2024年9月度 関西支部運営部会講演
支部運営部会では9月11日(水)の部会に西村あさひ法律事務所よりパートナー弁護士の中島和穂、桜田雄紀、両氏を招き掲題の講演を行いました。
経済安全保障の対象は、国レベルの重要物資、技術、情報・データ、基幹インフラから、民主主義等の普遍的価値・ルールに基づく国際秩序まで、広範囲にわたります。企業は、規制による経済損失に加え、法令違反があればペナルティと信用低下を免れません。一方、経済安保対応がサプライチェーンを可視化・強靱化し、取引相手国のシフトで新たな事業機会が生まれる、等のプラス面もあります。
日本の経済安全保障は、国際協調・バランスに配慮し、特定のターゲットに対する規制は限定的です。米国は、個別企業を対象とする規制リスト等、影響力強化に向けた独自の措置を辞しません。欧州は、普遍的なルール形成によるデリスキングに長けます。中国は、米国への対抗措置も含め、総体的安全保障の一環として施策を進めます。
下記の各リスクについて、概要、規制動向、想定されるアプローチ等が解説されました。
①サプライチェーンリスク
米国では、「ウイグル強制労働防止法」にまつわる電子部品関係の摘発が増加しています。EUの「強制労働防止規則」は、売上高・従業員数に関わらず適用されます。中国では、鉱物資源の輸出許可義務づけに伴い、ガリウム、ゲルマニウム等の供給途絶・制限が課題となっています。
Entity List(米国商務省による貿易上の取引制限リスト)等に基づき、取引先企業・製品のリスクを特定、その大きさに応じて、対策を講じてゆきます。情報の収集には、サプライチェーンの可視化ツールや表明保証等を活用します。共有データ基盤(ウラノス、CatenaX)が整備されれば大変有益です。供給途絶が想定されれば、サプライチェーンの部分的デカップリング、供給ルートの多様化等を組み合わせて対応します。
②技術情報の流出リスク
中国は、各種サプライチェーンの国内完結に向け多様な施策を進めます。自社が、中国の望む技術、あるいは日本が守るべき技術を持つ場合、考え得る流出経路を洗い出し、リスクに応じて対策します。日本が強みをもつ技術については、移転の事前報告を義務づける制度改正が検討されています。輸出規制は国際輸出管理レジームの枠を越えて拡大され、セキュリティクリアランス制度もスタートします。
③制裁・輸出規制強化リスク
米国はEntity Listを拡大、対象となる技術にはGAAや量子計算機まで含まれます。日本も先端技術に関するリスト規制(輸出貿易管理令、外国為替令)や、キャッチオール規制(軍事転用の可能性が高い品目・技術について上記を補完)を強化しています。
ロシアに対し、日・米・EUは協調して資産凍結等の制裁を強めています。外為法が対露輸出を禁止する品目については、他国への輸出についても最終の仕向地、用途、需要者等を確認する必要があります。
質疑応答を含め、経済安全保障への理解を深め、対処に資する有意義な学びの機会となりました。