Activity
活動報告関西支部

第101回 機器・部品メーカー懇談会

関西支部・部品運営委員会では6月17日(金)に標記懇談会をハイブリッドで開催しました。

部品運営委員長挨拶

古橋健士 委員長(ホシデン(株)社長)より挨拶がありました。
スパコンが私たちの仕事や生活にどのような変化をもたらすのか大変興味深く、また、カーボンニュートラルとRE100については、部品メーカーにとって、まさに喫緊の課題です。本日はいずれも価値あるお話しが伺えるものと期待しております。

Society 5.0のプラットフォームとしての「富岳」

国立研究開発法人 理化学研究所
計算科学研究センター長 松岡 聡 氏

「計算科学研究センター」は、計算科学研究のトップ拠点として「計算の、計算による、計算のための科学」の研究を推進しています。

富岳の研究開発は、民間で担えないハイリスクの国家プロジェクトとして進められました。2020年に「TOP500」、「HPCG」、「HPL-A」、「Graph500」で世界1位を獲得。「HPCG」、「Graph500」では本年もトップを維持しています。
富岳により解決をめざす重点課題は、5分野に9つが設定されています。健康長寿社会の実現に向け、①生体分子システムの機能制御による革新的創薬基盤の構築、②個別化・予防医療を支援する統合計算生命科学。防災・環境分野における、③地震・津波による複合災害の統合的予測システムの構築、④観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化。エネルギー分野で、⑤エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発、⑥革新的クリーンエネルギーシステムの実用化。産業競争力の強化に向け、⑦次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成、⑧近未来型ものづくりを先導する革新的設計・製造プロセスの開発。基礎科学の発展に向けて、 ⑨宇宙の基本法則と進化の解明。
活用事例として、①COVID-19感染症のリスク評価、②コロナ自粛によるGDPの減少率シミュレーション、③航空機のフライト試験をシミュレーション・デジタルツインで代替(世界初)、④光エネルギー変換材料の開発(変換効率24.4%の正孔輸送材料を設計)等、数多く挙げられます。富岳の中でデジタルツインとして再現したプラットフォームを研究者や企業に活用いただき、イノベーションを起こしてゆきたいと考えています。

カーボンニュートラル・デジタル化を見据えたAI・IoTの活用事例
~地域等と連携したプロジェクトを中心として~

早稲田大学
環境総合研究センター所長 小野田弘士 氏

余剰の再生可能エネルギーを有効利用するための貯蔵技術については、規模、貯蔵期間、技術の熟度等により、ベストミックスを探る必要があります。現在注目される水素は、それを作り、運び、使う際の時空ギャップが大きいほどメリットが出ます。LNGの混焼、大型モビリティ利用、高温領域の発電等、使途に関する議論も重要です。

廃棄物のリサイクル処理においては、製品の回収がボトルネックになります。中古ハイブリッド車がリサイクルインフラのない途上国に輸出されると、廃棄されたリチウムイオン電池が環境汚染を引き起こします。コロナ下では、医療小口廃棄物の回収も大きな課題となりました。近年は、リサイクル現場で小型リチウムイオン電池の発火が多発しています。当センターでは、AIで火花を早期に検知し、自動で消火するシステムの実証を重ねている所です。
大阪・関西万博に向け、人とモノを乗せるマルチベネフィットの自動運転モビリティ開発にも取り組んでいます。通信の遅延をはじめインフラ面に課題がありますが、配送のラストワンマイルにおける小型モビリティ活用、自動配送ロボットのシェアリングによる公道での配送、埼玉県南栗橋のマイクロコミュニティ等、多くの実証と社会実装を進めています。
人類の「空を飛びたい」という願いは、アートに表現され、サイエンスが万有引力の法則や流体力学を発見し、エンジニアリングが飛行機を作り、デザインによって、客がお金を払って乗る社会が実現しました。不確実性の時代には、アート的センスを持つエンジニアを育てることが重要ですが、そのための教育はどうあるべきか、答えは出ていません。2050年のあるべき姿から現在をバックキャストし、そのために今、何ができるのか、議論を深めてゆきたいと思います。

純水素型燃料電池・太陽電池・蓄電池で
工場RE100を実証する発電プラント
「H2 KIBOU FIELD」の取り組み

パナソニック(株)エレクトリックワークス社
電材&くらしエネルギー事業部 
環境エネルギーBU長 中嶋慎一郎 氏

パナソニックは、ブランドスローガン「幸せの、チカラに。」の下、地球環境問題の解決と、暮らしと仕事における世界中の人々のウェルビーイングへのお役立ちを目指します。長期環境ビジョン「Panasonic GREEN IMPACT」では、2050年に向け、3億トン(現在の全世界排出量の約1%)以上のCO2削減を掲げています。水素の利活用による「分散型エネルギーエコシステム」を目指し、滋賀県草津市に実証サイト「H2 KIBOU FIELD」を設け、水素型燃料電池、蓄電池、太陽電池、およびEMSによるRE100ソリューションの実証を昨年より開始しました。

実証の指針は、①工場の全電力をグリーン電力で賄う、②系統が遮断しても工場の稼働を止めない、③工場の電力需要に追従し、高効率で安価な電力を供給、の3点。約4,000㎡の敷地に1.1MWhの蓄電池、570kWの太陽電池、495kW(5kW×99台)の純水素型燃料電池、7.8万リットルの水素タンクを備え、ピーク電力は約680kW、年間電力量は約2.7GWhに上ります。
水素型燃料電池は最大250台を連結でき、顧客のニーズに合う発電量の設計が可能です。コージェネレーションとの連携により約95%の総合効率を実現しています。独自開発のEMSは、太陽電池の発電量変化等のデータに基づき、燃料電池の発電パターンや発電量を調整します。太陽電池電力の過不足は、蓄電池の充放電でカバーし、工場稼働に要する最低限の電力は蓄電池と燃料電池により確保されます。エネルギーマネジメントに関するノウハウ、データを蓄積、RE100ソリューションの早期事業化を目指し、お客様の困りごと解決に貢献してゆきます。

いずれの講演も、社会と産業発展の方向性・戦略につき幅広くお話しいただき、活発な質疑応答を含めて、非常に有意義な機会となりました。