7G無線通信への応用に向けて開発が進んでいる分野です。
本節では、テラヘルツ波応用を支える技術について紹介した後、「安全安心応用」「工業・農業応用」「生体分子制御」「通信応用」の各分野の展望について解説しています。
3.光
光技術は、情報・通信や計測、加工などの多くの産業を支える基盤技術の一つで、今後も自動運転やデータ処理などのさまざまなアプリケーションを支える技術として期待が大きい分野です。
本節では、デバイスの光構造を中心とした光技術について紹介した後、「情報・通信」「UI・ADAS」「医療・バイオ」「分析・計測」の各アプリケーションの展望について解説しています。
専門委員会の活動内容のご紹介
当専門委員会では、次版(第11版)の発刊に向けた活動を開始していますが、併せて発刊した第10版の内容を広く世の中に知っていただくための広報活動も行っています。エレクトロニクス実装学会やCEATECなどでの講演会や機関誌への寄稿を予定していますので、それらをご覧になって興味を覚えられましたら、本ロードマップの購入をご検討いただけますと幸いです※1。なお、購入された方は、3月に行われた完成報告会のアーカイブ動画もご覧いただけます。
次版に向けての活動としては、まず、ホームページ上に公開している「電子部品技術基礎編※2」のアップデートを2023年3月に行う予定です。電子部品技術の教科書としてより良いものへとしていくためにも、できるだけみなさまのご意見を取り入れていきますので、是非ともアクセスいただき、率直なご意見を問い合わせ欄にご記入いただけますと幸いです。
また、「基礎編」のアップデートと同時に、第11版のコンセプトや構成についての中間報告会を開催する予定です。中間報告会では、注目する分野の専門家の方々を招いての特別講演も実施する予定ですので、是非参加していただき、次版ロードマップへのご意見をいただきますよう、お願い申し上げます。日程などの詳細については2023年1月ごろにJEITAホームページにてご案内いたします。
なお、当専門委員会では参画企業を募集しています。電子部品業界の製品・技術を網羅してより広く役立つロードマップを作成するためには、できるだけ多くの企業に参画いただくことが必要ですので、ご興味ある方はJEITA事務局までご連絡ください。今後とも「JEITA電子部品部会/部品技術ロードマップ専門委員会」の活動へのご理解とご協力をお願い申し上げます。