「2022年度版実装技術ロードマップ」の発刊
~Society 5.0「国民の安全と安心」「Well-being」実現に向けた
実装技術の将来動向~
全体概要
2022年度版
実装技術ロードマップ
電子実装技術委員会Jisso技術ロードマップ専門委員会では、「2022年度版 実装技術ロードマップ」を2022年7月に発刊しました。本委員会は1997年に活動を開始し1999年に世界で初めての実装技術のロードマップを第1 版として世の中に出して以来、隔年ごとに発行してきました。しかし、本12版に至っては2019年からの世界的なCOVID-19拡大により、委員会活動の制限や縮小が予測されたため、予定していた2021年発刊を2022年発刊へと延期しました。
本ロードマップで取り上げた内容は、(1)注目される市場と電子機器群、(2)電子デバイスパッケージ、(3)電子部品、(4)プリント配線板、(5)実装設備となります。
今後注目すべき市場カテゴリーとして、『ヒューマンサイエンス、情報通信、モビリティー』に注目し、その中で重要な電子機器群を絞り込みビジネス・技術課題の抽出、解決策の提言をしております。また新市場・新材料・新技術として『エネルギー、次世代ディスプレイデバイス、ロボット、量子技術、接合材料』を取り上げました。
実装技術ロードマップは、最前線で活躍する実装技術専門家の予測やワールドワイドな市場・技術動向調査を基に、時代の変化への対応を展開した内容となっております。実装技術業界のみならず関連する材料・製造装置業界に対して、研究開発すべき技術のガイドブックとしてご活用いただき、新しい市場やビジネスモデルの創出の一助になればと考えます。
第2章 注目される市場と電子機器群
1.科学技術・イノベーションに係る国内外の動き
日本政府の取り組みとして、科学技術・イノベーション基本計画を解説しました。1996年に内閣府によりはじめて策定された5カ年中期計画であり、現在の第6期基本計画の概要を示しました。
2.電子機器群の分類と定義
【図1:注目される市場と電子機器群のカテゴリー】
新型コロナにより、検査・医療体制、公共交通・車移動手段、勤務形態などの変革が進み、ヘルスケア・メディカルなどのヒューマンサイエンスの重要性が増しています。また情報通信では、高速・低遅延・大量接続が可能な第5世代移動通信システム(5G)のサービスが開始され、IoTの新時代到来に加え、新型コロナ対応により拡大した業務オンライン化は、情報ネットワーク・OA 機器市場拡大を加速しています。さらに世界中でカーボンニュートラルが本格的に始動し、モビリティーでは電動化が一気に加速するとともに、脱炭素を実現する新エネルギー技術のロードマップが極めて注目を浴びるようになっています。これらの社会的背景を鑑み、本ロードマップでは、下記の4つのカテゴリーに分け、電子機器に関連する技術アイテムを選定しました。図1に2022年度版のカテゴリーを示します。
3.ヒューマンサイエンス
本節では、人間にかかわる諸事象を探求する諸科学をヒューマンサイエンスとし、ヒトの生命力を維持・増強する、ヒトの能力を超越するの2つに区分して、ヘルスケア、メディカル、人間拡張の分野に分け、探求するテクノロジーを再位置付けしました(図2参照)。
■ヘルスケア:
ウェアラブルデバイスは、技術の進化が大きいメディカル関係の「腕時計型」に注目し、デバイスのヘルスケアセンサや実装比較について解説しています。
■メディカル:
手術支援ロボットは、医療現場の課題解決の一つとして期待されている遠隔治療・手術を実現するためのICT/機器・技術(手術支援ロボット、AIなど)の動向・現状・事例などについて解説しました。マイクロ流体デバイスは、手のひらサイズの自己完結型のデバイスで、新型コロナウイルス検査のPCR検査にも応用されており、デバイスの概要・構造・材料・製造方法・応用例について解説しました。感染症とPCR検査/迅速検査は、方式や原理、検出・換算方法などについて分かりやすく解説しました。生物学と電子工学の融合技術であるバイオセンサは、デバイスの生体由来材料の種類と特徴や検出した情報を信号に変換する信号変換技術に関して、さまざまな種類・方式・原理と概要を解説しています。
【図2:ヒューマンサイエンスの分類】
■人間拡張:
