第16回JEITA会長賞受賞者
- 受賞者: 総合政策部会/CSR委員会
- テーマ:「サプライチェーンにおける責任ある企業行動推進に向けた取組み」
サプライチェーン全体における人権デュー・ディリジェンス・CSR調達の効率化に向け、業界共通のサプライヤー向けガイドラインの策定、苦情処理の業界横断プラットフォームの構築等を行った。同委員会の活動は、人権尊重等の社会的要請に配慮したサプライチェーンを構築するための基盤整備に資する活動として、日本企業の価値向上、持続可能な成長による業界発展に繋がるものと評価した。
JEITA会長賞受賞に寄せて
(総合政策部会/CSR委員会)
この度は、このような栄誉ある賞をいただき、たいへん光栄に存じます。
近年、欧米を中心とする各国では、企業に責任ある企業行動、特に人権デュー・ディリジェンス(DD)および情報開示を求める法制化が進んでおり、日本においても、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」が策定され、企業に求められる具体的な取組みの内容が示されました。企業は、企業に求められる人権尊重の取組み(人権方針の策定、人権DD、救済等)に適切に取り組んでいかなければ、グローバル市場から取り残されてしまう可能性が出てきています。
このような背景を踏まえて、当委員会は、個社や既存組織で十分に対応しきれないIT・エレクトロニクス企業共通の責任ある企業行動に向けた課題に対応するため、サプライチェーン全体における人権DDの効率化等を目的として、各種活動を行っています(詳細は下記をご参照ください)。
これらの取組みの推進に際しては、多くの知見が必要であるため、国内外の先進事例から学ぶとともに、関連国際機関、行政諸機関、関連団体、弁護士などの専門家の協力を適宜得ながら活動し、企業における「ビジネスと人権」の国際的なガイドラインの実践の推進、企業負担の軽減、リスクマネジメントの強化、日本産業界の国際的な信頼向上に貢献していきたいと考えています。
CSR委員会ホームページ
https://home.jeita.or.jp/csr/
■業界共通のサプライヤー向けガイドライン・自己評価シートの策定およびガイドラインを活用したサプライチェーンに対する教育・啓発活動
サプライチェーン全体への人権尊重を含む「責任ある企業行動」に対する理解向上およびサプライヤーと依頼側企業双方の負荷低減・効率化を図るため、2020年3月にサプライヤーの遵守すべき規範の内容、背景・留意点・国際規範を分かりやすく解説した「責任ある企業行動ガイドライン」(以下、ガイドライン)およびガイドラインに基づく自己評価シートを多言語(日・英・中)で作成・公開しました。また、ガイドラインをベースとしたサプライヤー向けの教材(ガイドラインの動画、テーマ毎の解説資料等)を作成し、それらを活用したセミナーを定期的に開催(2021年度から2023年度までに計5回開催)し、延べ2,800名が受講しました。
■苦情処理メカニズムに関する取組み(JaCER設立、JaCERとの連携)
近年、NGOや研究機関などによりサプライチェーンでの人権侵害事例の指摘が増加しており、NGOなどの市⺠社会から苦情処理メカニズムの設置の要求が⾼まっています。また、ESG投資家・評価機関等からも、⼈権対応として苦情処理メカニズムの運⽤が求められています。苦情処理メカニズムは、国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGP)が企業に求める活動の3本柱(人権方針の策定、人権DD、救済)を実現する手段の一つですが、多くの企業は、まだ十分な取組みができていないのが現状です。その背景には、①サプライチェーンの課題に対して1社単独で取組みを行うのはハードルが高い、②苦情処理の仕組みに関するノウハウがあまり存在しないなどが考えられます。そこで、2021年度にCSR委員会傘下に苦情処理メカニズムWGを設置し、国内外のサプライチェーンの⼈権問題に対する企業の主体的な取組みを促進するべく、苦情処理メカニズムの業界共通プラットフォーム構築に向けた検討を行いました。共通のプラットフォームを構築し、多くの企業がこのプラットフォームを利用することにより、苦情処理の実効性・効率性の向上(ノウハウの蓄積による対応⼒の向上、サプライチェーンに対する影響⼒向上(可能な場合)、同⼀サプライチェーン上での複数企業による重複作業の回避、個社単独のシステムに対しての負担軽減)等が期待されます。
この検討を行う中で、同WGならびにビジネスと人権ロイヤーズネットワーク(BHR Lawyers)他からなる「対話救済プロジェクト」などの成果・知見を統合・集積する形で、当会とBHR Lawyersが中心となり、業界横断の非司法的な苦情処理メカニズムのプラットフォームとなる新団体の設立を計画し、2022年6月に一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構(JaCER: Japan Center for Engagement and Remedy on Business and Human Rights)を設立しました。
JaCERは、UNGPに準拠して非司法的な苦情処理プラットフォームを構築し、専門的な立場から参加企業(JaCERの正会員企業)の苦情処理の支援を行うことにより、対話・救済を推進するとともに、⽇本産業界の国際的信頼度向上を⽬指す組織です。当会は、JaCERと共に苦情処理メカニズムに関する普及・啓発活動等を行い、当業界の取組みのレベルアップを目指しています。
■サプライヤーとのエンゲージメントとの強化に向けたイニシアティブ構想の検討
これまでの当委員会の取り組み(ガイドライン、自己評価シート、教育・啓発)を基盤に、これを更に発展させ、サプライヤー(特に中小企業)とのエンゲージメントを強化し、当業界全体のサステナビリティ対応の実践力を上げていくため、当会主導による業界横断イニシアティブの立ち上げを検討しています。サプライチェーン全体でのサステナビリティ対応の重要性が高まっている中、サプライチェーンを構成する中小企業を含むすべての企業が経営リソースを有効活用し、当業界を中心とした日本企業全体の取組みレベルを底上げていくことを目的に、中小企業および大企業のニーズを調査し、その調査結果を踏まえて、どのような施策が有効か等について議論を行っています。
■サステナビリティ デュー・ディリジェンス(欧州CSDDD・CSRD等)への対応
EUにおいては、企業にDDを義務付ける指令(CSDDD)ならびにサステナビリティ情報の開示を義務付ける指令(CSRD)が成立しており、欧州ビジネスを持つ企業は、今後法令に応じたDD/情報開示が求められる状況となっています。また、CSDDD/CSRDのみならず、日本においても「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」、「有価証券報告書へのサステナビリティ情報記載義務化」等において、人権DD/ESG情報開示は今後の企業の必須対応要件になっていく見通しです。これを踏まえて、国内外のDD/情報開示要請に対し、国際基準を満たし効率的に対応する手段・方法を、先行する欧州法令対応を軸に業界として検討するWGを2023年10月に立ち上げました。このWGでは、欧州法令を調査するとともに、業界として要件に対応するための研究や会員企業へ調査結果等の共有を行います。