9月度関西支部運営部会講演
関西支部では、9月15日(水)にオンラインで開催した運営部会に、(株)ナカニシ自動車産業リサーチ代表の中西孝樹氏を招き、「アフターコロナの自動車産業と次世代自動車の未来図~ものづくりの新たな競争力を考察する~」と題する講演を行いました。
CASE/MaaS概論
CASEの進展に伴い、自動車産業のバリューチェーンにはサービスによる新たな川下が生まれ、スマイルカーブ化が大きく進みます。製造の水平分業化は避けられず、競争力の源泉は台数・規模からデータ・プラットフォームに移り、プラットフォーマーによる支配が強まります。
2030年の世界新車販売(台数)において、電動車両(ハイブリッド、プラグインハイブリッドを含む)は6割を超える一方、共有車両による移動のシェアは高くても1割強と予測しています。ADAS(先進運転支援システム)/AD(自動運転システム)の装着率は8割弱に上り、その7割はLevel 2ですが、Level 4も400万台規模に達する見込みです。パワートレインでは、B(バッテリー)EVの比率が2割強に上る一方、プラグイン以外のハイブリッドも3割台半ばと一定のシェアを保つでしょう。
新型コロナがおよぼす自動車産業への影響
グローバルの新車需要はコロナ禍の落ち込みからV字回復を果たしましたが、長期の成長力は衰えを避けられず、2030年に1億600万台に達した後は高原状態に移ります。脱炭素とデジタル化で自動車のニューノーマルが形成される中、移動機会・手段の質的な変化に対し長期的な手を打つ必要があります。主要メーカーでは、CASE/DXの推進に合わせ、内部のコスト構造と外部の事業構造の再構築に取り組んでいます。
カーボンニュートラル(CN)と環境規制の動向
「欧州グリーンディール」は、ライフサイクルでの脱炭素を国家・企業の競争力に結び付ける包括的な成長戦略です。自動車関連では国境炭素税の導入、ハイブリッド車の販売禁止等により、欧州優先の姿勢を打ち出しています。米国は、巨額の補助金により電源と自動車排ガスのゼロエミッション化を進めますが、補助の対象は米国内の組合化された工場に限られ、日系メーカーは大きな影響を受けます。
日本の「グリーン成長戦略修正改定版」(2021年6月)は、新車販売の電動化(ハイブリッドを含む)・カーボンニュートラル化(e-Fuelの使用を含む)を経て、2050年に全既存車のカーボンニュートラル化を目指します。内燃機関を持つ既存車両のアップグレードと燃料のゼロカーボン化が不可欠です。燃費規制も含めると、各社は2030年に全新車販売のハイブリッド化、あるいは2割程度のBEV化を求められることになります。
各社の電化戦略
VWは、バッテリー事業の垂直統合と充電・エネルギーマネジメントを含めたバリューチェーンの再構築を柱に、LCAベースでのカーボンゼロにコミットしています。2025年に投入予定の新プラットフォーム「SSP」は3S(シンプル、標準化、スケール)を特徴とし、ソフトとハードの分離が可能で、EVシフトの強固な参入障壁となるでしょう。
トヨタのZ(ゼロエミッション)EV(=BEV+燃料電池車)比率は2030年にグローバルで2割。欧州・中国ではBEV、北米ではハイブリッドを中心に拡大を図ります。ホンダは当面GMとのアライアンスで電動化を進め、自社開発のプラットフォーム導入は2027年がめどとなります。電池調達については主要各陣営とも2030年に200~250GWhと積極的な計画を掲げています。
2030年におけるEVプラットフォーマーを考えると、まだ垂直統合型(テスラ、トヨタ等)が主流を占めるものの、Appleを筆頭に、MaaS(REE、CANOO等)や受託製造(MAGNA、FOXCONN等)において多様な事業構造が生まれることは間違いありません。
モビリティ産業への転換と新たなハード、ソフトの競争領域
自動車産業は、ものづくりからモビリティ産業に転換しつつあり、コネクティッド基盤の確立と、そこからいかにバリューチェーンを再定義するか、の争いとなります。インカー(車両制御データ)とアウトカー(外部サービス、MaaS)が中央集中型アーキテクチャによるプラットフォームでつながれ、バリューチェーンは車両・移動から暮らし・街へと拡がってゆきます。従来の自動車は「走る・曲がる・止まる」の各領域でソフトとハードが統合されて開発が進み、アップデートのサイクルも決まっていました。今後は、Vehicle OSによりソフトとハードが切り離され、アーキテクチャとエコシステムはスマホと同様の状況となります。ソフトウェアは常時アップデートされ、ハードウェアのライフサイクルにも変化が生じるでしょう。スマートシティやモビリティサービスのプラットフォームとつながることで、自動車産業には既存の倍とも言われる新たな巨大市場が生まれ、エレクトロニクス産業にとっても大きな期待が広がります。
新たなアーキテクチャを大規模・効率的に供給できる主要メーカーでは、内製・垂直統合の構図が保たれますが、一方でMaaS車両には全く異なる要件が求められます。今後10年間は、主要メーカーに加え、MaaS車両供給事業者(垂直・水平バランス型)、製造受注事業者(水平分業型)の3者が並存する状況となり、単純に垂直統合から水平分業にシフトするということではありません。
まとめ
各国・地域の経済政策に脱炭素が組み込まれる中、自動車産業は地産地消型のビジネスに傾いてゆきます。日本メーカーには、電動化時代に適した産業構造への転換と共に、海外ローカルへの展開強化が求められます。燃料電池、e-Fuelエンジン、水素エンジンについても、取り組みを続ける必要があります。
電動化はデジタル化と並行して進み、内燃機関から電池+モーターへの単なる置き換えではありません。EVの普及が本格化するためには、アーキテクチャが変わり、自動車がデジタル商品となって購買へのモチベーションが高まる必要があり、その分水嶺は2025年と考えています。
事前に寄せられた多くの質問に対する回答も含め、変革する自動車産業とそのエコシステムを、コロナ禍やカーボンニュートラルの影響を含めて理解する貴重な機会となりました。