Activity
活動報告関西支部

JEITA 2023技術セミナー

関西IT・ものづくり技術委員会では9月8日(金)、大阪・西梅田の「毎日インテシオ」を会場とするハイブリッドで、標記セミナーを開催しました。

粟飯原敬一 委員長(ローム)より開会挨拶の後、「社会を変革するDXの未来図を覗こう ~AIによるDXの推進とモビリティの進化~」をテーマに3つの講演を行いました。

IoTビッグデータのためのリアルタイムAI技術

大阪大学 産業科学研究所 教授 櫻井保志 氏

「未来の予測によって社会を変革する」を理念に、大規模データを用いて自然や社会の諸現象をリアルタイムに予測する研究を進めています。「大規模テンソル解析」や「非線形モデリング」の手法を用い、データストリームの特徴をリアルタイムかつ完全自動で抽出、時系列におけるパターンとトレンドを継続的に把握します。そこから得たモデルに基づき、突発的な変化にも対応しつつ予測を行ってゆきます。モデル間の連結強度を推定、要因/結果の関係性を見出し、動的な因果関係を抽出する「ダイナミック要因分析」は、世界における唯一の技術です。
複数の属性を持つデータストリームをテンソルとして表現、非線形解析を行うことで、リアルタイムかつ統合的に学習し、瞬時に予測を行う「リアルタイムAI技術」を実現しました。深層学習により生成される予測モデルは固定的ですが、「リアルタイムAI技術」では、多数の非線形方程式から瞬時にモデルを生成するため、変化のパターンが突然切り替わる複雑な事象にも追随し、高精度の予測が可能となります。
データを高速で統合的に解析し、リアルタイムに情報提供できるAIソフトウェアは各方面で求められ、IoTビッグデータを用いた自動運転技術の開発や、オンデマンド型自律飛行ドローンのスマート工場への展開等、産業界と広く協業を進めます。リアルタイムAI技術は、ターボ分子ポンプの故障発生予測や電力設備の保全等、製造業においても実績をあげています。マイクロエッジAIにおけるモデル学習の高速化、省メモリ化、環境変化への対応といった課題を克服し、小型デバイスに実装できる高速・軽量のリアルタイムAIソフトウェア開発に注力しています。各方面との連携による研究者の育成にも力を入れ、優秀な若手研究者を輩出しています。

事故ゼロ社会の実現を目指した
運転支援/自動運転/協調人工知能の取り組み

(株)本田技術研究所 フェロー 杉本洋一 氏

Hondaは、 “「道を使うだれもが安全でいられる事故に遭わない社会をつくりたい」Safety for Everyone-共存安全-” という安全理念、 “「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現” という環境・安全ビジョンを掲げています。安全目標 “2050年 全世界に於いてHondaの二輪・四輪が関与する交通事故死者ゼロを目指す(保有)”は21年に定めました。新車のみならず市場の全Honda車、さらに相手歩行者・自転車まで対象とするチャレンジですが、ぜひ実現したいと思います。
世界初の衝突被害軽減ブレーキCMBS(03年)以来、安全運転支援技術をみがいてきました。安全運転支援システムHONDA SENSINGは、追突事故発生率を82%、歩行者事故発生率を56%減少させています(N-BOXのデータ)。二輪検知機能付きのHONDA SENSINGを30年までに全世界の四輪全機種に、全方位を検知できるHONDA SENSING 360を30年に先進国で販売する全モデルに、それぞれ展開してゆきます。ハンズオフ機能付の車線内運転・車線変更支援機能や、ドライバーの異変に対応するシステムを追加したHONDA SENSING 360 Next Conceptは24年以降に実装の予定です。21年には、世界初のレベル3自動運転HONDA SENSING Eliteを発表。一般道も含めて運転を支援するHONDA SENSING Elite Next Conceptは、20年代後半の実現をめどに取り組んでいます。
将来的にはレベル4自動運転によるドライバレス・モビリティサービスを目指します。周囲の意図を理解し、より安全な運転をアシストするHONDA CI(Cooperative Intelligence=協調人口知能)と、これを活用したマイクロモビリティの実現により「いつでも・どこでも・どこへでも」人とモノの自由な移動を実現してゆきます。

KDDIスマートドローン取り組み紹介
~ドローン業界の現在と今後の展望について~

KDDIスマートドローン(株) 部長 杉田博 氏

昨年12月に航空法が改正され、無人機の有人地帯における目視外自律飛行(レベル4)が可能となりました。当社はKDDIのスピンオフベンチャーで、モバイル通信により自律・長距離飛行を行う運航管理システムや、飛行制御・管理・通信に必要な機能をクラウド上に構築するプラットフォームの開発を進めています。
KDDIは20年に長野県伊那市で自治体による国内初のドローン配送サービス「ゆうあいマーケット」をスタートしました。Starlink(衛星通信によるau基地局サービス)の活用で、山間部でもモバイル通信に対応するドローンの提供が可能となっています。監視用途に向けては、ポート付きドローンの遠隔操作による自律飛行を実現。充電ポート付きドローンによるダム建設現場の無人監視・測量で大林組と協業するほか、単一オペレーターが目視外で複数機体を操作する運航体制の構築にもJALと共同で取り組みます。
「KDDIスマートドローンアカデミー」で人材の育成も手がけます。国家資格取得コースに加え、領域ごとの専門コースも設けました。鉄塔点検のコースと AI画像解析を活用した業務システムを組み合わせ、東北電力ネットワークとの協業で、鉄塔点検作業のDX化を進めています。
「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」による「空の産業革命に向けたロードマップ」に基づき、「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」ReAMo(Realization of Advanced Air Mobility Project)が今年度よりスタートしています。UTM(Unified Threat Management統合脅威管理)についても昨年度に考え方が整理されており、今後、方針案が策定されます。

講演毎に活発な質疑応答があり、最後は木村副委員長(島津製作所)の閉会挨拶でセミナーを終了しました。参加は過去最多の380名(会場38、オンライン342)で、アンケートでは98%の方から5段階で3以上の評価をいただき、有意義なセミナーとなりました。