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活動報告事業推進部

「みちびき(QZSS)」試験規格提案開始
~IEC TC80ロンドン会議報告~

2023年9月19日~20日にイギリス・ロンドンのinmarsat本社において、IEC TC80総会が開催されました。参加国は計12カ国(UK、ドイツ、デンマーク、日本、韓国、中国、ノルウェー、U.S.、オランダ、フィンランド、スウェーデン、カナダ)で、TC80のPメンバー18カ国のうち、12カ国が参加。その他、IHOやRTCM、CIRMの代表者もリエゾンメンバーとして参画していました。コロナ禍を経ての2019年ぶりの参加でしたが、半数以上は常連メンバーで構成された会合となりました。以下では会期中の審議・決議の中から重要な議案について紹介します。

TC80概要
IEC TC80は、SOLAS条約による性能要件に対する製品の適合性を評価するための試験規格を開発することを目的に、1979年に設立された。TC80では、これまでに約50のIEC規格を開発している。これらのIEC規格の最新版が、多くの関係国主管庁において、舶用航法装置、無線通信装置の型式承認試験のための試験規格として採用されている。
※SOLAS条約:海上における人命の安全のための国際条約(Safety Of Life at Sea)

A. 主な議論

1. TC80総会ロンドン会議

TC80総会では、前回総会後に発行された規格の確認、新作業およびメンテナンス規格の状況を含め傘下WG/MTの報告がなされました。今後のTC80の主な作業は以下となります。

・TC80/WG15:
IEC 63514(VDES)新規開発
・TC80/WG17:
IEC 63173-1(航路計画)
補足文書として利用方法文書開発
・TC80/MT7:
IEC 61174(ECDIS)
IMO性能基準改正対応(航路計画交換)
・TC80/MT19:
IEC 61097シリーズ(GMDSS)
IMO性能基準改正対応

新規作業提案として、日本から提案した準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」受信機は、NP提案を日本から提出するよう要請されました。海事業界に影響の大きいIEC 60945(船舶の航海と無線通信機器およびシステム―一般要求事項)改訂は、IEC TC18にてIEC 60533(電磁両立性)を研究中であるため、安定期日を2028年まで延長することで決議されました。他、船体モーションコントロール(SMC: Ship Motion Control)、e-Navigationに使用する船舶間データ交換形式等が提案されましたがTC80外にて更に検討し再提案することとされました。
最後に、戦略的ビジネス計画が見直され、技術および市場動向として、海事業界にて進められている自動運航船に関する開発が追記されました。
以下、新規作業に関する2つのトピックについて説明します。

2.海洋航行ならびに無線通信機器およびシステム―全地球衛星航法システム(GNSS)―

【全地球衛星航法システム(GNSS)】

一般財団法人宇宙システム開発利用推進機構の浅里幸起氏より、IEC 61108シリーズ「海洋航行ならびに無線通信機器およびシステム-全地球衛星航法システム(GNSS)に、日本版GPSこと準天頂衛星システム「みちびき(QZSS)」の受信機を加える提案をしました。図1にシステムの概要図を示す。性能要求事項、試験方法および必要な試験結果について規定するものです。
同シリーズには既に、米国のGPS、ロシアのグロナス、欧州のガリレオ、中国のBDS、インドのNavICに加えてDGNSSの受信機が規格規定されており、現在SBASの受信機の規格原案の審議が進んでいます。

日本からの提案に対して反対はなく、同委員会にて受け入れて規格作りを進めて行くことができる見通しを得ました。また、作業原案を作成していくため、複数の各国からエキスパートを登録してもらうための調整を行い、確保できる見通しを得ました。

注)
GNSS: Global Navigation Satellite System
QZSS: Quasi-Zenith Satellite System
BDS: BeiDou Satellite navigation system
NavIC: Navigation with Indian Constellation
DGNSS: Differential GNSS
SBAS: Satellite-Based Augmentation System

3.船舶の航海と無線通信機器およびシステム
―VHFデータ交換システム(VDES)―船上移動局

【X VHFデータ交換システム(VDES)】

VDESは、海上VHF周波数帯を利用したデータ通信システムで、船舶自動識別装置(AIS)に加え、簡易メッセージ、航路情報、港湾情報、海上安全情報(MSI)、捜索救助(SAR)関連情報等を、船舶対船舶、船舶対海岸局および船舶対人工衛星間で交換するシステムです。VDESはAISの技術を拡張したデータ通信システムであるため、次世代AISと言われることもあります。
VDES規格は、国際航路標識協会(IALA)、国際海事機関(IMO)および国際電気通信連合(ITU)が関係機関となっており各機関の状況は以下の通りです。
IALAが中心となり、2013年頃よりVDESの技術的検討がなされガイドライン(IALA Guideline 1117)が発行されています。
IMOにおいては、海上安全委員会(MSC)にてSOLAS条約附属書第V章を改正し対象船舶の義務設備要件を「AIS」から「AIS又はVDES」と修正するための作業計画が合意され、航行安全・無線通信・捜索救助小委員会NCSR会合(2023年5月)からVDESをSOLAS条約上の航海機器と位置付け、その性能基準等を検討するため審議が開始されたところです。なお、GMDSSに関連するSOLAS条約附属書第IV章によるMSI等を扱う機器としての位置付けも審議される予定です。
また、国際電気通信連合無線通信部門(ITU-R)においては、2012年世界無線通信会議(WRC-12)から2019年世界無線通信会議(WRC-19)にかけて地上系から衛星系へ段階的にVDES導入が進められ、2022年2月にVDESの技術特性を記載したITU-R勧告M.2092-1が発行されました。現在、関連するAISの技術特性を記載したITU-R勧告M.1371-5の改訂作業が進められています。
IEC TC80/WG15において、PWI 80-35(VDES)を基にNP提案作業がなされ、80/1075/NPが2023年5月に発行され新作業IEC 63514 ED1 VDESとして承認されました。現在の作業計画では、2026年8月国際規格発行予定となっています。

注)
AIS: Automatic Identification System
GMDSS: Global Maritime Distress and Safety System
IALA: International Association of Marine Aids to Navigation and Lighthouse Authorities
IMO: International Maritime Organization
ITU: International Telecommunication Union
MSI: Maritime Safety Information
VDES: VHF Data Exchange System


左から:Fisher氏(国際幹事)、Peiponen氏(国際議長)、田北氏(水洋会)、Kukkonen氏(フィンランド)

Plenary全体写真

B. 今後の予定

2024年1月:IEC 61108への新規提案提出
2025年秋:Plenary会議:日本

C. 国内対応

IEC TC80は、IMOのSOLAS 条約による性能要件に対する製品の適合性を評価するための試験規格を開発することを目的に、1979年に設立されました。JEITAでは、国内ステークホルダの意見を取り纏めるため、IEC TC80国内委員会(生産者、使用者および中立者による3者構成)のミラー委員会として、航法システム標準化専門委員会を設置しています。同専門委員会では、傘下に4分野の標準化グループを設け、IEC TC80傘下の各WGに対応しています。

航海システム専門委員会

1)社数:6社 光電製作所、東京計器、日本無線、古野電気、三菱電機ディフェンス&スペーステクノロジーズ、YDKテクノロジーズ

2)事業概要 電気技術、電子、電気音響、電気光学、およびデータ処理技術を利用した海上航海装置、海上無線通信装置とシステムの標準規格への対応

3)関係リンク先
・IEC TC80
https://iec.ch/tc80