IEC TC51 アナハイム国際会議報告
会場のAnaheim Marriott Hotel
2019年3月17日(日)~3月18日(月)の2日間、アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで、IEC TC51(磁性部品、フェライトおよび圧粉磁性材料)の国際会議(WG1, WG9, WG10およびプレナリ会議)が開催されました。各WG会議のトピックスを中心にご紹介いたします。
参加者: 日本8名、中国5名、アメリカ7名、ドイツ3名、インド1名
IEC TC51の概要
TC51は、磁性部品、フェライトおよび圧粉磁性材料に関する国際規格の作成を行っています。
- ・国際幹事: 安倍 健(日本)
- ・国際議長: Mark A. Swihart(アメリカ)
- ・Pメンバー(エキスパート参加国):9カ国
- ・Oメンバー(オブザーバ国):16カ国
- ・WG(ワーキング・グループ)数:3
- ・日本での審議団体:JEITA
- ・国内委員長:平塚 信之(埼玉大学)
WG1:フェライトおよび圧粉磁心
TC51/WG1は、フェライトおよび圧粉磁心に関する国際標準化を担当しています。今回の国際会議では、現在開発、改正中の規格5件および新たに提案された規格1件に関して審議を行いました。会議間近に5件のCD、CCが集中して回付されたため、通常の国内委員会の他に分科会を2回開いて国際会議での対応準備をしました。
IEC 63093シリーズは、フェライト磁心寸法および外観に関するガイドラインで、2016年から5年計画で14規格の開発を進めております。各国でPL(プロジェクトリーダー)を分担し、日本担当の6件は既に規格発行済です。今回はドイツがPLのIEC 63093-2(Pot形状)およびIEC 63093-3(Half pot 形状)の2件のCD(委員会原案)について審議しました。日本、中国、アメリカからCDに対するコメントが合計89件出され、技術的内容を中心に活発な意見交換を行い、両規格ともCDV段階へ進めることを決議しました。また、シリーズの内進捗の遅れている、アメリカがPL担当の2件について、日本がPLを肩代わりし開発を加速する事を決議しました。
WG1 Meeting WG1は、これまでフェライトコアに関しての規格化を中心に行ってきましたが、新たに昨年から圧粉コアの寸法および外観に関するガイドラインの規格、IEC 63182シリーズの開発に着手しました。今回の会議では、Part 1:通則およびPart 2:リングコアの2件のCDの審議を行いました。圧粉コアの最初の規格であることから審議は慎重に行なわれ、大幅に予定時間を超過して、活発な議論がかわされました。結果として今回の議論を踏まえ、セカンドCDを回付し、さらに審議を進めることにしました。
WG9:インダクティブ部品
TC51/WG9は、インダクティブ部品に関する国際標準化を担当しています。今回の国際会議では、現在開発、改正中の規格3件に関して審議を行いました。
これら3件中2件は、日本がプロジェクトリーダをつとめ、規格の変更を主導しています。一つの規格は「DCDCコンバータに用いられるインダクタの定格電流の決め方」であるIEC 62024-2 Ed.2.0です。これは、従来、規格と各社の個別規格との差異が大きく、実質規格の意味が不十分であったところを、今一度同じ土俵で評価を行えるように再定義しようとしたものです。今回、測定用基板の配線の厚みや幅を再定義することにより、一定の条件での定格電流を決定することができるようになりました。
アナハイム会議では、当日までに寄せられたコメント(日本3件、アメリカ16件)をPRするとともに、これらのコメント全てを承認したことを報告しました。
WG9 Meeting
また、審議ではドイツとアメリカを交えて、活発な議論が交わされました。議論の中心は、従来の測定基板(ClassA)と追加した測定基板(ClassBとC)の区別があいまいという事でした。そこで、このクラス分けについて再度定義づけすることになりました。
一方、もう一つ日本がプロジェクトリーダを行っている規格はIEC 62025-2 Ed.2.0です。これは、高周波誘導部品の非電気特性の試験方法に関するガイドラインであり、2016年から日本がプロジェクトリーダーを担当し、規格改正を進めております。前回のウラジオストク国際会議では、中国から引用規格の運用に関する提案がありました。対応策について、国内委員会で議論を重ねた後、CDを発行。今回、CDVとして審議を行いました。
WG10:高周波EMC対策磁性材料および部品
WG10(高周波EMC対策磁性材料および部品)〔主査:齋藤章彦(大同特殊鋼)〕は、主にノイズ抑制シート(NSS: Noise Suppression Sheet)のIEC規格化を進めております。IEC 62333(Noise Suppression Sheet for digital devices and equipment)では、①基本的な用語の定義、②実際のNSSの使用状況を模擬したノイズ抑制効果の測定方法、③NSSの電磁気的特性に関する内容を規格化しました。また、アプリケーションを模擬した実際のNSSの使用に対応した新しい測定手法を提案して国際規格として発行しました。
WG10 Meeting NSSを用いたノイズ抑制のために、設計段階から事前にシミュレーションを行って使用効果を予測したいという強い客先ニーズが従来からありました。そこで、シミュレーションに必要なNSSの電磁気特性、特に、複素比透磁率および複素比誘電率の測定について新たな検討を2016年に開始しました。日本がプロジェクトリーダーとなり、2019年10月を目標にテクニカルレポートを作成することが承認されました。今回の2019年3月17日18日にアメリカ・アナハイムで開催された国際会議においてNSSの複素比透磁率と複素比誘電率の6つの測定方法について報告しました。WG10は3月17日8時30分から9時30分まで開催されました。TR(Technical Report)として2019年10月をめざして、進捗状況を報告しました。活発な質疑応答ができたことはうれしい限りでした。
Plenary会議
各WG会議を終え最後に、プレナリ会議を行い、TC51全体の状況報告、課題、今後の活動方針についてのディスカッションが行われました。そして次回の国際会議を2020年日本開催とすることも決議され閉会いたしました。
所 感
会議初日は、日曜日だったこともあり、会場の外では、チアリーディングの大会も開かれており、雲一つないカリフォルニアの青空の下では、半そで、短パン姿の人ばかりで、スーツ姿に違和感がありました。今回は全体の時間が少なかったこともあり、休憩時間もそこそこにして会議の時間に当てたため、親交を深める雑談の時間があまり取れなかったことが残念でした。年に1回しか会うことのないメンバーですが、世界で役に立つ規格作りをするという思いは同じで、また元気で再会出来たことを喜び合いました。次の国際会議は日本に決まり、皆楽しみにしていますので、おもてなしの心で、準備を進めていきたいと思っています。