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電子情報技術産業協会
会長賞のお知らせ

左から綱川智会長、受賞した反保昌博氏、石塚茂樹前会長。
左から綱川智会長、受賞した反保昌博氏、石塚茂樹前会長。

当協会は、IT・エレクトロニクス産業の諸課題に積極的に取り組むことにより、わが国の経済発展に寄与してまいりました。会員会社をはじめとする多くの方々に、当協会の事業活動に携わっていただき、その事業の数々は、広く社会から高い評価をいただくとともに、産業・経済の発展、国民生活の向上に貢献してまいりました。換言すればこの軌跡は、わが国のIT・エレクトロニクス技術の発展の歴史そのものです。電子情報技術産業協会会長賞(JEITA会長賞)は、電子情報産業の発展、新技術の開発、新市場の開拓、国際競争力の強化、ならびに消費者保護・環境保護をはじめとする公共の福祉の増進などに顕著な功績のあった事業(個人・組織)を会長が表彰するものです。第 13 回となる今回は、下記 1名の受賞が決定しました。

第13回 JEITA会長賞 受賞者

■IEC TC40における電子部品の標準化活動の推進
反保 昌博 氏(株式会社村田製作所)

2009年から、IEC TC40国内委員長、IEC TC40 WG36(半導体を含む電子部品などの包装)のコンビーナなど要職を歴任。日本メーカが世界的に圧倒的な優位性を持つ積層セラミックコンデンサ(MLCC)をはじめとする小型電子部品の市場拡大と、それによる機器の小型化・高機能化、ひいてはCPS/IoTの促進など、電子部品に係る標準化活動を通じて産業の発展に大きく貢献。代表的な功績としては、2013年、TC40/WG36のコンビーナとして0402(0.4×0.2mm)以下のサイズのMLCCの包装を規定するため、IEC 60286-3(自動取扱いのための部品の包装)の改訂を推進。これにより、テープの毛羽による製造不良の低減など実装信頼性向上や、環境保護、輸送コスト・在庫スペースの削減等につながった。2019年、IEC 60384-21(温度補償用)とIEC 60384-22(高誘電率系)に0201サイズ品を規格に取り込み、基準寸法と、そこから許容される公差を取り入れ、国際規格化に貢献した。これにより、スマートフォン、情報端末機器等への採用が進み、超小型部品市場の拡大に寄与した。

JEITA会長賞受賞に寄せて
(反保 昌博 氏)

この度、このような素晴らしい賞をいただき、たいへん光栄に存じます。標準化活動にご理解いただき、ご指導、ご協力いただいた関係者の皆様を代表しての受賞と受け止めており、心から感謝、御礼申し上げます。

MLCCの小型化に伴い国際規格改訂を主導

私は現在、JEITA(一般社団法人電子情報技術産業協会)を活動拠点に、主に電子部品(IEC TC40※)と実装関係(IEC TC91※)のIEC規格(国際規格)及びJIS(日本産業規格)の制定、改正を行う標準化活動に携わり、国際会議への参加などを通じ日本の意見を反映した国際規格づくりに邁進しております。

  • ※IEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)
  • ※IEC TC40(電子機器用コンデンサ及び抵抗器・包装)
  • ※IEC TC91(電子実装)

芯の直径0.5mm 世界最小の積層コンデンサ 0.25mm×0.125mm(0201Mサイズ) 0201MサイズのMLCCの大きさを左から、1005M(1.0mm×0.5mm)、0603M(0.6×0.3mm)、0402M(0.4×0.2mm)、および0201Mを並べた写真。 ※画像提供:株式会社村田製作所 2020年、日本で5G(第五世代移動通信システム)の商用サービスが始まりましたが、5Gはスマートフォンなどの情報技術分野だけにとどまらず、IoTを支える新たな基盤技術として、車の自動運転やロボットによる遠隔操作など、イノベーションを生み出す次世代の技術革新として期待されています。このような中、IEC TC40が扱う「電気を蓄えたり放出したりして回路の電気を一定に保つ役割」を担うMLCC(積層セラミックコンデンサ)は、あらゆる電子機器に使用され、5Gを支えるキーパーツとなっています。特に5G対応スマートフォン※の高機能化、多機能化により、スマートフォンが処理する通信量や情報量が増え、これに伴いMLCCの員数も増えたことで、限られた機器内部のスペースに収納するためにMLCCの小型化が進み、小型化対応の規格改訂、標準化が急務となりました。

