「2024年度版実装技術ロードマップ」の発刊
実装技術ロードマップをついに電子書籍として発刊
5年ぶりにリアルでの「完成報告会」を開催
第1章 総則
図表1:2024年度版実装技術ロードマップ
電子実装技術委員会Jisso技術ロードマップ専門委員会では、「2024年度版 実装技術ロードマップ」を2024年6月に発刊しました(図表1参照)。本ロードマップは、1999年に世界初の実装技術のロードマップを第1版として世の中に出して以来、四半世紀を経て第13版目となります。また今版より、皆様のご要望にお応えし、電子書籍として発刊しました。
世界的にICT機器の爆発的普及、AI、ビックデータ活用、IoT、5Gなどの社会実装が進みデジタル革命が進展する中、国内でも官民挙げての半導体産業再生気運が高まっています。このような背景にて、本ロードマップでは、(1)注目される市場と電子機器群、(2)電子デバイスパッケージ、(3)電子部品、(4)プリント配線板、(5)実装設備のカテゴリーで、調査・執筆を実施しました。
今後注目すべき市場カテゴリーとして、『メディカル・ライフサイエンス、情報通信、モビリティー』に注目し、その中で重要な電子機器群を絞り込みビジネス・技術課題の抽出、解決策の提言をしております。また新市場・新材料・新技術として『量子技術、GaN、ワイヤレス給電、ロボティクス、環境・エネルギー』を取り上げました。
実装技術ロードマップは、最前線で活躍する実装技術専門家の予測やワールドワイドな市場・技術動向調査を基に、時代の変化への対応を展開した内容となっております。実装技術業界のみならず関連する材料・製造装置業界に対して、研究開発すべき技術のガイドブックとしてご活用いただき、新しい市場やビジネスモデルの創出の一助になればと考えます。
第2章 注目される市場と電子機器群
1. イントロダクション
内閣府より、2016年度にSociety 5.0が初めて提唱されました。さらに内閣府は、Society 5.0が目指す社会を「国民の安全と安心を確保することと、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」として、この実現に向けて2021年度に第6期 科学技術・イノベーション政策の基本計画を策定しました。
WG1のカテゴリーとしましては、この第6期 科学技術・イノベーション政策の基本計画である国民の安全を確保する持続可能で強な社会への変革のカテゴリーの中からWG1として何ができるかを検討し決定しました。
具体的なWG1の調査カテゴリーを下記に示します。
・メディカル・ライフサイエンス:社会的課題解決
・情報通信;サイバー空間/フィジカル空間の融合
・モビリティー:地球規模の課題克服
・新技術・新材料・新市場:地球規模の課題克服
イノベーション・エコシステム、社会的課題解決に絞り調査・分析しまとめました。
このWG1の調査カテゴリーを図表2に示します。
【図表2:注目される市場と電子機器群のカテゴリー】
2. メディカル・ライフサイエンス
本節では、ライフサイエンス業界に対して、巨大市場におけるニーズ調査の視点と、エレクトロニクスに融合する異分野技術の発掘先というシーズ探索の2つの視点から検討しています(図表3-A)。ニーズ調査においては、比較的参入障壁が小さい「低侵襲・非侵襲検査」に注目し、カプセル内視鏡、細胞外小胞解析システム、新型インフルエンザ迅速検査を具体的な事例として取り上げて、これから必要になってくる実装上の課題の分析をしています。また、ヘルスケアデバイスとしてスマートウォッチの実装形態の動向に関しても調査しています。
一方、シーズ探索においては、当該領域のシーズ技術を融合したハイブリッドデバイスであるバイオセンサに関して、これまで余り議論されることがなかったその製造方法にまで踏み込んだ考察を展開しています(図表3-B)。
【図表3-A:エレクトロニクス業界とライフサイエンス業界】
【図表3-B:バイオセンサの想定されるプロセスフロー】
3. 情報通信
情報通信はSociety 5.0の実現において中心的な役割を担っており、最近AI(Artificial Intelligence:人工知能)の出現のよりさらなる高速・大容量・低遅延伝送化が求められています。
本節では、コンピューティングの分類および市場動向とデータセンターネットワークでの高速化に向けた変化を示しました。次に、このコンピューティングを実現する実装技術として代表的な高性能パッケージを示しています。
また、コンピューティングの中心的役割のデバイスであるDPU/CPU/GPUの新構造としてBSPDN(Back Side Power Delivery Network)の説明をしています。
さらに今後のコンピューティングで使用される光トランシーバとCPO(Co-Package Optics)を紹介しDPU/CPU/ GPU/Memory間の伝送技術が光伝送になり各モジュール構造が大きく変更することを説明しています(図4参照)。
