Activity
IoT事業推進部

自動走行システム研究会
活動報告会実施報告

2020年2月18日(火)に、JEITA 411-414会議室を会場として、先端交通システム部会・自動走行システム研究会の活動報告会を開催致しました。
2015年に発足した当研究会は、2017年にJEITA会員企業向けに発表会を実施しておりますが、一般向けには初めての機会となります。
2020年は、自動走行に関する実証実験から実用化の段階へと移る年であると位置づけ、当研究会のこれまでの考え方を広く知っていただき、これをきっかけに更なる議論を提起したいという想いから、本報告会の開催に至りました。

自動走行の社会実装に向けてJEITAが
考えることは

当研究会では、発足当初から自動運転車が一般道を走行することを想定して、これを成立させるための路車協調の方法、路側センサーのあり方を検討してまいりました。また、乗員(ユーザー)に対して不安を感じさせないインタフェースのあり方についても検討を行ってきました。
本報告会では、これまでの検討領域のうち、
・自動走行車や周囲の交通参加者の位置を特定するロケーションに関する課題抽出
・ユーザーを困惑させないための自動走行システムとの操縦権限移譲の考え方
・自動走行車に搭載される走行履歴・周囲の状況を記録するレコーダーに求められるスペックと、法律家による自動走行車の事故時の訴訟・仲裁におけるデータの有効性の解説
という4つのテーマにおける研究発表を行いました。
今回はJEITA会員社のほか自動車メーカー、Tier1企業といった自動車産業や、損害保険会社等の将来の自動運転産業に関わる顔ぶれを含む、105名の多くの方にご参集いただきました。ご参加ありがとうございました。

その車、今どこにいる?
~ロケーションの考察~

近年、カメラやレーザーセンサー(LiDAR)といったセンシング技術や情報処理AI技術等の目覚ましい進歩により、自動走行車の自律走行実現が着実に近づいて来ています。しかし、技術の進歩があっても、多くの対向車や交差点の死角から現れる車等、障害となりうるものと自車との位置関係を自車のセンシング能力だけで全て把握することは難しいと考えます。そのため、車同士が「正確な位置情報」を共有し、互いの「居場所」を把握できることが、安全なシステムとして望ましいと思います。
これを実現するためには、それぞれの車が、車載ロケータで測位した自車位置情報と、路側センサーが感知した車両や人、自転車などの位置情報を交換することが必要になります。また、遅延なく位置情報を交換するのには高セキュアな車車・路車間通信ができる環境が求められます。これらが実現されることで、自動走行車と、その周囲のあらゆる交通参加者の安全が担保されるのではないか、との趣旨の報告を行いました。

緊急停車も「0km/hで自動走行中」
~Human Oriented Driving Automationの考え方~

自動走行車が実用化されたとき、ユーザーは現在以上に移動中にさまざまなことをしたいと考えるでしょう。そのようなセカンダリアクティビティ中のユーザーに対し、自動走行車のシステム側から、「あと〇秒以内に走行制御を行ってください」と要求されたとき、スムーズに操縦権限が受け渡され、安全な運転が継続できるとは考えにくい、と思うのが自然なのではないでしょうか。自動走行車のユーザーに、このような状況に陥るような危険性を生じさせず、安心してシステムに走行を任せられるためには、以下の4つのポイント、Human Oriented Driving Automationコンセプト(JEITAコンセプト)に配慮されたシステム設計が必要ではないか、との報告を行いました。
・いかなる状況でもシステム側からの権限移譲は行わない
・いつでもユーザーはシステムの状況が把握できる
・ユーザーはいつでも自らの責任を伴って自動走行システムの運転に代わって手動で運転することができる
・周辺環境の変化によりシステムの能力の範疇を超えてしまう場合には、安全に停車し環境の改善を待ち、システムの能力の範疇内になればまた走行することができる(0km/hでも、制御はシステムが行っている)

