第16回JEITA会長賞受賞者
- 受賞者: 佐藤 一郎 氏(国立情報学研究所)
- テーマ:「IoTデータ活用におけるプライバシー保護に向けた取組み」
氏は、宅内IoT機器が取集するプライバシー情報の取扱いに関する業界横断的な議論の必要性を訴え、当協会におけるIoTデータの取得・取扱いに関する業界指針を策定する礎を築いた。また、有識者と業界の間の橋渡し役として、業界指針の策定を主導した。氏の活動は、市場の健全化を通じた業界発展に貢献しただけでなく、消費者保護とデータ利活用型社会の推進の両面から一般社会にも貢献した
JEITA会長賞受賞に寄せて
(佐藤 一郎 氏(国立情報学研究所))
この度、このような素晴らしい賞をいただき、たいへん光栄に存じます。さて、この受賞は後述するプライバシーに関するセミナーの開催にご尽力いただいたJEITA会員企業の担当者の方々、そして事務局を務めているJEITAの方々によるところが大きいです。従って、当方が受賞したというより、代表して受賞したというのが正しいところです。
現在、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)のスマートホーム部会 プライバシー検討ワーキンググループでの活動において、IoT製品におけるデータ利活用においてプライバシーの観点から業界や企業として注意や対策をしなければならない事項について、塾形式で各方面の専門家をお招きして最先端の動向について講義形式でお伝えする『IoTデータプライバシー塾』という活動を行っております。プライバシー保護については、個人情報保護法という法律が思い浮かびますが、プライバシーとされる情報は広がっております。その中でも個人情報とならないが、プライバシーとされる情報には直接的な法制度がありませんが、個人の権利利益の侵害が起きることもあります。しかし、プライバシーとされる情報は曖昧であり、企業はプライバシーに関する情報をどのように扱うのか体系化されておらず、それがプライバシー侵害を引き起こしたり、逆にその侵害を恐れるあまり企業活動の萎縮をもたらしてきました。
そうした背景もあり、実践的に学ぶための研修や方法等が無いという状況でした。そのためJEITAにて、プライバシー対策の取組みについて学ぶ機会として2023年に『第1期 IoTデータプライバシー塾』を開講し、関連する業界に提供を行う活動をスタート致しました。
私自身も、本プライバシー塾の塾長として就任し、主導的な立場として様々な有識者や他業界との橋渡し役を担うことや参加各社に講義の機会をいただいております。昨年開催の第1期では、50社・502名が受講者として参加しており、毎月第4水曜日の塾で各分野の有識者から最新のプライバシー情報に係る動向をご紹介いただき、各企業様のプライバシー情報への対応について参考にしていただいております。
このプライバシー塾にはもう二つの重要な背景がありました。それはJEITAスマートホーム部会プライバシー検討ワーキンググループが中心にとりまとめた、IoT製品から得られるデータの利活用におけるプライバシー情報ガイドラインの制定です。
私は20年以上、JEITAには学術研究者の立場で標準化活動などに関わってきましたが、このスマートホーム部会に参加することになった当時、IoT家電に代表されるインターネットに接続した機器が取得するIoTデータの活用は、有望な市場としてJEITAとしても取り組んでいるところでした。その一方で、IoT機器が個人のプライバシー情報を収集する以上、個人情報やプライバシーに関する議論は、利用者または消費者などの個人の立場で考えることが必須で、業界統一的な指針を示さないことには、市場全体の信頼性が損なわれることになります。そのことから、業界横断的な検討の必要性について問題提起をさせていただいたことがきっかけで、今回の一連のJEITA活動への参加につながっております。
もうひとつの背景は、2020年に経済産業省と総務省が共管の検討会で、企業がプライバシーに関わる自主的取り組みなどを進める枠組みとして、プライバシーガバナンスガイドブックをとりまとめたことがあげられます。私はその検討会の座長として、企業におけるプライバシー保護体制の指針を作ることとなりました。
その後、スマートホーム部会内にプライバシー情報の取り扱いに関する検討組織が発足され、前述の経済産業省と総務省によるプライバシーガバナンスガイドブックを念頭に置きながら、家電製品や住宅機器におけるプライバシーに関わる指針となるのが、前述のIoT製品から得られるデータの利活用におけるプライバシー情報ガイドラインとなります。ガイドラインの第三者評価として、弁護士や消費者団体の方々を含む有識者による会議が発足し、私はその座長という役割で任命をいただきました。当時ではあらゆる業界よりも先駆的な試みとなる業界指針「スマートホームIoTデータプライバシーガイドライン」に対して、有識者会議では各分野の専門家の皆様の意見を踏まえて検討組織へ助言をさせていただきました。
この有識者会議の意見は、JEITAガイドラインはもちろん、各社のプライバシーポリシーなどにも反映されました。この結果、業界全体の消費者保護レベルの向上につながること、また本ガイドラインで示す各種要件に対して、スマートホームに関わる機器やサービスの提供事業者が真摯に取り組むことで、プライバシー保護に関する利用者の懸念を払拭し、利用者からより多くのスマートホームIoTデータを提供してもらい、さらに便利なサービスを提供することでIoTデータ活用の付加価値を向上させることを願っております。なお、有識者会議に関しては、経済産業省、総務省にも強くご協力頂いており、ここに深く御礼申し上げます。
私といたしましては、引き続きプライバシー情報の取り扱いに関してJEITAの活動を通じて、業界の皆様に変化の激しい時代の中で最先端の動向を紹介し、業界の一助となれるように協力させていただきます。前述のように今回受賞した会長賞は、当該ワーキング・有識者会議・塾で講師を務めていただきました皆様が表彰されたものであり、当方はたまたまその表彰者となったと言えます。今回の受賞を糧に、引き続き微力ながらも当業界に貢献できればと思います。
略歴:佐藤 一郎 氏
1991年慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業、1996年同大学大学院理工学研究科計算機科学専攻後期博士課程修了、博士(工学)。お茶の水女子大学理学部情報科学科助教授等を経て、国立情報学研究所ソフトウェア研究系助教授、アーキテクチャ科学研究系教授を経て、現在、同研究所情報社会相関研究系教授。または国立大学法人総合研究大学院大学・先端学術院・情報学コース・教授を併任。政府委員として、デジタル庁「政策評価に関する有識者会議&行政事業レビュー(旧事業仕分け)」座長、経済産業省・総務省「企業のプライバシーガバナンスモデル検討会」座長、内閣官房・個人情報委員会・総務省(共管)「個人情報保護制度の見直しに関する検討会」検討会構成員、個人情報保護委員会「匿名加工情報・仮名加工情報利活用検討会」座長、総務省「プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するWG」構成員(電気通信事業法改正)、総務省「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」構成員、OECD Research Ethics working group, member 他。また、2001年 ISO SC31(JEITA が事務局)の委員に加えて、2021年よりJEITAスマートホーム部会プライバシー検討ワーキンググループ顧問及び同部会グループ有識者会議座長、JEITAプライバシー塾長を務める。