【図表4:光伝送によるデバイス間接続構造】
次に情報通信の端末デバイスとしてスマートフォンを取り上げ、端末デバイスのA-CPU(Application CPU)の変遷とA-CPUの最先端パッケージ構造、同じくスマートフォンに内蔵されているカメラモジュールの変遷と最新のカメラズームの高倍率化向け技術を示しています。最後にメタバース製品として代表的なVR/AR/MRのデバイスの変遷と製品の小型・薄型化技術を説明しています。
4. モビリティー
自動車業界は100年に一度と言われる大きな変革時期を迎えています。パワートレインの電動化、ADAS/自動運転の普及、プレイヤーとしてもIT 技術をベースとしたプラットフォーマーも入り交り、大きな技術革新が進んでいます。環境意識として、世界中でカーボンニュートラルなどの気運も高まっています。
本節では、モビリティー産業の今後を占ううえで、自動車産業を中心に、空モビリティーにも照準を当て次世代テクノロジーの調査を実施し、解説しました (図表5参照)。2.4.1では、EVの普及とモビリティー産業を取り巻く環境と世界的な規制・方針を解説し、2.4.2自動運転・遠隔操作では、AD(自動運転)/ADAS(先進運転支援システム)の上市状況、およびこれらを実現するための通信関連(コネクティッド)の動向を紹介し、デジタルコックピットを構成する最新電子機器や部品の開発動向と実装例を記載しています。半導体部品として、NVIDIA社の車載SoC(System on Chip)を分解調査し、掲載しています。自動運転に必要な認知機能のセンサとして、Lidar、ミリ波レーダーの動向や、ドライバーの状態検知をするバイタルセンシング、近年問題視されている車内の置き去り確認などの技術にも触れます。
【図表5:世界のBEV/PHEV販売予測】
2.4.3電動化技術では、パワートレインにおいて、e-Axleなどで複数の機能部品を1パッケージ化する動きが進む機電一体化や、主要部品であるインバーター・パワーモジュールの開発動向として分解調査を交えて解説しました。また、EVの普及に不可欠な充電インフラの開発動向も記載しています。2025年の大阪万博でデモ運航が計画されている空飛ぶクルマとして電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発動向と課題を解説しました。
5. 新技術・新材料・新市場
現在、地球温暖化への対策が喫緊の課題となっています。日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。カーボンニュートラルへの対応は、大胆な投資をする動きが相次ぐなど、成長の機会ととらえる国際的な潮流も加速しています。日本では、労働力不足が大きな社会課題の一つとして挙げられ、日本社会、経済への影響が懸念されています。また、グローバル化やデジタル化の進展により、新たな産業やビジネスモデルが生まれる一方で、既存の産業やビジネスモデルが変革を迫られる状況にもあります。このような状況に対応するために、新たな価値やサービスを提供する革新的な技術の開発や応用が必要となっています。これらの背景の中、本章では注目する新技術、新材料、新市場として、量子技術、パワーエレクトロニクス、ワイヤレス給電、ロボティクス、環境・エネルギーについて取り上げました。
量子技術は、米中を中心に国際競争が激化している分野であり、日本でも注目されています。特に量子コンピュータは、現在の暗号の元となる素因数分解問題を解読する可能性があるとされており、その開発と量子耐性暗号の対策が急務となっています。カーボンニュートラルを実現するためのキーテクノロジーの一つがパワーエレクトロニクスです。次世代パワー半導体の性能向上と普及が期待されており、特にSiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体材料が注目されています。ワイヤレス給電(WPT)技術は、物理的接続不要(接触・非接触など)で電力を伝送するシステムであり、特にマイクロ波WPTが注目されています。これにより、IoT機器や電池交換が困難な場所に配置された機器の活用が期待されています。労働力不足の解消には、ロボットの活用が必要とされています。コミュニケーションのツールとしての役割も期待されており、子供の遊び相手やお年寄りの見守り、ビジネスシーンでのサポートなどに活用されることが検討されています。環境・エネルギーに関しては、現在世界的な課題となっている地球温暖化の現状、および地球温暖化の防止に向けた日本の目論見と課題、エネルギーミックスの状況、そして、政策、技術開発、実証、ロードマップなど脱炭素に向けた課題解決策の取り組みについて紹介しました。また、新たな潮流としてサーキュラーエコノミー、生物多様性の回復、維持としてネイチャーポジティブに触れ、結語としてありたい未来の姿について述べました。
