「2019年度版実装技術ロードマップ」の
発刊
超スマート社会Society 5.0の実現に貢献する実装技術の将来動向
全体概要
電子情報技術産業協会Jisso技術ロードマップ専門委員会では、「2019年度版 実装技術ロードマップ」を2019年6月に発行致しました(図表1参照)。ロードマップで取上げた内容は、(1)注目される市場と電子機器群、(2)電子デバイスパッケージ、(3)電子部品、(4)プリント配線板、(5)実装設備となります。
【図表1:2019年度版実装技術ロードマップ】
今後注目すべき市場カテゴリーとして、『情報通信、メディカル・ライフサイエンス、モビリティー』に注目し、その中で重要な電子機器群を絞り込みビジネス・技術課題の抽出、解決策の提言をしております。また新市場・新材料・新技術として『サーマルマネジメント、次世代ディスプレイ マイクロLED、次世代通信5G』を取り上げました。
実装技術ロードマップは、最前線で活躍する実装技術専門家の予測やワールドワイドな市場・技術動向調査を基に、時代の変化への対応を展開した内容となっております。実装技術業界のみならず関連する材料・製造装置業界に対して、研究開発すべき技術のガイドブックとしてご活用いただき、新しい市場やビジネスモデルの創出の一助になればと考えます。
第2章 注目される市場と電子機器群
1.電子機器群の分類と定義
2020年に向けて、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)基盤とも期待されており、高速・低遅延・大量接続が可能な第5世代移動通信システム(5G) のサービス開始が予定されています。それに伴いビッグデータ(Big Data:大量のデジタルデータ)が取り扱われ、データは「21世紀の石油」とも呼ばれるように、新たな価値創造のベースとして様々なシーンで活用が期待されています。一方、得られたビックデータはAI (Artificial Intelligence:人工知能)により情報処理され、例えば、自動車の自動運転における業務処理の効率化や予測精度の向上、メディカル分野においても遠隔操作による医療行為に活用することで、新たな価値創造につなげる活動が進められています。
【図表2:注目される市場と電子機器群のカテゴリー】 このような背景の下、2017 年度版では「メディカル」、「モビリティー」、「エネルギー」、「新技術・新材料・新市場」を注目される市場/電子機器群としましたが、2019年度版としては、更なるIoTの進化および5G技術の社会実装を踏まえて、「情報通信」を新設、「メディカル」を「メディカル・ライフサイエンス」とし更なる検討を進めました。図表2に2019年度版のカテゴリーを示します。
2.情報通信
近年スマートフォンを代表とする情報端末が世界的に普及した結果、ネットワークを通じ、世界中で新たな価値創造やビジネスが拡大しています。IoT によって現実世界からより多くの情報が収集できると、サイバー空間においても、現実世界の状況をより詳細に再現することができるようになります。実世界とサイバー空間が相互連携した社会(CPS:サイバーフィジカルソサエティ)においては、私たちとインターネット空間の接点はパソコンやスマートフォンといった端末に留まらず、車や家といった生活空間に広がり、ICT(Information and Communication Technology)により収集されたデータはあらゆる分野と連携し、生活をより豊かにします。また、少子高齢化やエネルギー問題といった私たちが抱える社会的な課題の解決へ繋がることが期待されています。
【図表3:ICT市場における分類】 ICT市場における分類(コンテンツ・アプリケーション、プラットフォーム、ネットワーク、端末)を図表3に示します。本節では、2.2.1情報通信概要、2.2.2データセンターサーバ、2.2.3 LPWA(Low Power Wide Area)などのIoTセンサ無線モジュール、2.2.4端末として産業機器に用いられるスマートフォン、タブレットなどのモバイルデバイス、2.2.5 VR(Virtual Reality)/AR(Augmented Reality)/MR(Mixed Reality)、そして2.2.6テレビについて解説しています。
3.メディカル・ライフサイエンス
