JEITA 2024技術セミナー
関西IT・ものづくり技術委員会では9月20日(金)、大阪・西梅田の毎日新聞ビルを会場とするハイブリッドで標記セミナーを開催しました。木村健士 委員長(島津製作所)より開会挨拶の後、「AIとロボティクスで社会を変える、DXの実践と展望」をテーマに3つの講演を行いました。
AI時代のリーダーシップ:現場力と未来志向の融合による職場改革(オンライン講演)
大阪大学 先導的学際研究機構 教授 榮藤稔 氏
Melvin Conwayによれば「組織が設計するシステム(多くの場合ソフトウェア)は、その組織のコミュニケーション構造の写し絵」となります。「管理職業務の8割は部門間調整」とも言われる旧来の弊害を脱するべく、ビジネスの組織も変化が進んでいます。少人数のチームで、AIを活用したデータ分析により迅速な意思決定を図ることが主流となりつつあります。AWSでは、部門間のコミュニケーションを意図的に減らして個別に最適化を進め、プロジェクトの成否はマーケットに委ねられます。Salesforceは、分業による効率化で徹底的にKPIを追求しています。
コロナ禍とデジタル化でグローバルに行動変容が進みました。2030年までに人とAIの協働は一般的となります。自動化を前提とした社会システムの設計が求められています。
大規模言語モデル(LLM)の発達により、単語の置き換えではなく、概念を理解して意味を生成する言語変換が実現しました。今後は、マルチモーダルな生成AIと、演繹的な推論への展開が課題となります。それがロボットに展開されて身体性・能動性を獲得すれば、自律的な知識の習得が可能となります。五感と身体操作の統合に向け、AI研究では空間推論(Spatial Reasoning)が本流となっています。
人口減に向かう日本では、生産性の向上に向けEnterprise SaaSの利用が不可欠です。カスタマイズしてワークフローに組み入れ、プライベートデータでトレーニングしてゆきます。モデルの所有権を維持し、自社のアセットとして「育てて」ゆくべきです。
2030年の社会デザインに向け、倫理的な課題(身体性をもつAI・ロボットに関わる指針・法整備、AI自動化がもたらすネガティブな影響への準備、他)と、計算資源の確保が避けて通れない課題となります。
hinotori™ サージカルシステム
~これまでの歩み、これからの展望~
(株)メディカロイド 取締役SEO 北辻博明 氏
日本の医療機器市場は拡大していますが、法規制をはじめ制約の多い中、輸入品が大半を占め、手術支援ロボットでは米国製「ダヴィンチ」が独走しています。当社は、検査・診断装置のシスメックスと、産業用ロボットを手がける川崎重工業を親会社に、医療関連機関・産業が集積する「神戸医療産業都市」で、国産初の手術支援ロボット開発に取り組んできました。
人命にかかわる医療機器には高度の安全性、信頼性が求められ、実用化には多くの困難がありました。神戸大学医学部付属病院国際がん医療・研究センターをはじめクラスターのリソース・ネットワークを活用、医療現場と密接にコミュニケーションしつつ、思いを共にする他メーカーのご協力もいただきました。日本の技術力を結集して開発した「hinotori™」は、比較的スリム・軽量でありながら、患者様の負担をより軽減しつつ、高度な外科手術支援を可能としています。既に国内には広く浸透、欧州市場には本年中に参入予定、米国でも来年には販売開始を見込んでいます。
「hinotori™」により定型のプロセスを自動化することで、長時間の手術でも医師の休憩が可能となり、安全性・効率が向上します。遠隔での手術支援にも国内外で取り組んでおり、昨年は当社シンガポール拠点との間でチャレンジ。往復1万kmの距離にもかかわらず遅延は約29ミリ秒に抑えられ、手術が実施可能であることを確認しました。今後も国内医療機関ご支援の下で試験を重ね、改善に努めてゆきます。
さらに、熟練の医師による手術データのデジタル化とAIによる解析で、新たな技術やノウハウを提供し、医療の発展に寄与してゆきます。日本の高度な医療技術を世界に広め、世界の医学発展に貢献することを目指しています。
高品位な資源循環に向けた技術開発について
~設計情報を活用した自律分解ロボット開発~
パナソニック ホールディングス(株)
マニュファクチャリングイノベーション本部
松田源一郎 氏
松下幸之助の「企業は社会の公器。産業の発展が、自然を破壊し、人間の幸福を損なうことは本末転倒」との思いを受け継ぎ、サステナビリティ経営の実現を目指します。2050年に向けた長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」では、3億トン(現在の全世界排出量の約1%)以上のCO2削減を掲げています。
家電リサイクルでは「商品から商品へ」を実現する循環型モノづくりが目標です。自社で運営するリサイクル工場「パナソニックエコテクノロジーセンター」(PETEC)は、メーカーならではの高度なリサイクル処理、資源回収、製品への循環を実現。開発した技術は他工場に展開され、リサイクル設計にも反映されます。
AI、ロボットを活用した自動分解にも取り組みます。エアコン室外機の外装分解において、従来技術ではビスの認識に限界があったことから、AIによる認識システムを検討。①カメラ画像から漏れなくビスを見つけ、②その種類を精緻に見分ける、2段階のアルゴリズムを開発しました。本年4月より室外機自動分解システムに実装しています。
NEDOのプロジェクトで、リマニュファクチャリングにおける修理のための分解技術も担当。各社で共有できるよう抽象化した設計情報から「分解データベース」を作成、自動分解システムにおける分解手順の自動生成に取り組んでいます。分解実績は設計側にフィードバックされ、設計と分解の検証サイクルを回します。サーキュラーエコノミー(CE)事業の共通基盤技術として展開可能で、CE型ビジネスモデルの社会実装を目指します。
講演毎に活発な質疑応答が行われ、東 副委員長(TOA)の挨拶で閉会しました。初の企画として、「展示コーナー」を設け、講師と会場参加者の交流も図りました。参加はオンラインを含め340名で、昨年に続き300名を超える盛会となりました。