【図表6:脱炭素実現に向けた日本のエネルギー需給概要】
第3章 電子デバイスパッケージ
本章では、IoT社会に向けて多様化する電子デバイスパッケージという副題で、CPSおける端末デバイス内のウェハレベルパッケージ、パネルレベルパッケージ、クラウド側のシステムインパッケージである2.1D/2.3D/2.5D/3D(Chiplet, Hybrid bonding) に加えて、車載デバイス、RFデバイス、光トランシーバ、MEMS、CMOSイメージセンサ、電磁シールドの最新実装技術を盛り込んだ内容としています。さらにCPSのクラウド側サーバ内のDPU/CPU/GPUなどの最先端デバイスでは低電圧でも安定した複数の電圧を供給できるBSPDN(Back Side Power Distribution NetworK)を保有する構造になると予測しています。
次に電子デバイスパッケージの動向は、JJTR2022版で記載した方向が継続されFO-WLPがさらに拡大します。また、クラウド側サーバ内でのDPU/CPU/GPU デバイスの実装は2.5Dから3D Chiplet化が進むと予測しています(図表7参照)。
【図表7:超高速/低消費電力3D Chiplet構造】
この3D Chipletには、ハイブリッドボンディングの多様な構造例としてWoW(Wafer on Wafer)構造だけではなくCoW(Chip on Wafere)構造の使用と、DPU/CPU/GPU/Memoryデバイスはモジュール基板に実装され、そのモジュール基板間を光伝送すると予測しています。
光伝送を担う光トランシーバは、従来の有機基板から、Si基板に光導波路や受発光デバイスを内蔵するSi Photonicsが採用されると予測しています。
次に今後のEV普及に向けて車載パワーデバイスの高出力化の課題に対する技術動向を図表8にしめします。
【図表8:パワーデバイスの高出力密度化に向けた技術動向】
第3章では他に、実装の要素技術としてウェハの薄化技術のDBG(Dicing Before Griding)やSDGB(Stealth Dicing Before Grinding)プロセス、ワイヤボンディング技術の応用としてシールド・大電流・超長ループ構造の紹介、パッケージ基板のコンシューマ・Memory・厳環境製品向けの仕様、パワーデバイス基板のDBC(Direct Bonding Copper)からDBAC(Direct Bonding Aluminum Copper)への変化、コンシューマ基板でのCuインレイ内蔵による放熱性向上の例を紹介しています。
第4章 電子部品
今版の第4章 電子部品は、実装技術に関連する受動部品であるインダクター、コンデンサー、抵抗器とEMC部品を「SMD部品」と「基板内蔵用部品」で構成し、コネクターは「スマートテキスタイル用途」を取り上げた、3節で記述しています。
1. SMD部品
本節では、実装技術の切り口で「チップサイズトレンド」、限られたチップサイズの中での部品の「技術動向」と、これらに加えて「部品実装・設計時の注意点」を整理しました。SMD部品の小型化を先導してきたMLCCの動向を見ると、小型サイズへの移行は緩やかな変化を示しており、変化の度合いは小さくなってきています。要因としては、これまで小型化ニーズをリードしてきたスマートフォン需要から、車載用途を代表とする高信頼性部品の需要増加などが考えられます(図表9参照)。
【図表9:MLCCのサイズ別構成比率の推移と予測】
「部品技術動向」では、限られたチップサイズの中で各部品の性能向上を支える技術動向について解説しました。事例としてインダクターのインダクタンス値の向上、MLCC単位体積当たりの静電容量値の拡大や低ESL化、抵抗器の定格電力値の向上などを解説しました。MLCCの低ESL化や抵抗器の高定格電力化には、LW逆転型・長辺電極型が有効であることも紹介しています。
「部品実装・設計時の注意点」では、SMD部品の実装時や設計時の課題と対策を代表的な事例を挙げて、「熱設計」「電気性能」「信頼性」「実装」に分けて解説しました。
「熱設計」ではチップ抵抗器の小型化・高密度実装と部品の高電力化とともに熱問題が増加しており、課題と対策を整理しました。「電気設計」では高密度実装時に留意すべき点を、チップインダクターと3端子貫通型フィルターを事例に紹介しました。「信頼性」では、①車載用途で課題となる振動対策、②MLCCのクラック対策、③抵抗器の電食対策を発生原因とともに、部品側の対策と利用者側の対策を紹介しました。「実装」ではチップ立ち、最適なはんだ量の設定など設計時と実装時の注意点と対策を、最後にスルーホールリフロー対応コンデンサーを紹介しました。