データ記録装置が守るのは、
ユーザー?メーカー?
~レコーダーのスペックと記録データの法的な利活用~

自動走行システム研究会 中村主査(東芝インフラシステムズ)開会挨拶

自動走行システム研究会 中村主査(東芝インフラシステムズ)開会挨拶

SAE・LV3以上の自動走行車では、これまでの自動車には必ずいた運行責任者(ドライバー)が不在になり、責任の所在が曖昧になることによりさまざまな支障を来たすことになりかねません。そのような社会を見据え、2020年施行予定の道路運送車両法、道路交通法において、自動運転記録装置の装備が義務付けられることとなっており、その機能やスペックについて議論が進められています。
例えば事故が発生した場合に、ユーザーが何らかの操作を行ったことが要因なのか、車両そのものに異常が生じたことが要因なのか、回避できない突発的な状況に陥ったのか、ということを客観的に立証することためには、これまでのEDRやCAN等の車内の電気信号だけの記録では不十分であるだろうと考えます。これに加え、絶対時刻が付与された、自車の挙動や制御の履歴、自車および周囲を含む状況を記録した映像を含むデータを保持することが望ましいと報告しました。
また、これらのデータはその証拠能力保持の観点から、所有権は車両所有者にあって、現場でのデータ回収は、秘匿性を考慮されたうえで、特定の指定団体により分析されることが望ましいとも付け加えました。

模擬裁判法廷

模擬裁判法廷

さらに、このような機能が実装されている場合とそうでない場合の自動走行車が、回避困難な人身事故を引き起こしたとき、どのような点を訴追される可能性があるのか、またどのようにして責任の所在を立証するのか、またこのような紛争の解決、仲裁はどのように進められるべきかについて、自動走行社会に向けた法整備を日夜研究しておられる「明治大学自動運転社会総合研究所(所長:中山幸二教授)」に監修いただいた模擬裁判を通じての解説を行いました。
自動走行車が引き起こす事故責任を判定するにあたっての重要な観点として、自動車損害賠償保障法と製造物責任法の解釈が挙げられました。これらはユーザー保護の色合いが強いため、車両・部品メーカー側として、これらに反していないことを明示できる反証を確保していることが重要となります。そのために、絶対時刻つきデータとリンクされた映像データの有効性を、今回取り上げた事故モデルのCG動画を交えて解説致しました。
将来、自動走行車メーカー、モジュール・部品を供給するTier1企業や、そのサプライチェーンを構成する各レイヤーの企業が、上記のような記録装置のデータを活用し、正当な主張を行える見込みがあれば、過去の大規模リコールのような大きな損害を被る不安なく、新たな事業に積極的に参入できる後押しとなるのではと考えます。これにより業界が一層活性化するよう、今後もさまざまな場面でこの有効性を訴えて参りたく存じます。

※SAE・LV3:SAE International J3016で定義される運転の自動化レベルで、「条件付き運転自動化」とされる段階。システムがすべての動的運転タスクを限定領域において実行し、システムの作動が困難な場合には、システムに対しユーザーが適切に介入する必要があるとされている。
※EDR:Event Data Recorder エアバッグ作動のトリガーに連動して、トリガーを生じさせた事故前後の車両の状態を記録する装置。現在多くの自動車に搭載されている。

おわりに
~JEITA自走研の今後~

模擬裁判の事故モデルを示したCG動画

模擬裁判の事故モデルを
示したCG動画

裁判における電子的な証拠に関する解説(明治大学・柳川先生)

裁判における電子的な証拠に関する解説(明治大学・柳川先生)

新年度(2020年度)より、自動走行システム研究会はこれまでの検討組織を見直し、より実践的な議論・調査検討ができる体制を編成して参ります。また自動車部品・デバイス・半導体といったサプライチェーンの広がりをカバーする議論の必要性の高まりがありますので、今回の報告会を通じ当研究会にご興味を持っていただきましたJEITA会員企業の皆様に置かれましては、是非お気軽に担当のIoT事業推進部にお声掛けいただき、ともに議論をすることができることを願っております。
今後ともご協力、ご支援を何卒よろしくお願い申し上げます。