Activity
活動報告市場創生部

デザインの価値創出にむけて
~2023年度 デザイン部会海外交流会~

デザイン部会では、これまでデザインに関わる共通の課題について理解を深め、見聞を広める目的から、海外におけるデザイン分野での交流会や調査研究を行って参りました。
「企業活動を加速させるデザインの価値明確化」というデザイン部会の年間テーマのもと、行政、経営、人材の観点から海外の先進事例を調査研究するため、海外交流会を開催しました。今年度は、デザインによる企業競争力強化、社会課題解決の事例を多く持つデンマークとオランダを訪問地に選定し、10社21名に参加いただきました。

訪問目的

1.
企業活動を加速させるデザインの価値を明らかにする施策を提案するため、海外先進事例を行政、経営、人材の観点から調査研究する。
2.
現地で先進的な製品・サービスを体験し、それらの提供企業や大学、政府組織を訪問し、交流することで、感性を刺激し、気づきを得る。

訪問先

2023年11月12日~11月14日
デンマーク(コペンハーゲン・ロスキレ)

■ Manyone

Manyoneは、「戦略的先見性のあるデザイン」という手法を用いて顧客とのエコシステムを実現するデザインコンサル企業です。
課題を可視化し、ステークホルダー間の共通認識とするためのツールキットを実演していただき、横断的なプロジェクトにおけるモデル化されたプロセスやツールの重要性を学ぶことができました。
また、「戦略的先見性のあるデザイン」という定量評価が難しい未来の提案に対して、独自の明確な評価指標の元でプロジェクトが管理されており、不確定なものを議論するプロセス自体に価値を置いていることが伺えました。

Manyoneのプレゼン

■ Kontrapunkt

デンマークを代表するブランドエージェンシーで、銀行・薬局・博物館・省庁・デンマーク王室に至るまで幅広い顧客を対象にブランティングを手掛けています。
当日のプレゼンでは、同社が取り組んだ複数のプロジェクトを例に、ブランディングのプロセス:ブランドの核となるビジョンから顧客体験に至るまで、ブランドを取り巻く要素を三つの層に仕分け、クライアントが求めるブランドの方向性を可視化する手法をご紹介いただきました。

Kontrapunktのプレゼン

■ ロスキレ大学

ロスキレ大学では、安岡准教授のご案内の元、デンマークのデジタル化施策や、市民コミュニティについてご教示いただきました。
デンマークの現在のデジタル化は、20年かけて整備した個人番号や電子署名のインフラが起点となっており、これらの共通インフラを利用したサービス間の無駄のない連携が強みです。
また、多くのステークホルダーが存在する社会制度や街づくりのシステムを設計する際、関係者を招いて、トライ&エラーを繰り返しながら仕様を決めていく参加型デザイン「リビングラボ」が、利用者に寄り添った実装に寄与しています。事例として、フェスの期間中だけ設営される町を、新しいアイディアが社会実装されるためのトライアルの場とするロスキレフェスティバルの取り組みをご紹介いただきました。
政府が一方的にデジタル化を推進せず、国民と相互に意見が交換できる点が人間中心のデジタル化を実現し、そして国民がデジタル化に適応できるよう助け合う仕組みが整っていることが社会実装と持続可能な運用に繋がることを学びました。

安岡准教授の講義

■ デンマークデザインセンター

国営のデザインカウンシルとして設立され、国内の企業や行政がデザインを通して新しい価値を生み出すための支援を行っています。
デザインのもつ効果について、データ収集や分析、情報提供も行っており、2022年度は当時のCEOクリスチャン・ベイソン氏をお招きし、デザイン部会とデンマーク大使館が共催する講演にご登壇いただきました。
(参考 : JEITA WORLD DESIGN FORUM 2022 / JEITA WORLD DESIGN FORUM 2023 )
デンマークデザインセンター(以下、DDC)のプロセスは、少し先の未来をtangible(触れて知覚できるようにする)にし、そこから問を広げていくという点が特徴的です。
また、DDCが主催するワークショップは、事業の決定権限がある立場の方が複数日程かけて参加することで、アイディアをその場で終わらせず、意思決定のプロセスに組み込んでいる点が画期的で、デンマーク国民が持つ「やり切る力」を強く感じました。
一人一人の違いを受け入れながら、自分らしく生きられる世界を作ることができるチカラがデザインやテクノロジーにあることを信じ、それを実行する姿勢を自社にどう取り入れていくのか、参加したメンバー間で意見が交わされる姿が印象的でした。