2. 基板内蔵用部品
本節では、基板内蔵のニーズが高い電子部品としてコンデンサーを取り上げ、「薄型キャパシター」と「シリコンキャパシター」を解説しました。「薄型キャパシター」はCPUやMPUの高機能化に伴ってパッケージや再配線基板内に埋め込まれており、その応用事例なども紹介しています。「シリコンキャパシター」についても、構造や応用事例を解説しています。
3. コネクター
本節では、今後利用拡大が見込まれる、導電繊維と電子部品を組み合わせて機能する製品の事例として、「スマートテキスタイル用センサとコネクター」の紹介をしています。
ここでは、「課題」「導電糸」「センサ原理」「取り付け・構造例」に分けてスマートテキスタイル用センサとコネクターを解説しています。既存のスナップボタンを使った衣服型スマートテキスタイルのイメージを示します(図表10参照)。
【図表10:2極の服飾用スナップボタンの使用例】
「課題」では、安定した電気的な接続や洗濯対応のための着脱可能なコネクターに求められる要件などを整理しました。「導電糸」については導電性繊維の種類や構造の解説をしており、「センサ原理」については静電容量型圧力センサに加えて、抵抗式と圧電式のテキスタイル用のセンサ原理について説明しています。「コネクターの取り付け・構造例」では、衣服側コネクターとトランスミッター側コネクターの取り付け方法や構造について解説しています(図表11参照)。
【図表11:スマートテキスタイル用コネクターの外観例】
4. まとめ
SMD部品のチップサイズの小型化スピードは緩やかになるものの、部品性能向上への開発は深化しています。なお、電子部品WGの母体である部品技術ロードマップ専門委員会では「電子部品技術ロードマップ」「電子部品技術 基礎編」を編さん・発刊しており、こちらも参考としていただければ幸いです。
第5章 プリント配線板
本章で解説したプリント配線板は、日本電子回路工業会発行の2023年度版プリント配線板技術ロードマップから抜粋したものであり、詳細はそちらをご覧いただければ幸いです。
ガラスサブストレートは高性能コンピューティング(HPC)用プロセッサの次の15年間の主流のパッケージングに用いられることが期待されているだけでなく、データセンターやAIファクトリーでのインターコネクトバンド幅を向上するための光インターコネクトへの拡張のための重要な要素技術です。加えて、メモリバンド幅を改善するためのメモリとプロセッサの近接配置を、シリコンブリッジやシリコンインターポーザを介さずに実現するサブミクロンの導体幅/間隙の形成することで行うことができます。
さらに、ガラスサブストレートの持つ光透過性、低誘電特性、平坦性は3Dパッケージングなどをより高い製造歩留で提供することが可能です。そして我が国で研究開発が行われている光量子コンピュータへと拡張します。本章ではガラスサブストレートの背景やHPC用プロセッサの採用のインパクトとパッケージング構造の仮説、などの実用化に向けた取り組みや課題について解説し、加えてガラスサブストレートの広範なアプリケーションについても説明しています。
【図表12:ガラスサブストレートの拡張性】
第6章 実装設備
本章では実装設備の動向について解説しています。2020年に世界的に広まったコロナ禍以降も、国際情勢不安定化に伴うサプライチェーンリスクの継続、脱炭素の気運の高まり、働き手不足への対応等、製造業を取り巻く課題は山積しています。このような背景からスマートファクトリー化への関心が高まっています。スマートファクトリーの基本概念は、生産現場を中心にエンジニアリングチェーンとサプライチェーンの情報を統合的につなぎ、市場の変化に柔軟に対応する工場と言うことができますが、加えて人手作業の自動化(=省人化)も同時推進しながら工場のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を図ることが目指されています(図表13参照)。
【図表13:スマートファクトリーの基本概念】
実装設備の基本性能である生産性と精度については、スマートフォン、デバイス分野を中心に狭隣接実装のための更なる高精度化要求が高まってきたことから、その精度を従来精度(±40~35μm)と高精度①(±25μm)、高精度②(±15μm)の3区分に分け、マウンタの速度指標CPH (Chips Per Hour)の現状と今後の見通しを示しています。
また、本章の特徴である全世界の設備ユーザーアンケートの結果を元に、印刷機、マウンタ、リフロー、検査機、フリップチップボンダ各設備に対する市場の要求順位と各設備の対応事例について紹介しています。
末尾のトピックスでは、異なるメーカー設備で構成されたSMTラインのスマート化(データ連携)を実現するための通信標準規格SEMI SMT-ELSについて、その最新状況とメリットについて解説をアップデートしています。