IEC TC124シンガポール会議報告
TC124概要
IEC TC124(ウェアラブルエレクトロニクス):2017年7月に設立、現在、国際議長:平川秀治氏(日本規格協会)Pメンバー(投票権を持つ国):13カ国、Oメンバー(オブザーバーの国):10カ国、傘下に6のWG(Working Group)がある。なお、TC124の受託審議団体はJEITAであり、TC124国内委員会・委員長には相澤氏(東京大学)、幹事長には前田氏(広島市立大学)が就任し、議事運営を行っている
A. シンガポール会議
IEC TC124(Wearable Electronic Devices and Technologies)の総会がシンガポールにあるIECアジアオフィスの会議室で開催されました。

IEC TC124では発足以来、これまでは比較的基本的な部品や素材(E-textiles)、センサー類の評価方法に関する標準化提案が主体で、提案国も幹事国である韓国からが多数を占めていました。この状況に大きな変化はありません。しかし、最近は、前記に加えて、ウェアラブル装置を用いたストレス評価、睡眠評価あるいはウェアラブル機器から得られた情報のセキュリティなど、提案対象がウェアラブル装置の応用面に広がってきています。提案対象の広がりとともに提案国も、欧米、インドなど広がりつつあります。
扱う対象領域が、ウェアラブル機器から得られる情報になると、ISO/IEC JTC1との関係整理が必要になります。実際 JTC1 SC6、JTC1 SC41から、SCOPEが重複する領域の標準化提案が出てきており、現在JWGで取り組むための準備が進められています。
TC124の国内委員会、専門委員化ではこのような状況変化に対応してゆくために、これまで以上に、エレクトロニクス関連企業、IT系企業からのエキスパート参加が求められてきます。
<主なWGの活動状況>
1. E-textiles(WG2)
平面電極法、直線電極法によるシート抵抗の測定方法
(前田郷司JP)
特にE-textiles業界において国際的にシート抵抗についての理解が不十分であり、不適切な測定法の国際規格が成立している嘆かわしい状況に鑑み、「正しい」シート抵抗測定法を国際規格提案することとしました。導電布のシート抵抗測定法については日本提案のIEC 63203-201-2に明記してありますが、テキストベースの説明のみであり、電極形状や測定上の注意事項については記載されていません。
平面電極法、直線電極法の二つの測定方法を説明し、TC119とのJWGの可能性を含めて提案しましたが、国際幹事から1件にまとめてTC124主体で取り組むべき(JWGについてはNP成立後に再検討)との意見が出され従うことにしました。
まず、一件にまとめたPWIテンプレートをCPにて共有し、その後PWI登録についてのQ文書が発行されます。
2. Devices and Systems(WG4)
米国がPWI-11として睡眠評価方法を提案しており、NP回覧に進める段階ですが、ここにきて韓国から同じようなタイトルのPWI提案が提出され混乱が生じています。提案者は過去にも米国CTA規格の焼き直しのような提案を行い米国の逆鱗に触れた人物ですが自覚していない様子。国際幹事も国内事情からか、積極的に仲裁する様子がありません。TC124への米国代表者はCTAの副会長であり、TC124での活動を重視しており、TC124にとっても米国の協力は極めて重要です。日本としては必要に応じて関係修復に介入してゆきます。
3. Wearable communications(WG8)
インド提案のWearable Securityに関するPWIは、前回のアーリントン会合でISではなくTRを開発することで合意されました。今回、PLからTR向けドラフトが提出され、レビューが行われました。その結果、文書の中に多数の‘shall’、‘must’などIS向けドラフトの語句が残っていることが指摘されました。また、文書全体が包括的な記述になっておりwearableの視点で書かれていない点も指摘があり、再度文書全体を見直すことで合意しました。今後の予定として、PLが8月半ばまでに修正文書作成した上で、次回デリー会合において再度審議を行うことが合意されました。
4. Wearable AI に関するAhG設立提案
韓国委員から「ウェアラブルAI」を議論するためのAhG設立についてQ文書回覧が提案されました。提案者はWG4における睡眠評価の提案者と同じ人物です。英国とインドから支持する声も出ましたが、製品実態のないアイテムを取り上げることについて議長から疑問が呈され、設立を問うQ文書の提案はいったん取り下げられました。今後、AhGの名称と役割、および報告までのタイムラインを明示した提案書の草稿をCPにアップロードし、Q文書の回覧を行うかどうかの意見募集を行うこととなりました。日本としてはTC124のScopeからの乖離が大きい等の理由から、Q文書の回覧自体が不要とのスタンスで臨むこととします。
B. TC124構成
- 議 長:
- 日本 平川秀治(日本規格協会)
- 幹事国:
- 韓国
- AG1
- 全体 Convenor 韓国
- WG1
- 用語 Convenor フランスとインド
- WG2
- E-テキスタイル Convenor 英国と日本 前田郷司(広島市立大学)
- WG3
- 材料 Convenor 日本(前田郷司)と韓国
- WG4
- デバイスとシステム Convenor 韓国と米国
- JWG6
- 電熱衣服(ISO/TC38(Textiles)とのジョイントWG 韓国とベルギー(ISO)(2024年秋に解散)
- WG8
- ウェアラブル装置の通信とインターフェイス Convenor 日本 田中宏和(広島市立大学)とドイツ
C. 今後の予定
2025年秋:インド
2026年春:フランス
2026年秋:ドイツ
D. 国内対応
TC124にて審議しているIEC規格は、ウェアラブルエレクトロニクス標準化専門委員会にて審議、対応しています。
ウェアラブルエレクトロニクス標準化専門委員会
1)参加企業数:11社
オムロンヘルスケア、カケンテストセンター、クラレトレーディング、図研、帝人、H2L、大日本印刷、東洋紡、ボーケン品質評価機構、ミツフジ、ユニオンツール
2)事業概要
ウェアラブルデバイスは、端末に搭載されたセンサーを通じて装着している人の生体情報を取得し、クラウド上で解析してフィードバックすることによって、フィットネスやヘルスケア分野などで活用され始めています。また、産業分野では作業支援や労働管理などにも使われ始めており、IoT社会の発展において、人とインターネットの融合に欠かせないデバイスとして、幅広い分野での展開が期待されています。既に、多くの企業からウェアラブル端末が発売され、また研究開発の発表などが行われている状況にあって、グローバルで健全な普及促進と市場拡大を図るためには、適切な国際標準の開発が求められており、我が国としても積極的に参画し関与して行くことが重要となっています。