五感センシングは、触覚、嗅覚、味覚および感覚の複合であるクロスモーダルのセンサ関係を取り上げ、センシングの種類・方式・原理と概要を解説しました。脳科学は、脳で考えたことを運動機能に指示するためのBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)について、脳波を見る非侵襲の検出方法である脳電(EEG)および脳磁(MEG)のセンサ・計測方法とその事例について解説しています。
4.情報通信
【図3:ICT市場における分類】
2020年から猛威を振るったCOVID-19の終息が望まれるものの、ウィズコロナと呼ばれる通り感染症が流行する中で、いかに経済活動と感染予防対策を進めることが世界各国における重要な課題となっています。情報通信技術の活用により2030年代には、サイバー空間とフィジカル空間の一体化がさらに進展し、COVID-19のような新たな感染症の流行や、昨今の気候変動にともなう台風・洪水被害の拡大、地震や火山活動など大規模な自然災害の発生などフィジカル空間に不測の事態が起きた場合であっても、サイバー空間を通じて生活や経済活動を円滑に維持できるレジリエントな社会の実現が求められます。情報通信技術はウィズコロナ時代において、人々の生活基盤として持続可能な地球環境と国際社会の構築にも大きく貢献するものと期待されます。さらに人の生命保護を前提にサイバー空間とフィジカル空間が完全に同期する社会へと向かう不可逆的な進化において、新たな価値創出の分野として期待されています。
ICT市場における分類(コンテンツ・アプリケーション、プラットフォーム、ネットワーク、端末)を図3に示します。本節では、2.4.1情報通信概要、2.4.2データセンターサーバ、2.4.3モバイルデバイスとしてスマートフォン等のモバイル通信インフラ、VR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)/MR(Mixed Reality)について解説しています。
5.モビリティー
【図4:次世代モビリティーのテクノロジー】
自動車業界は100年に一度と言われる大きな変革時期を迎えており、これまでとは異なる業界からの新たなプレーヤーも加わり、急激な技術革新が進んでいます。さらに世界中でカーボンニュートラルの気運が高まり、空・海を含むモビリティー業界のCO2削減への取り組みが加速しています。
本節では、モビリティー産業の今後を占ううえで、自動車産業を中心に、空モビリティーにも照準を当て次世代テクノロジーの調査を実施し、解説しました(図4参照)。2.5.1では、モビリティー産業を取り巻く環境と世界的な規制・方針を解説し、2.5.2自動運転・遠隔操作では、運転自動化レベルの現状を紹介し、LiDAR、カメラなどの最新電子機器の開発動向と実装例を解説しています。
2.5.3電動化技術では、国際的な自動車カーボンニュートラル化方針とライフサイクルアセスメント概念を紹介した後、開発競争が激化している、電動パワートレイン、機電一体化、インバーターの最新開発動向を調査解説しました。また、電動化に不可欠な充電インフラの開発動向に加え、水素/e-Fuelパワートレインも取り上げました。さらには、COVID-19の大きな影響を受けている航空機業界の今後のシナリオ、空飛ぶクルマでは、電動垂直離着陸機(eVTOL)を中心に、国内実証試験を含む最新開発動向を解説しました。
2.5.4EMCとノイズ対策では、電動化による電磁波の低周波化と高速・大容量通信による高周波化が、ノイズ・誤動作を顕在化していることを解説し、具体的な対策例を報告しています。
2.5.5日本のモビリティー産業界への提言では、次世代電池、V2X(Vehicle-to-everything)、VPP(バーチャルパワープラント)などの開発推進を提唱しています。
6.新技術・新材料・新市場
【図5:スマートエネルギーシステムの世界観】
地球規模の世界的な人口増加、経済の発展にともない、SDGs(Sustainable Development Goals: 持続可能な開発目標)への取り組みとして、地球環境に対する人類の行動変化が求められています。その中で、地球温暖化問題の解決に向けたCO2などのGHG (Green House Gas:温室効果ガス)の削減への取り組みが、地球規模で始まっています。本節では、CO2削減の主役であるエネルギーシステムについて解説しました(図5参照)。
