スペシャルインタビュー第3回 元湯陣屋 代表取締役社長 宮崎 富夫氏(2/2)

2015年9月8日

陣屋旅館 = 陣屋コネクトのショールーム

実践したソリューションの発信

Mr.Miyazaki

▲元湯陣屋 宮崎 富夫社長(写真右)

ーーーQ.今後「陣屋コネクト」はどのように進化していくのか、また、陣屋そのもののビジョンについてお聞かせください。

宿泊施設やホスピタリティ業界の皆様にCS・ES・Profitを向上することの出来るプラットフォームを提供していきたい、システムと人材をホスピタリティ業界に提供していきたいと考えています。

陣屋旅館自身は、研究所やショールームのような位置づけになればと思います。ブライダルや旅館、またそこに携わる人達と情報を共有することにより業務を効率化していきたいとも考えております。そもそも、旅館はおもてなしをすることが第一であり、それ以外の経理等の業務についてはアウトソーシングすべきであると考えております。
最近はIoTなどの実験も初めています。色々なものをインターネットにつないで、そこから人を動かすことができればと考えております。これまでは人の能力に頼っており、また、たくさんのスタッフを配置して対応していたため、人件費に大きく影響しておりました。例えば、お風呂場でいいますと従来は2時間おきに清掃していたが、お客様が少ない時には2時間おきに行う必要もなく、むしろたくさんの方が入浴した時には頻繁に清掃する必要があります。センサーを配置し、入浴者が一定の人数を超えるとチャッターで知らせ清掃員を向かわせるようにしており、そういった対応が業務効率及び顧客満足度の向上にもつながると思います。2015年10月頃から実際の運用を開始する予定です。

ーーーQ.お風呂場以外のIoT活用事例を教えてください。

客室の扉にセンサーを設置し、部屋を出た時にタブレット端末上にポップアップで知らせるようにすれば、レストランや受付で待っておくことも可能です。顔を覚えていなくても分かるというのは大きなメリットであり、記憶力に自信がない人でも対応できるようになります。(10万人の顧客情報と車を覚えているという伝説のドアマンがいたようですが:笑)
また、車のナンバー認証も今年9月末から導入を予定しております。ナンバーを読み取り顧客情報と照合しタブレット端末に情報を送ることにより、玄関で名前を伝えながらお迎えすることができるようになります。

ーーーQ.CEATECのテーマとしてIoTを掲げており、今回の事例は大変参考になりました。実際にIoTがこういった現場で使われているのは素晴らしいですね。

データを集めるだけでは意味がなく、顧客データと繋げることが重要です。それらの情報がクラウドで繋がればどこでも情報を取得でき、活用することができます。

ーーーQ.サービスがITとつながり過ぎると機械的になってしまい、人間味が薄れてしまうのではないでしょうか。

ITはあくまでバックグランドで活用しており、お客様の前でタブレット端末を使うようなことはありません。自動チェックインや自動チェックアウトなどのIT化は目指しておりません。陣屋だけで使っていては償却できないので、そういった面でも多くの方に、より良く使ってもらえる製品を開発したいと考えております。

ーーーQ.旅館業以外だとどのような業種をターゲットにされてますか。

やはりサービス業です。レストランや飲食、美容室などでも使ってもらえるようにしたいです。しかし、あれもこれもというと広がり過ぎてしまうのでやれる範囲で深めていきたいと考えています。

次世代への継承
陣屋旅館とお客様の両輪でこれから先の100年をつないでいく

ーーーQ.2018年に100周年を迎えられると思いますが、そこに向けた思いや、特別なイベントがあれば教えてください。

これから100年続けていくには時代の変化に対応していく必要があると思います。100年続けるためには世代を必ず跨ぐことになるため、次の世代にノウハウや顧客情報など色々なものを引き継いでいくことが重要であり、企業が伸びていくには必要不可欠であると考えます。

ーーーQ.大切にすべきことは引き継いでいくということですね。そういった中でのITの位置付けについて教えて下さい。

Mr.Miyazaki私どもは「お客様の物語をつないでいきたい」と考えています。
陣屋では親が結婚式を挙げ子供も同じ場所で挙げる、といった例も多い。そういった事例をITで引き継いでいきたいと考えております。システムだけがあっても使う場所がなくては意味が無いので、まずは陣屋でテストをしてユーザに提供し改良を進めていくなど、両輪で進めていきたい。陣屋コネクトを使ってもらうことにより他の旅館も長く続いてもらえればと思います。また、他の旅館を買収して陣屋グループを広げていくといったことは考えておりません。旅館はあくまで箱なので売上を伸ばすには店舗を増やすしかないのですが、ただ増やすだけでは同じコンセプトのものが増えるだけで顧客満足度は上がりません。
その土地ごとの文化があり、各地の特徴を活かしながら経営していく方が日本の文化として残ると思います。ただ、それだけにこだわっていると利益がでずに倒産する旅館もありますので、そういった旅館でも継続的に利益を出してもらうために陣屋コネクトがお役に立てればと考えております。みんなで100年続けばいいな、と思います。

ーーーQ.最後に、経営者の視点から、ITソリューションベンダーに向けたヒントやメッセージをいただけますでしょうか。

システム会社が良かれと思って作っても現場で使えなければ意味がありません。主体は導入する企業なので、実用化できるまでサポートしてもらえるようなIT企業が残っていくのではないでしょうか。活用してもらえれば必ず成長します。ただ売って終わりではなく継続的にやっていくことが双方にとって大切なことだと思います。

ーーーQ.売ることだけに注力するのではなく、継続して使っていただくことを考えていくことがベンダーにとっても重要であると感じました。

時代によって顧客のニーズは変化するので、頻繁に少しずつシステムを変えていけることが重要です。システムを変える度に莫大な費用がかかるようでは浸透しないので、そうならないような体系を創り上げなくてはなりません。ユーザとベンダーがWin-Winになるような仕組みが重要だと思います。

宮崎 富夫(みやざき・とみお)
元湯陣屋 代表取締役社長
慶應義塾大学大学院理工学部修士課程修了。本田技術研究所にて7年間次世代燃料電池の開発に携わる。2009年、陣屋の代表取締役社長就任。2012年、陣屋コネクトを設立。
映画監督の宮崎駿氏は叔父にあたる。


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