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技術戦略部

これからの日本の標準化の動向と政策
(「JEITAプリンテッドエレクトロニクスセミナー」より)

2020年1月29日に開催された「ナノテクノロジー展」(東京ビッグサイト)にて、「JEITAプリンテッドエレクトロニクスセミナー」(プリンテッドエレクトロニクス標準化専門委員会主催)を開催致しました。今回は、経済産業省の山本克己課長補佐にご講演をいただきましたので、講演資料に基づいて内容の一部をご紹介致します。

1.日本の“ものづくり”の状況

【Siemens(ドイツ)におけるスマート工場化向けソリューション展開】

【Siemens(ドイツ)におけるスマート工場化向けソリューション展開】

現在、日本のものづくり企業を取り巻く環境には、「第四次産業革命の進展」、「グローバル化の展開と保護主義の高まり」、「ソーシャルビジネスの加速」の潮流があります。我が国製造業は、今まで以上に高度で複雑な課題に取り組んでいかなければいけません。
各国においても、IoT等の技術革新を契機として、MaaSに代表されるような従来のものづくりの範囲を超える新たな顧客価値提供の動きがあり、異業種からの参入も見られます。既存の製造業でも、技術革新を契機として新たな顧客価値を提供する動きが拡大しています。

国内製造業においても、SDGsなどの世界の社会的課題に対して自社の強みを活かせると認識している分野(経済成長と雇用、エネルギー、インフラ・産業化等)も存在しています。今後は、こうした社会的課題への本格的な取り組みを通じて、モノの先にある真の顧客価値を実現し、ビジネスチャンスをとらえることが重要となります。

2.標準化をめぐる環境変化と最近の動向

【自動車専用道路自動運転システム】

【自動車専用道路自動運転システム】

単一車線内やレーンチェンジを含む、自動車専用道におけるレベル3自動運転システムの各種機能要件や評価方法を標準化。

【トラック隊列走行システム】

【トラック隊列走行システム】

■トラック数台を管理システムで制御し、数台のトラックが連なって走行するもの。省エネ効果や、ドライバーの負担軽減が期待できる。
■異なるメーカーの車両や、違う管理システムでも通信し、機能させる必要があるため、標準化が必要。
■日本から、通信や車間を保つ制御システムの評価方法などを、国際標準として提案予定。

標準化とは、「もの」や「事柄」の単純化、秩序化、試験・評価方法の統一により、製品やサービスの互換性・品質・性能・安全性の確保、環境保護、利便性を向上するものです。我々の身の回りには、標準化にまつわるものが多くあり、欠かせない存在となっています。
近年の事例として、サービスロボットの安全な運用に関する要求事項の標準化(JIS発行、ISO提案予定)により、ロボットサービスの普及に貢献していますし、小口保冷配送サービスの国際標準化(現在ISOで審議中)では、消費者の信頼性確保や物流事業者の国際競争力確保に期待されています。
スマートモビリティシステム関連では、自動運転や隊列管理などのシステムを国際標準化することで、自動運転車の普及に繋がり、自動車の燃費向上、排気ガス削減や、交通事故減少、渋滞抑制にも期待できます(ISO提案を検討中)。

【CPSF:H31.4策定(産業サイバーセキュリティ研究会)CPSFが示した『3層構造』】

【CPSF:H31.4策定(産業サイバーセキュリティ研究会)CPSFが示した『3層構造』】

また、サイバー攻撃は複雑につながるサプライチェーン全域に影響を与えるおそれがあるため、各国の多様なルールが乱立しないよう、適切な標準化が検討されています。日本企業の競争力強化に寄与する一要素になり得る「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」という、我が国発のコンセプトを標準化することで、サプライチェーンの海外展開を有利に進めることができます(IEC提案を検討中)。

3.企業が標準化に取り組む意義

標準化を通じて、以下のようなビジネス上の効果が期待できます。
①新市場の創造(認知度向上、新たな技術の客観的な証明)
②競争優位性の確立(分類化による差別化)
③市場獲得への環境整備(規制への引用、認証の取得)
国際規格の策定・改定や普及を戦略的に実施することにより、エアコン冷媒のインド事業で販売台数やシェアが拡大し、売上順位が首位に繋がったという企業事例もあります。
また、高機能液体容器の販売を行う企業では、開封後も内容物の鮮度を保てる液体容器を開発し、技術の特許を取得し、その技術の評価方法の標準化に取り組んだ結果、当該技術の信頼性を示すことが可能となり、当初取引のなかった業界からも引き合いがくるなど、新市場の創造・ビジネス拡大につながった、という例もあります。
国際規格化により国際市場への参入を実現した企業、新技術の普及拡大、新興国等での事業拡大に成功した事例など、戦略的な標準化活動をビジネスチャンスにつなげることが可能になっています。是非、標準化活動の重要性を十分認識し、企業戦略に活用していただければよいかと思います。