一方、COVID-19のパンデミックにより、将来の予測が難しいVUCA(Volatility:変動性、Uncertainty: 不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性) と表現される時代の中、日本では、人口減少・高齢化とともに労働力不足が懸念されています。自動化やロボット化は、人から機械への代替ではなく、人間の可能性の拡張であると考えられ、軽量化、ソフトロボット化などにより、そのロボットがより身近なところで活用する開発も進行しています。
また、インターネットの普及により、情報が溢れるような世の中になり、多彩なディスプレイによりその情報がさまざまな生活空間のいたるところに表示されています。溢れる情報を高速に処理し、より高いセキュリティを確保するために、量子技術の発展も期待されています。さらには自動車の電動化では、高出力・高効率を実現できるWBG(Wide Band Gap)半導体デバイスの適用分野がより増加すると考えられ、先端半導体パッケージでは、高性能化、高出力密度化の実現に向けて、次世代の接合技術の開発が期待されています。
これらの背景により、2022年度の新技術・新材料・新市場では、「エネルギー」、「次世代ディスプレイデバイス」、「ロボット」、「量子技術」、「接合材料」に関する調査と将来の展望を解説しました。
第3章 電子デバイスパッケージ
【図6:CPSにおける端末、エッジコンピューティング、クラウドコンピューティング】
【図7:各種パッケージの動向】
本章では、CPS(Cyber-Physical System)の進展に向けて多様化が加速する電子デバイスパッケージという副題で、CPSにおける端末側のウェハレベルパッケージ、パネルレベルパッケージ、クラウド側のシステムインパッケージの2.1D/2.3D/2.5D/3D(Chiplet, Hybrid bonding)に加えて、車載デバイス、RFデバイス、光デバイス、MEMS、CMOSイメージセンサ、ディスプレイデバイス、電磁シールドの最新技術を盛り込んだ内容としています。特に、端末側では5G (Sub6) /5Gミリ波デバイス、CMOSイメージセンサ、ディスプレイ向けMicro LEDに関して新たに記述し、クラウド側では、光通信での光電変換パッケージ(Si Photonics)に関して新たに記述し、各パッケージに関する新規実装技術/基板技術について拡充しています(図6参照) 。さらに、レガシー技術のワイヤーボンディング技術、フリップチップ技術、バックグラインド/ダイシング技術、封止技術の動向を継続的に記載しています(図7参照)。
第4章 電子部品
【図8:MLCCのサイズ別構成比率の推移と予測】
今版の第4章 電子部品は、実装技術に関連する受動部品であるインダクタ、コンデンサ、抵抗器とEMC部品を「SMD部品」と「基板内蔵部品」に再構成し、「コネクタ」を加えた3節として記述しています。
1.SMD部品
本節では、実装技術の切り口で「チップサイズトレンド」、限られたチップサイズの中での部品の「技術動向」と、これらに加えて「部品実装・設計時の注意点」を整理しました。SMD部品の小型化を牽引してきたMLCCの動向を見ると、小型チップサイズへの世代交代のスピードは鈍化していることが分かります(図8参照)。超小型の0201サイズは2030年においても構成比率は10%に届かず、0201サイズの次世代小型サイズの登場はしばらく先になる見込みです。
「部品技術動向」では、限られたチップサイズの中でそれぞれの部品の性能向上の技術動向について解説しました。事例としてインダクタのインダクタンス値の向上、MLCC単位体積当たりの静電容量値の拡大や低ESL化、抵抗器の定格電力値の向上などを解説しました。MLCCの低ESL化や抵抗器の高定格電力化には、LW逆転型・長辺電極型が有効であることも紹介しています。
「部品実装・設計時の注意点」では、SMD部品の実装時や設計時の課題と対策を代表的な事例を挙げて、「熱設計」「電気性能」「信頼性」「実装」に整理して解説しました。
