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活動報告関西支部

JEITA 2022技術セミナー

関西IT・ものづくり技術委員会では9月9日(金)、「社会を変革するDXの未来図を覗こう~メタバースからデバイス、そしてスマート農業~」をテーマにハイブリッドで標記セミナーを開催しました。大阪・西梅田の「毎日インテシオ」を会場に、3年ぶりのリアル開催となりました。

山本悌二 委員長(村田製作所)より開会挨拶の後、以下の3講演を行いました。

創発する都市とバーチャルビーイング(基調講演)

大阪大学グローバルイニシアティブ機構 招聘研究員、
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)
大阪パビリオン推進委員会ディレクター 
佐久間 洋司 氏

「メタバース」の定義は確立していませんが、無限に継続、同期的(ライブ)、ユーザ数は無限、さらに、完全に機能する経済を持つ、等がポイントになります。代表的な例として、フォートナイト(小中学生に人気のバトルロワイヤルゲーム)、マインクラフト(ユーザーによる創作・交流が可能なゲーム)、ロブロックス(ゲームの作成・発信に特化)等が知られています。成否の鍵は、いかにユーザーとクリエイターを集められるか、にかかります。今後の進化の方向性としては、①エンタメの延伸(ゲームにクリエイターを巻き込み、経済性を加える)、②SNS×アバター・VR(SNSを基盤にアバター機能の拡充やバーチャル空間を活用)、③メタバース志向のメタバース(新たな技術・思想のメタバースにイノベーターを集める)、等が考えられます。
万博関連のプロジェクトとして「バーチャル大阪」と「バーチャル大阪館(仮称)」を推進しています。前者はKDDIを中心とするコンソーシアムが運営し、「創発する都市」をテーマに、バーチャルな空間で参加型のイベントを提供してゆきます。大阪のさまざまな場所の特徴を再構成してバーチャルなエリアを作り、SNS等から「わたしの思う大阪」のコンテンツを表現してもらうことで、大阪の新たな魅力を創造・発信したいと考えています。後者は、日本国際博覧会大阪パビリオン推進委員会傘下で、「未来のバーチャル・ビーイング」をテーマに推進します。「わたしを知り、あなたを知る。わたしたちの調和のために。」をビジョンに、メインコンテンツとして「Virtual Avatar」と「Virtual Novel」を用意しています。「Virtual Avatar」は、生体情報を活用した診断コンテンツとアバター生成アプリを通じ「本当の自分」への目覚めを促す、「Virtual Novel」は、ノベルを基軸とするメディアミックスにより、他者の人生を追体験し、共感や思いやりを促すものです。25年の万博でリアル設置される「大阪パビリオン」と連動するコンテンツも含め、新たな世界で新たな身体による暮らしに思いをはせるプログラムを提供したいと考えています。

ウェアラブルとバーチャルの融合~XR社会の展望~

神戸大学大学院工学研究科 塚本昌彦 教授

ポストスマホの本命であるスマートグラスでは、中国の動きが非常に活発です。業務用ではRealWearやVUZIXが先行していますが、価格をはじめ、課題も多く抱えています。個人向けで、スマホやPCの視聴用途が広がりを見せる一方、イベント向けのARグラスには使い勝手に改善の余地が残ります。
スマートウォッチの普及率は、米国の45%に対し日本はまだ10%程度で、大きな差があります。Apple Watchは4千万台/年ペースで売れており、これを中国勢と、直近ではインド勢が急追しています。日本メーカーは大きく出遅れていると言わざるを得ません。
ウェアラブル市場は、台数で過半、金額でも半分程度をヒアラブル(耳装着型)が占めています。高価なAirPodsは台数でもトップ、これをSONYや中国勢が追っています。その他、指輪、アクセサリ、貼付け型等、多様なデバイスがあり、ヘルスケア・医療を中心に立ち上がっています。貼付け型はスポーツ、医療・介護、ベビー用等に広く展開、今後はAIとの組み合わせによる高度化も期待されます。
ウェアラブルカメラについては、プライバシー対応をはじめ多くの課題解決が必要です。Xiaomiは中国国内で5千万画素・光学5倍ズームカメラをスマートグラスに搭載しており、AIを組み合わせれば会話内容を遠距離で読み取る等も可能となります。社会の発展に寄与する正しい使用が望まれる所です。
グラス、ウォッチ、ヒアラブル、その他いずれも今後の伸長は間違いなく、今は円安の追風もあるので、国内メーカーの再攻勢に期待したいと思います。

クボタのスマート農業の現状と今後の展望

(株)クボタ 飯田 聡 特別技術顧問

クボタは2020年に130周年を迎え、SDGsを追い風に業績は好調に推移、21年の売上は約2.2兆円、うち農機関連が1.5兆円弱を占めています。
日本の農業は就労者が減少する一方、1戸あたりの規模は拡大しています。儲かるビジネスへの転換、働き方改革による若者の参入促進、農村の活性化、気象変動に強く持続可能な農業が求められ、国を挙げて「スマート農業」が推進されている所です。
そうした中、クボタでは、データを活用した精密農業、自動・無人化、省力・軽労化をテーマに研究開発を進めています。農機とICTを連動した経営・栽培管理サービスである「KSAS」(クボタスマートアグリシステム)を14年に上市しました。コンバインに食味・収量センサを搭載し、圃場毎のバラツキを把握して、施肥設計や土壌改良に活用します。これまでに約2万のご加入をいただいています。
現在は、①圃場内の生育バラツキ把握→可変施肥(上市済)、②リモートセンシングによる生育・病虫害状況把握→可変追肥・施薬(実証中)、③水管理システムWATARASによる水管理の適正・効率化(上市済)、④気象予測を活用した栽培支援、の取り組みを進めています。今後は各種データの連携強化とAIの活用により、さらに高度な営農支援システムを目指してゆきます。
農機の自動・無人化では、20年以降、レベル2(有人監視での自動化・無人化)の開発を進めており、25年以降は学官と連携の下、レベル3(遠隔監視での無人運転)に取り組みます。スマート農業技術の開発・普及により、持続可能な農業の実現にトータルに貢献したいと考えています。
講演毎に活発な質疑があり、最後は山田昌子 支部事務局長の閉会挨拶により終了しました。参加は過去最多の297名(会場42名、オンライン255名)、アンケートでは約95%の方から好意的評価をいただき、大変有意義なセミナーとなりました。