Activity
活動報告関西支部

第102回 機器・部品メーカー懇談会

関西支部・部品運営委員会では標記懇談会を11月25日(金)に大阪・西梅田の毎日インテシオで開催しました。(ハイブリッド)

最初に、古橋健士 部品運営委員長(ホシデン(株)社長)より、「世界の変化を考える上で、本日のテーマであるAIとカーボンニュートラルは不可欠の要素。理解を進めるよい機会となることを期待している」旨の挨拶の後、以下の3講演を行いました。

Society 5.0のためのAI・IoTの社会実装の取り組み

産業技術総合研究所 本村陽一 氏

生成AIの特徴はビッグデータの中に関係性を見出せることですが、その過程で、人間の評価・フィードバックが大きな役割を果たします。データ収集は、目的を明確にし、アジャイルで進めるべきです。

DXを進めるには、①AI技術の導入、②価値創出(機械学習+組織学習)、③価値共創(創発+全体アーキテクチャ構築)の3段階があり、これは能の「守破離」に例えられます。押印業務のDXは「押印ロボットの製作」(①)ではなく、「承認プロセスの見直し」(③)です。実社会とそのデジタルツインとの間でデータと知識を循環させることで、価値観を見直し、進化させてこそ、課題解決に近づきます。
製造・供給側の情報は比較的容易に得られますが、AIを社会に実装するためには、利用者側の視座を取り入れ、気づきを得てゆく必要があります。従来、人の勘と経験が頼りであったこの「守破離」を見える化し、生活の現場で得られたビッグデータから新たな気づきを導くAIの開発が求められます。
ビッグデータから確率モデルを構築し、消費者心理・ライフスタイルの理解や、社会現象の予測に結び付ける取り組みが進んでいます。週末に雨が降ればスーパーの客は減ると考えられていましたが、いわゆる「パワーカップル」については、遠出をあきらめるので来店が増えることがわかり、販売戦略に活用されています。価値の構造を進化させることが重要です。
産総研技術コンソーシアムでは、AIとDX技術を社会に実装するため、シーズ/データ/ニーズをマッチングしてビッグデータの成長スパイラルを回す取り組みを進めてゆきます。

カーボンニュートラルに向けた
モビリティ社会が生み出す新たな価値創造

(一財)計量計画研究所 牧村和彦 氏

脱炭素に向けた将来の交通ビジョンについて、日本ではEV化の議論だけですが、欧州では、データを踏まえ官民で政策に取り組んでいます。

コロナ禍で、新たなモビリティサービスが加速しました。グーグルは自動運転配車の商用サービスを開始、アマゾン、アップルも続いています。Uberはライドシェア「グリーンサービス」にテスラの車両を用い、2023年2Qの売上げが30億ドルを超えました。
脱炭素に向けた価値創造の主軸は「人間中心」です。ニューヨークのタイムズスクエアは歩行者中心の空間に生まれ変わり、欧州の各都市も街中は30km/hへのシフトが進んでいます。
MaaSは、自動車に加え、新たな移動の選択肢を提供する概念で、自動車産業に対する脅威ではなく、車を持たない人へのサービスを市場と捉えるものです。メルセデス・BMWのプラットフォームサービスFREE NOWはワンストップでドアツードアの移動サービスを提供します。フロリダでは空港から新しい鉄道を走らせグリーンモビリティパッケージを提供。日本でも商業、観光、まちづくりと連携しつつ全国各地で本格サービスが稼働しています。
駐車施策も脱炭素の一環です。ボストンの駐車場は2021年から半減しました。グーグルのWAYMOはぐるぐる回っているので乗降スペースだけで済みます。ベルリンではすべての交通手段をデジタルで一つのサービスに束ねる取り組みが進んでいます。
2024年のキーワードに、①非保有移動市場への参入による社会課題解決、②脱炭素社会を目指した総合的なモビリティ政策、③モビリティ産業よる移動サービスとまちづくりの一体化、の3点を挙げておきます。

水素社会実現に向けたグローバルサプライチェーンの構築

岩谷産業(株) 津吉 学 氏

日本における水素の取り組みは、2017年の「水素基本戦略」以後、20年に「2050年カーボンニュートラル」を宣言すると共に「グリーン成長戦略」を発表、本年は「基本戦略」を改訂すると共に「GX推進法」が成立し、加速しています。「基本戦略」では、水素の導入量を2030年に300万トンとしていますが、高いハードルと言わざるを得ません。現状では、国の支援がなければ立ち行かず、発電となるとコスト的に全く合いません。

安価なCO2フリー水素を海外から大量に調達するサプライチェーンの構築を目指しています。グリーンイノベーション基金を活用し、他社との協業で実証を進めてきました。オーストラリアで安価・大量に調達できる褐炭から現地で水素を製造、液化して日本に運搬します。年間22.5万トン規模を想定しますが、液化能力、運搬船、貯蔵タンクのいずれにおいても飛躍的な拡大が必要です。2022年2月にオーストラリアからの運搬と神戸ポートアイランドにおける荷役について実証試験を終えました。今後、機器の大型化に向けた技術開発を進めます。
グローバルサプライチェーンの構築に向け、豪州でのグリーン水素製造・液化事業プロジェクトについて、日、豪、シンガポールの5社で基本設計契約を締結。2031年以降に800トン/日のグリーン水素製造を予定しています。国内では、廃プラスチックのガス化による水素製造にも取り組みます。
水素エネルギーの需要創出も進めます。工場内の消費電力を100%再生可能エネルギー+水素で賄う「H2 KIBOU FIELD」(パナソニック(株)草津工場)へ液化水素を供給する他、全国51ヶ所で水素ステーションを運営。大阪・関西万博に向け水素燃料電池船も運航してゆきます。

AIの基本的しくみ、適用事例と今後の展開、カーボンニュートラルの視点から海外のモビリティの現状と日本の取り組みへの示唆、さらに、水素エネルギーの実情と今後の見通しなど、社会と産業発展の方向性と戦略につき幅広い観点からお話いただき、非常に有意義な機会となりました。