「熱設計」ではチップ抵抗器の小型化・高密度実装と部品の高電力化とともに熱問題が増加しており、課題と対策を整理しました。「電気設計」では高密度実装時に留意すべき点を、チップインダクタと3端子貫通型フィルタを事例に紹介しました。「信頼性」では、①車載用途で課題となる振動対策、②MLCCのクラック対策、③抵抗器の電蝕対策を発生原因とともに、部品側の対策と利用者側の対策を紹介しました。「実装」はチップ立ち、最適なはんだ量の設定とスルーホールリフロー対応コンデンサを紹介しました。
2.基板内蔵部品
本節では、基板内蔵のニーズが高い電子部品としてコンデンサを取り上げ、「薄型キャパシタ」と「シリコンキャパシタ」を解説しました。「薄型キャパシタ」はCPUやMPUの高機能化に伴ってパッケージ内に埋め込まれており、その応用例なども紹介しています。「シリコンキャパシタ」についても、構造や応用例を解説しました。
3.コネクタ
本節では、実装技術に関連する指標として端子間ピッチの動向を、基板対基板コネクタを事例に紹介しました。小型先端性能コネクタの端子間ピッチは0.3mm未満の領域になっており(図9参照)、実装技術でも先端エリアです。
【図9:小型先端性能コネクタの端子間ピッチの動向】
またコネクタでは、Society 5.0社会を支える高速大容量通信インフラストラクチャーを構成する重要な部品として注目されている「光コネクタ」を取り上げて解説しました。
4.まとめ
SMD部品のチップサイズの小型化スピードは緩やかになるも、限られたサイズの中での性能向上開発が深化しています。なお、電子部品WGの母体である部品技術ロードマップ専門委員会では「電子部品技術ロードマップ」を編纂発刊しており、こちらも参考として頂ければ幸いです。
第5章 プリント配線板
【図10:プリント配線板の技術マップ】
本章で解説したプリント配線板は、日本電子回路工業会発行の2021年度版プリント配線板技術ロードマップから抜粋したものであり、詳細はそちらをご覧頂ければ幸いです。
部品内蔵技術を用いたプリント配線板への機能集積の範囲は、従来からの能動部品と受動部品だけでなく、パワー半導体デバイス、MEMS/センサ、光導波路、および放熱用のマイクロチャネルなどへと拡張しています。プリント配線板への集積可能な機能の増加とそれによるフットプリントの小型化、配線距離の短縮と電気特性の改善などは電子機器の搭載場所の制限を緩和するだけでなく、はんだ接続箇所の削減による信頼性の向上にも貢献します。本章では機能集積プリント配線板の事例や市場性について解説し、加えて5Gや高性能コンピューティングでの高速信号処理に用いられるプリント配線板技術についても説明しています(図10参照)。
第6章 実装設備
【図11:M2Mデータ連携を活用した精度維持機能の例】
本章では実装設備の動向について解説しています。まず冒頭、コロナ禍によるモノづくりへの影響について概説し、課題として顕在化した人依存のモノづくりからの脱却に関して、近年注目されているスマートファクトリー化の動向を交え解説しています。次に生産性の現状と今後の見通しに触れたあと、本章の特徴である全世界の設備ユーザーアンケートの結果を基に、印刷機、マウンタ、リフロー、検査機、フリップチップボンダ各設備に対する市場の要求順位と各設備の対応事例について紹介しています。
実装設備で基本となる生産性と精度については、スマートフォン、デバイス分野を中心に狭隣接実装のためのさらなる高精度化要求が高まってきたことを受け、マウンタの速度指標cph (chips per hour)を従来精度(±40~35μm)と高精度(±25μm)の2条件で示しています。従来精度においては現在57,500cphと2017年比15%の高速化、高精度においては50,000cphと2017年比、速度を落とさずに高精度化が進んでいます。アンケート結果では各設備への共通要求として高精度化と精度維持の自動化が上位となっておりますが、設備単体の進化に加え、検査機の結果を印刷機やマウンタへフィードバック、フィードフォワードするM2M(Machine to Machine)データ連携機能によりその対策を図る事例が増加してきています(図11参照)。
末尾のトピックスでは、2021年より顧客での実運用が始まったグローバル通信標準規格SEMI SMT-ELSについて、概要と規格標準化によるメリットを解説しています。