※4G対応の高性能スマートフォンが約800個なのに対し、5G対応スマートフォンではその2割増しの搭載数となっている。

今回、私がIEC TC40国内委員長、IEC TC40 WG36(包装)コンビーナとして主導した主な国際規格の改訂として以下が挙げられます。

  • 日本が得意とする超小型部品0201Mサイズ(0.25mm×0.125 mm)を取り入れた国際規格(MLCC)をPL(プロジェクトリーダー)として改訂に繋げたこと。
    IEC 60384-21(MLCC : 温度補償用), IEC 60384-22(MLCC : 高誘電率系)
  • 超小型部品の0402Mサイズ(0.4mm×0.2 mm)以下の包装を規定した国際規格改訂。
    IEC 60286-3(自動取扱いのための部品の包装―第三部 : 連続テープ上への表面実装部品用包装)

さらに、JEITAの電子部品の標準化を統括する標準化専門委員会の主査として、2014年にIEC規格及びJIS作成の実践研修を行う教育会を立ち上げ、次世代を担う若手人材の育成を推進してきました。年2回の教育会は現在も継続して実施されており、今では現役委員が講師を務めるようになるほどに人材育成が進んできております。

「Rule Taker」から「Rule Maker」へ

私のこれまでの標準化活動で特に印象深く「気づき」を与えられたものがあります。それは「包装材の静電気測定方法の規格化」で、2014年の東京国際会議でIEC TC101(静電気)のスコープの範疇ということで欧州勢の反対に遭いあえなく却下された規格案です。しかしながら、既存規格(TC101)より測定精度が高いのに採用されないのはおかしい、どうしても譲れないということで、その後国内での実績作りとして、JEITAの実装部品包装標準化専門委員会のメンバが中心となり、JEITA規格、JISと制定していき、5年の歳月を費やし、コンビーナ(IEC TC40 WG36)として迎えた2019年秋のデルフト国際会議(オランダ)でようやくIEC 60286-3の改訂へと繋ぐことができました。この貴重な経験を通じて、国際規格化の壁の高さと新規提案の難しさを実感させられました。

活動報告会(JEITA)の基調講演の引用になりますが、国際標準化をゴルフ場設計に例えると、コース設計は自らが国際規格を提案、成立させることに繋がります。これまでは、与えられたコース(決められた国際標準)で必死に海外勢の掌の上でプレーさせられることが多かったように感じます。しかしこの一件を通じて、世界を相手にビジネスを有利に進めるには、たとえ時間と労力がかかっても自分たちがプレーしやすいようにコースを作り上げていくこと、「Rule Takerではなく、Rule Makerになること」が如何に重要かを学ぶことができました。標準化は、ビジネスをサポートするルール作り、ルールを制することは国際競争を勝ち抜くための重要な戦略のひとつと言えます。

今後、若手の皆さんの中から、国際舞台で国際規格のコース設計を行う人材が多く出ることを期待しています。

今回の受賞を糧に、引き続き微力ながらも標準化活動を支援させていただきたいと思います。

略歴:反保 昌博 氏

1982年株式会社村田製作所入社。以降、MLCCの設計・製造技術に従事。海外赴任(シンガポール)を経て、商品技術に従事し、国内外の顧客を担当。2009年より東京支社 市場渉外部にて、国内外の標準化戦略に従事。2020年産業標準化事業表彰 経済産業大臣表彰受賞。