Activity
活動報告関西支部

JEITA 2021技術セミナー

関西IT・ものづくり技術委員会では10月8日(金)に「未来社会に向けて環境とデジタルを考える」をテーマとする「技術セミナー」をオンラインで開催しました。昨年はコロナ禍で中止したため、開催は2年ぶりとなります。

これからのカーボンニュートラル都市

清水広之 委員長(三菱電機)の開会挨拶に続き、大阪大学大学院の下田吉之 教授より基調講演を行いました。パリ協定採択(2015年)後のカーボンニュートラルに向けた世界の動きと、2030年における日本の削減目標の紹介に続き、下記内容の講演がありました。
脱炭素社会の実現には、カーボンフリーエネルギーの供給が、年間トータルだけではなく瞬時瞬時において、エネルギー需要と均衡する必要があります。カーボンニュートラルをめざす日本の戦略においては、産業(ものづくり)と民生・運輸(まちづくり)を分けて考えることが重要です。ものづくりにおいてエネルギーの消費を大幅に削減するには、非連続なイノベーションが不可欠である一方、まちづくりにおいては、利用可能な最良技術(BAT=Best Available Technology)を着実に実行することで、エネルギー消費を半分程度に削減することは十分可能です。ただし、2050年までに根本から街をつくり直すことは不可能で、今後は、モビリティを含めたbeyond 2050のまちづくりが求められます。
一方、再生可能エネルギーには変動がつきもので、電力システムにおけるその増加は、系統全体における周波数の維持と、配電系統における電圧のコントロールに課題を生じます。需給を安定させるためには、電池の十分な活用に加え、需要側の協力が欠かせません。
また、スマートコミュニティについて、オランダ、オーストリアの事例が詳しく紹介されました。電気の有効利用に加え、エネルギーの「面的利用」、交通システムの高度化、市民のライフスタイル変革等を複合的に組み合わせた次世代エネルギー・社会システムの概念で、エネルギー、都市・建築、機器・システム、情報関連から行政まで、多様なプレイヤーが関わります。
本講師は、2025年日本国際博覧会協会に設置された「未来社会における環境エネルギー検討委員会」の座長も務められています。大阪・関西万博は、市民に脱炭素社会の到来を告げ、魅力的な脱炭素社会のデザインを示す機会として大きな意義を持つことから、同委員会は、大阪・関西万博がめざすべき環境エネルギーのあり方やその方向性、具体的な技術分野について検討を進めており、本年6月の中間取りまとめ「EXPO 2025 グリーンビジョン」の内容が報告されました。

ZEBに対するダイキン工業の取り組み、
また実物件におけるDXの実施例について

ダイキン工業(株)松井伸樹 氏より講演がありました。ZEBは、光熱費の削減のみならず、健康・快適性、知的生産性、企業価値・不動産価値、事業継続性等、すべての向上につながります。取り組み事例として、同社のテクノロジー・イノベーション・センター(TIC、2015年竣工)、福岡ビル(2017年改修)、臨海1号工場(2018年建替)が紹介されました。
TICは、それまで各拠点に分散していた開発技術者約700人を集約し、協創による技術イノベーションをめざす研究開発拠点としてオープンしました。当初のエネルギー削減目標は、基準のビルと比較してビル全体で▲70%(コンセント除外で▲77%)、空調で▲76%と設定されましたが、竣工後、ビル用マルチエアコンの開発・導入(空冷で従来システムに対し▲86%、水冷で▲70%)、照明採光技術の導入(基準ビルに対し▲82%)により改善が重ねられています。また、実測データを、仮想空間における運用結果予測と比較することで、据付・運用・制御上の課題を把握、調整を行いました。その結果、導入翌年の2016年度には、ビル全体で▲74%(コンセント除外で▲90%)と、目標を上回る成果が挙がっています。
また、室内環境についてもSAP(知的生産性評価システム)による評価や研究者に対するアンケートの結果、集約前の製作所と比較して執務・居住環境の改善が確認されています。
中小規模ビルのZEB化を目指した福岡ビル、生産現場の環境改善を目指した臨海1号工場を含め、これらのプロジェクトで獲得した技術を商用化し、グローバル展開することで、カーボンニュートラル社会への貢献を図りたいと考えています。

国際水素サプライチェーン構築に向けた取り組み

川崎重工業(株)小山 優 氏より講演がありました。水素はさまざまな資源から製造が可能で、調達先の選択肢も多岐にわたります。電気に比べ、輸送、保存、セクター間の融通も容易で、エネルギー安全保障やレジリエンスの観点からも重要性が増しつつある中、日本は水素エネルギーの社会実装と政策において世界をリードしています。
同社は世界で唯一、水素を「つくる」「はこぶ・ためる」「つかう」サプライチェーン全体の技術を有し、CO2排出を抑制しつつエネルギーを安定供給する「CO2フリー水素チェーン」の構築に取り組まれています。具体的には、豪州で安価な未利用資源である褐炭から水素を製造、液化して運搬船で日本に運ぶ実証プロジェクトを、日豪両政府、民間各社と進めており、その現状について詳しい説明がありました。2020年までにプロトタイプ規模(商用レベルの1/100程度)のパイロット実証で、褐炭からの水素製造、長距離・大量の海上輸送に関する実証を行いました。今後は、2022年までに各種タンクやローディングシステム等関連機器の大型化について技術開発を進め、20年代半ばの商用化実証を経て、2030年前後の商用化を目指します。また、「カーボンニュートラルポート(港湾)」や、大阪・関西万博に向けた取り組みについても紹介がありました。 
最後に山本悌二 副委員長(村田製作所)より閉会挨拶を行い、セミナーを終了しました。
今回の「技術セミナー」はコロナ禍の下、初めてのオンライン開催となりましたが、過去最多となる267名の参加をいただき、アンケートでは90%以上の方から好意的な評価をいただきました。質疑応答も活発で、大変有意義なセミナーとなりました。