DDCのプレゼン
DDCオフィスから見える景色

DDCとの交流後、同センターが入居するBlox内で貸しオフィスを運営しているBlox Hubも訪問し、入居企業間のタッチポイントを作り、共創を促すオフィスのデザインを体験しました。

シェアオフィスの
ミーティングルーム
遊び心のある工夫が満載

2023年11月15日~11月17日
オランダ(アムステルダム・アイントホーフェン)

■ アムステルダム国立美術館

建築、展示方法、鑑賞プログラムなどを通して、文化資本の体験デザインについて学びを深めました。

■ World Design Embassy

World Design Embassyはオランダデザイン財団によるプログラムで、デザイナーの問題解決能力が世界を改善できるという信念の元、Dutch Design WeekやEvoluonなどの博物館の運営等、デザインを通した多様な活動を支援しています。今回の訪問では、財団とそのパートナー「NEXT Future」の活動紹介と、未来のプロトタイプがテーマの博物館Evoluonをご案内いただきました。
未来のビジョンと表現をまずは具現化し、実験的にデザインすることに力点が置かれており、創造したテーマについて語る場として「博物館」が意味をなしている、という説明のとおり、鉄の牛「マーガレット」から乳製品を合成したり、ISSで野菜を栽培する等、挑戦的なプロジェクトがEvoluonでは展示されていました。
問題解決の成果を創造するというより、国全体で議論を醸成していくことを重要視する価値観が、起点の役割を担うデザインを投資の対象として評価することに繋がっていることが分かりました。

オランダデザイン財団のプレゼン
Evoluonの展示

更に、財団のご紹介でEindhovenを代表する企業である、Philips Museumを訪問しました。Philipsの沿革から、現在のデザインシステムの導入に至るまで、企業デザイナーからヒアリングを実施し、特にUI・UXを担当しているデザイナーは多くの刺激を受けたようでした。

フィリップスミュージアム入り口

■ デルフト工科大学

設立以来3人のノーベル賞受賞者を輩出しているオランダを代表する研究型工科大学であり、多くの高等機関において高い評価を得ている世界トップレベルの名門校です。米スタンフォード大と並んで、ヨーロッパのデザイン思考教育の中心地として、デザインプロセスに重きを置いて数々の手法を生み出しています。

デルフト工科大学エントランス

今回の訪問では「 impact for a better society」をモットーに持続可能で公平な社会を創る教育方針や、「Systemic level Design」(社会を包括的に捉え戦略的に関係性をデザインすること)という新しいデザインの考え方をご紹介いただきました。

デルフト工科大学のプレゼン

今回の訪問において、共通する2つの論点が示されました。
1つ目は所属する組織を超えた共創の必要性、2つ目は、未来の可能性をプロトタイピングする重要性です。
複雑化する社会課題に立ち向かい、持続可能な経済活動を実現するためには、多様なステークホルダーの関わりが必要不可欠です。未来のプロトタイプを示すことで、漠然とした理想が現実の課題として落とし込まれ、属性関係なく、人々を具体的な議論に巻き込むことができます。
いずれの点でも、顧客に共感し本質を可視化するデザインの力が重要な価値として示されたように感じました。

JEITAデザイン部会は、今後も参画企業内外の枠を超えた共同事業の実現に取り組みデザインの価値を発信するとともに、日本発のインハウスデザイン組織による共創プラットフォームの実現に向けて活動を続けて参ります。

JEITAデザイン委員会はnoteで情報発信をしています

https://note.com/jeita_design/