2023年新春特別講演会
関西支部の部品運営委員会および新分野・異業種研究専門委員会では1月18日(水)にハイブリッドで新春特別講演会を開催しました。リアルでの開催は3年ぶりとなります。
部品運営委員長「年頭挨拶」
最初に部品運営委員会の松本 功 委員長(ローム(株)代表取締役社長)より「年頭挨拶」がありました。
「電子情報産業の2023年世界生産は3.5兆ドル、前年比3%成長の見通しです。半導体関連産業は生産の6割を中台韓に依存していますが、製造装置では7割を米日、材料では6割弱を日本が、それぞれ握ります。最先端ロジック半導体の生産は台湾が主で、10nm以下は9割を占めており、中台関係の地政学的リスクが懸念されます。23年の市場動向をみると、車載は新エネ車の拡大に加えて1台あたりの搭載額も増えており、確実に伸長します。産業機器も、ペースは落ち着きますが引き続き伸びるでしょう。スマホは5Gが増えるものの全体は減、PCもハイエンドを除き減。データセンターも伸びは続きますが、IT企業による投資は今後、鈍化が予測されます。ウエハーおよび製造装置の出荷も拡大が続いており、全体的には順調に伸びると見込まれます。
当社の22年3月期売上は4,521億円で過去最高を達成しました。構成として、品目別ではIC/LSIと半導体素子が9割弱、市場別では自動車、産業機器、民生機器が8割強、地域別では日本が33%、アジアが55%をそれぞれ占めています。22年の世界半導体市場は全体で69兆円。そのうち当社の有効需要は22兆円ですが、車載、産機を中心に25年まで年平均3.5%で成長すると見込んでいます。パワー/アナログ半導体に注力し、25年度売上6,000億円、海外比率50%以上を目指します。パワーでは、SiCの性能向上と共に、基板からモジュールに至る多様な供給形態を武器に、お客様への対応力を高めてゆきます。また、生産体制を強化し、基板の大口径化(6インチ→8インチ)を進めます。さらに、長年培ってきたアナログ・電源技術により、省エネ、小型化、精密制御における最適なソリューションの提供を推進します。環境マネジメントでは、再エネの導入を加速、2050年度の再エネ100%を目指して取り組みを進めています。人財マネジメントでは、ダイバーシティの推進、ガバナンス改革、従業員エンゲージメントの向上を3本柱に、企業として持続的な成長を図ってゆきます。」
講演「インドの最新経済動向~ポスト・チャイナの可能性~」
続いて、独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)大阪本部長 村橋靖之 氏より掲題の講演を行いました。
「インドを理解する上で気候・風土、民族・言語等、多様性の認識がたいへん重要です。主要都市の所得水準はジャカルタ、マニラ等ASEAN諸都市に劣りませんが、州別の一人あたりGDPには600~6,000ドル前後と10倍近くの格差があります。各州政府の自治による連邦制ですが、政情は比較的安定しています。2024年の総選挙では、モディ首相率いるインド人民党(BJP)を中心とする連立政権の維持が有力と考えられます。人口は14.2億人で23年には中国を抜いて世界1位になる見通し。平均年齢は29才、年齢の中央値は27.9才で、今後も人口ボーナスが続きます。
20年度はコロナ禍により41年ぶりのマイナス成長(-6.6%)を記録しましたが、21年度は経済活動の正常化によりV字回復(+8.7%)を果たし、22年度も+6.8%と予測されています(インド準備銀行)。現在の一人あたり所得水準は、日本の70年代、タイの90年代に相当しますが、GDPは近い将来に日本を抜き、中・米に次ぐ世界3位となる見通しです。
富裕層(年収$35,000超)から上位中間層(同$15,000超)が薄く、日本製品も浸透しているとは言えませんが、CoCo壱番屋、無印良品、ユニクロ等、食品・衣料を中心に日系企業の進出例も増えつつあります。スマホはXiaomiはじめ中国系が7割近いシェアを持ちますが、エアコンではダイキン、日立、三菱電機等、日本メーカーも健闘しています。自動車販売は22年度に乗用・商用合計で4.6百万台、日本を抜いて世界3位となりました。スズキが25年のEV投入を発表、スズキ・デンソー・東芝でリチウムイオン電池の生産工場設立を進めるなど、EV生産拡大に向けた動きも具体化しています。中間層の拡大が耐久消費財の需要増、引いては経済成長の鍵を握ることは間違いありません。
2014年に発足したモディ政権は、製造業振興に向け「Make in India」を推進。電子機器・部品をはじめ14業種を対象に大型インセンティブを打つと共に、2021年には半導体産業の誘致・育成を図る政策パッケージを導入しました。インド資源大手ベダンタと鴻海(ホンハイ)合弁の工場設立や、タタグループの半導体参入等の成果が挙がっています。デジタル化の推進にも力を注ぎ、スマホ一つで決済や診察が可能となるIDカード「アタール」の登録が11億に達する等、社会を大きく変えつつあります。
コロナ禍で中国経済が停滞し、米中関係も悪化する中、インドのスタートアップ企業に資金が集まりました。インドの主要ユニコーン100社のうち8割は20年以降に生まれたもので、2022年の投資額は460億ドルに上り、米中に次ぐ世界3位のユニコーン数を誇ります。スズキをはじめ、インドとのコラボによるスタートアップ開拓に取り組む日本企業も出始め、さらには日本からインドに進出するスタートアップも見られるようになりました。かつてのインドはITのアウトソース先として強くイメージされていましたが、現在では多くの高度人材、技能人材を輩出しており、シリコンバレーと結びついてグローバルをめざす人材も増えています。モディ首相の下でインフラ整備や業務の電子化等、ハード的な課題は改善しつつあり、今後も確実に変わってゆきます。ポスト・チャイナとして認知されるにはまだ時間を要しますが、国として高いポテンシャルを持つことは間違いなく、日本としても今後さらに関係を深めてゆくことが求められます。」
講演後は、各社の経営課題にも関わる活発な質疑応答・意見交換が行われました。前職(19~22年にニューデリー事務所長・インド総代表)のご経験に基づく現場実態の分析、具体的な事例説明により、最新の動向に理解を深め、進むべき方向性にヒントを得る有益な講演となりました。