本節では、2.3.1エレクトロニクス業界から見たメディカル・ライフサイエンス領域、2.3.2手術/検査支援ロボットとセンシング、2.3.3ウェアラブル、2.3.4バイオセンサ、2.3.5脳科学とBMI(Brain Machine Interface)について解説しています。
2.3.1では、ゲノム解析/編集、癌治療/診断、認知症、虚血性心疾患、感染症に関する研究開発の最新動向をエレクトロニクスの視点で紹介、解説しています。
2.3.2では、次世代手術支援ロボット・システムの動向と、それに必要な生体センシング技術を紹介しました。
2.3.3では、生体情報収集用電極、特にグラフェン電極の物性、特徴、製法や、メディカル分野での応用例 (ドラッグデリバリー、バイオセンサなど) を紹介しました。
【図表4:エレクトロニクスとライフサイエンスの融合】
2.3.4では、バイオセンサでキーとなるバイオ分子製造法の紹介や、バイオセンサ事例を充実、解説しました。
2.3.5では、汎用人工知能プロセッサ開発との連携という視点での脳科学研究の動向、脳科学の応用(脳情報通信、脳内インプラントなど)を紹介しました。
我々としては、エレクトロニクスとライフサイエンス分野の融合(図表4参照)は、多くのシナジー効果を産み出し、More Moore、More than Mooreに続く第三の成長基軸となる可能性を秘め、大いに期待できる領域と考えています。
4.モビリティー
本節では、近年の自動車のキーワードであるCASE (Connected, Autonomous, Shared, Electric)をベースに、 自動運転化、コネクティッド化、電動化、およびエンジンルーム内・外に搭載される電子機器ユニットの動向について解説しています。
2.4.2自動運転化では、特に自動運転に向けた制御における人工知能(AI)の位置づけとそれを用いた車両統合制御ECUおよび、それらとステアリング、ブレーキ、サスペンションの関連についても解説しました。
2.4.3コネクティッド化(図表5参照)では、自動車を取り巻く通信環境全体を概観し、サービスが開始される5Gとの関連やセルラV2X、テレマティックスコントロールユニットの実装形態の変遷を解説しました。
【図表5:Connected Carとは】 2.4.4電動化では、パワーデバイス市場と自動車の電動化動向、今後低損失/小型化が図れるSiCデバイスへの期待を解説しました。また電鉄で実用化されているSiCパワーモジュールの動向や、今後展開が期待される航空機の電動化動向についても解説しました。 2.4.5/2.4.6ではエンジンルーム内・外搭載ECUにつき、製品仕様、実装仕様、デバイス・電子部品・プリント配線板への要求という視点でまとめました。
5.新市場・新材料・新技術
【図表6:インバータパワーデバイスの放熱構造】
2.5.1では2017年度版に引き続きサーマルマネジメントについて解説しています。今回は2017年度版で記述できなかった具体的な設計の考え方について触れました。まずは熱伝導設計では高熱伝導材料とともに、接触熱抵抗の論理的な算出方法を通して熱伝導材料(TIM)の選定について論じました。具体的な製品については、車載用を中心にパワーデバイス(図表6参照)について説明し、モバイル機器ではスマートフォンのサーマルマネジメントについて説明しています。
2.5.2では新市場としてマイクロLEDを取り上げました。2014年にApple社がマイクロLEDのベンチャー企業であるLuxVue Technology社を買収したことからOLEDに続く次世代ディスプレイとして注目を浴びています。特徴や課題である実装方法、実装スピードについて解説しました。4KディスプレイにはLED素子としても2,400万個の実装が必要となり、実装スピードはマイクロLEDの汎用化の最大の課題となります。
2.5.3では次世代通信5Gについて解説しました。実証実験の内容と課題解決に対する新技術として、MIMO技術、メタマテリアル技術について概説し、材料としては低損失に必要な低誘電率、低誘電損失の材料の開発動向について論じました。基地局の事例としては5Gの事例は未だ詳細が入手できないため4Gの実例を掲載しました。5Gが汎用化するには要望される機能の高度化とそれに見合うコストの両面がマッチすることが重要と考えられます。
第3章 電子デバイスパッケージ
