2020年新春特別講演会
関西支部・部品運営委員会および新分野・異業種研究専門委員会では1月20日(月)に大阪の中央電気倶楽部にて新春特別講演会を開催しました。
部品運営委員会・坂本委員長
最初に部品運営委員会の坂本委員長(パナソニック(株)専務執行役員)より「年頭挨拶」を行いました。
2019年の部品市況は、米中貿易摩擦から設備投資が冷え込み、低迷が続きました。
車載関連は内燃車全体で前年比93~94%と大幅に落ち込んでいます。裾野の広い自動車の不振は各分野に影響し、産業全般に2~3ポイントの下振れを招いたと見られます。電子部品出荷は18年12月から前年割れが続き、1~11月の累計は前年比94%。中国は11月に13ヶ月振りで前年を上回りましたが、米国は10年サイクルと言われるリセッションに警戒を要します。
グローバルのマクロ経済は成長が続きますが、先進国は減速傾向で、中国も6%割れ、場合によっては5%台前半も懸念されます。基本的には各分野とも回復基調に移ると思われますが、車載については、欧州勢がディーゼルからEVへ移行する中、5年は伸びないという見方もあります。中国では、NEV規制にHVを含める改正案が昨年7月に発表された後、ピュアEVが一気に勢いを失いました。5Gは各国で進展が期待されます。特に中国は国策として基地局の拡充を進めており、着実な対応が必要です。半導体の回復を踏まえ、来年度半ばにはFAの持ち直しも期待されます。
今回のCESを視察した所、自動車関連ではCASEよりADASにウェイトが移りつつある様に感じられました。いろいろ会話した所では、自動運転の実用化はまだまだハードルが高く、レベル4~5実装車の出荷は2030年においても全体の2~3%にとどまるのでは、という見方もありました。一方で、スマートハウス関連の出展が非常に盛んでした。アイロボット創業者の言う所では「20年後に家をロボットにする」そうで、住む人の健康やセキュリティを家全体で支えていくとのことです。全体として、スマートモビリティ、スマートハウスに焦点が当たっている印象を受けました。
みずほ総合研究所・武内浩二氏
続いて、みずほ総合研究所(株)市場調査部長の武内浩二氏より「世界経済はどう動く?~2020年の注目点とリスクの所在~」と題して講演いただきました。
世界の景気は2020年後半から回復に向かうと見られますが、力強さはありません。下支え要因としては、①中国において段階的な政策調整により財源拡充が図られているインフラ投資、②在庫調整が進み、スマホ販売も下げ止まる等の兆しが見える半導体の復調、③主要国の多くが財政拡大に転換しているグローバルな金融緩和への傾斜、が挙げられます。
2020年の注目点はまず米通商政策です。米中貿易協議は、大統領選まで大きな動きはないと思われますが、両国の覇権争いは長期化し、知財保護や安全保障など多方面で「新冷戦」の様相が強まるでしょう。米国の対中技術規制が強化され、日本も米中デカップリングへの対応を迫られるおそれがあります。米EU間では通商摩擦の本格化が見込まれ、自動車の関税賦課による欧州の失速が懸念されます。日本も、包括的FTAに向けた交渉でTPPを上回る水準の要求を受ける可能性があります。次に米大統領選挙。景気後退の回避を前提にトランプ再選がメイン・シナリオですが、共和・民主の支持は拮抗しています。リベラル政権誕生の観測が高まれば、大企業増税、金融規制強化などの公約が市場を動揺させかねません。第三は気候変動。物理的リスク(自然災害による経済的損失)の拡大に加え、低炭素社会への移行リスク(低炭素化の投資負担、化石燃料等「座礁資産」の発生、事業転換による大量解雇等)による下押しが懸念されます。大企業における物理・移行リスクの総計は約1兆ドルにのぼるという試算もあります。第四は中国経済。失速は、米中貿易摩擦の他、経済減速に向けた施策の行き過ぎもあり、住宅価格の下落や中小銀行の破たんによる金融システム不安定化が懸念されます。新型コロナウィルスも、中国国民の移動量がSARS当時とは比べものにならない中、影響が拡大する可能性もあります。第五は中東情勢。本格的軍事衝突の可能性は低いものの、衝突が発生した場合は原油価格の高騰が予想されます。50%上昇すれば、世界経済に対する0.2~0.3%の下押しが見込まれます。第六は米金利上昇。グローバルな財政出動が続けば視野に入ってきます。インド、中国、インドネシア、メキシコ等への影響が特に懸念されます。世界的なマネー拡大で資金が資産市場に集まり、米国では信用力の低い企業への貸出残高が拡大、クレジットリスクが膨らんでいます。最後にポスト五輪の日本経済。五輪前の建設投資にそれほどの加速感はない一方、老朽化による更新には引き続き大きな需要があります。日本の観光競争力が着実に向上する中、訪日需要のさらなる取り込みも期待され、反動減は大きくない見込みですが、一方で、輸出は底を打ったものの景気動向指数は低下傾向にあり、投資減速や消費の弱さから低成長が続くでしょう。
世界経済の抱える多様な課題を明快に整理・解説いただき、本年の事業の方向を考えるにあたり大変有益な講演でした。
会場の様子