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活動報告関西支部

5月度関西支部運営部会講演

支部運営部会では5月12日(水)にオンラインで開催した部会に(株)日本総合研究所 調査部 関西経済研究センター長の若林厚仁氏を招き、「世界経済の二極化にどう向き合うか~日本企業に求められる課題~」 と題する講演を行いました。

ウクライナ侵攻の影響

ロシアによるウクライナ侵攻の影響は長引きそうです。経済制裁の一環で、半導体はじめ軍事転用が懸念される製品を中心にロシアへの輸出規制が強化され、日本も約300品目につき規制を行います。
今後、世界経済においては、①一次産品の価格上昇、②サプライチェーンの混乱、③ロシア事業の停止、④ロシア貿易の減少、⑤金融市場の不安定化、が考えられます。原油、小麦の価格上昇は大きな影響を及ぼし、サプライチェーンではパラジウム、ネオンガス等、希少品の不足が混乱を招く恐れがあります。金融危機の可能性は大きくありませんが、新興国には、原油価格高騰による通貨安等が大きな影響を及ぼします。
IMFによれば2022年の世界経済は総じて堅調ですが、リスクとして、「戦争の悪化」「社会不安の拡大」「パンデミックの復活」「中国経済の悪化」「世界経済の二極化」「気候変動問題」等が挙げられます。

世界経済の二極化~サプライチェーンの再構築

ウクライナ侵攻をきっかけに、世界が民主主義と権威主義に二極化する懸念が拡大しました。リスクシナリオとして欧米vsロシア、米国vs中国、アジアvs中国、さらにいずれはロシアvs中国においても対立激化が想定され、結果として、①グローバル化の終焉、冷戦構造の再浮上によるサプライチェーンの見直し、②ロシア産エネルギーへの依存脱却に伴うエネルギー価格の高騰、③生産コスト拡大の結果、ディスインフレ(低インフレ・高成長)が終わり、スタグフレーション(高インフレ・低成長)に陥る可能性、が考えられます。
世界的に経済効率から安全保障へ優先度が移る中、日本も戦略物資を官民で共有、先端技術開発も強化します。米国とは半導体供給網の構築で合意、共同で最先端半導体の開発を進めます。今後、①戦略物資サプライチェーンの多様化・代替化、②技術輸出管理の徹底、③サプライチェーン上で日本が有する重要技術の外交利用、が課題となります。
中国については、2049年までに米国と肩を並べることを国家目標としており、現時点で米国と全面対立の可能性は高くありません。台湾について、米国は法的防衛義務を負わない「戦略的曖昧性」を保ち、3期目をめざす習政権も内政と経済の安定を優先するため、短期的な進攻は考えにくい所ですが、中長期的なリスクは続きます。
世界貿易額はこの3四半期でコロナ禍前の水準を回復しました。既に進んでいたサプライチェーンの分散・代替が寄与したと考えられます。今回の危機で、供給先の絞り込みや自国回帰の流れが強まりますが、経済的ショックへの耐性を弱める面もあります。新たな規制を踏まえつつ、サプライチェーンの多様性を保つことも重要です。
ウクライナ侵攻後の世界情勢をわかりやすく整理・解説、今後の対応を考える視点を提示いただき、たいへん有意義な講演でした。