本章では、IoTの普及とともに多様化が進む半導体パッケージの注目される動向に関して記述しました。従来、小型パッケージ用途に用いられてきたウェハレベルパッケージは、FO-WLP構造(図表7参照)を取ることによりスマートフォン向け多端子パッケージへと適用範囲を広げてきています。さらに外形をウェハ形態からパネル形態に変えたパネルレベルパッケージによって低コスト化が試みられています。現在各種方式が提案されていますが、本章ではそれらの特徴や課題解決の手法を記載しました。また異種混載・高密度実装技術としてPoPとSiPを取り上げ、現在開発が進められている5G向けSiP技術に関しても記述しました。またレガシー技術と考えられていたワイヤーボンディング技術に関しても、そのユニークな形状制御技術を駆使して、RF部品等の形成が試みられている状況(図表8参照)を紹介しています。
【図表7:FO-WLPの製造プロセスの事例】
【図表8:ボンディングワイヤーで形成したRF部品】
第4章 電子部品
本章では、実装技術に影響を与える「L:インダクタ」「C:コンデンサ」「R:抵抗器」「EMC対策部品」「センサ」「コネクタ」を前版に引き続き取り上げて技術動向を解説しています。また、CASEの進展で大きく注目される車載向け電子部品の動向について解説を充実させ、「入出力デバイス」を追加して車載向けの技術動向を中心に記述しています。
「LCR部品」と「EMC対策部品」では、各種チップ部品のサイズトレンドをそれぞれ示しています。これは実装技術動向のひとつの指針となるものと考えます。代表的な例として、積層セラミックコンデンサのサイズトレンドを図表9に示します。
【図表9:積層セラミックコンデンサのサイズ別構成率】
「センサ」ではADASや自動運転技術に必須となるセンサを紹介し、MEMSセンサを中心に技術解説をしています。
「コネクタ」では車載用ハーネス・コネクタの概要とアンケート結果からの将来動向を、そして搭載数が増加する車載用カメラコネクタを取り上げて、技術動向を解説しています。
追加した「入出力デバイス」では、DMS(Driver Monitoring System)や乗員検知などで求められる「ToFデバイス」、また「タッチパネル」と「車載HMI」を取り上げて技術動向を解説しています。
第5章 プリント配線板
本章で解説したプリント配線板は、日本電子回路工業会(JPCA)が2019年6月に発行したプリント配線板技術ロードマップから抜粋したもので、詳細はそちらを参照して下さい。
今般のロードマップの重要なメッセージは、従来からのプリント配線板製造技術での微細化追求が終焉を迎えたことと、さらなる微細化がウェハーレベル製造プロセスで進展することを紹介したことです。
またプリント配線板製造技術の方向性として微細化の追求(図表10参照)と反して高付加価値化の追求としてのストレッチャブル、コンフォーマブル、およびテキスタイル回路基板技術についても紹介しました。
【図表10:プリント配線板の微細化動向】 我が国プリント配線板産業は10年前まで世界第1位の市場占有率を保有し、技術リーダーの役割を果たしてきました。約10年前のリーマン・ショックから生産金額、生産量ともに減少し続けています。しかしプリント配線板の応用範囲は前述の通り拡大しており、加えて我が国の技術的リーダーシップへの期待は依然として高いものがあります。世界の期待に応えることも我が国プリント配線板業界の重要な役割のひとつです。
第6章 実装設備
本章では始めに実装設備業界の近年の概況、次に生産性の現状と動向に触れたあと、本節の特徴である全世界の設備ユーザーへのアンケート結果を元に、設備各モデルにおける市場の要求順位と動向について紹介しています。モデルとは具体的には、印刷機、マウンタ、リフロー、検査機、ベアチップ/フリップチップボンダです。これに加え、設備で共通に関係する接合材料と封止材料についてもアンケートを実施しました。 実装設備で基本となる生産性は、毎年のように向上し続けていますが、例えば現在マウンタで達成している最高速の50,000cph(1時間あたり50,000点装着)は、構造的に見て限界に近いので、今後の伸びは緩やかになると予想しています。
【図表11:ELSの概要】
その代わり、搭載すべき部品が超小型化し、電子回路が高密度化する傾向は続いていますので、印刷や実装・検査の精度向上とその維持の自動化要求は継続して高まっています。実際に今回の調査結果でも、どの設備においても上位になりました。
末尾のトピックスコーナーでは、今春完成したばかりの設備間通信規格:ELS(図表11参照)について取り上げています。この規格は日本の実装設備メーカーが中心となって、国際規格化出来た事例です。