スペシャルインタビュー第1回 楽天技術研究所 代表 森 正弥 氏(2/2)

2015年8月4日

パワー と インテリジェンス と リアリティ

Mr.mori
▲楽天技術研究所 代表 森 正弥 氏

ーーーQ.楽天技術研究所の構想というのは?

2つあります。
1つは、アカデミアとビジネスをつなぐことです。

研究分野で研究者が困っていたのが「eコマースのデータがない」、「eコマースの現場がよく分からない」ということでした。eコマースの実際のフィールドで研究をしたいというニーズがたくさんあったんです。
楽天が、最先端の研究とビジネスをマッチングすることで、我々自身のステージを上げられると思いました。

2つ目は、ネットとリアルが融合するビジョンを描くことです。
2006年当時は、ネットとリアルが対立項として扱われることがよくありました。あるいは、ネットだけが進化するという発想がありました。例えば、仮想現実がそうです。現実世界をどう融合していくかの議論はしないで、ただバーチャルリアリティの世界が広がって、みんなそこで暮らすようになる、というイメージです。現実世界は放っておかれていた。
でも、そういうことではなく、現実とネットは今後、目に見えない形で組み合わさっていき、生活する人が、それが物理的なものなのか、それともサイバー的なものなのか、意識しなくなるだろうと思いました。なぜなら、ユーザー自身にとっては、自分自身がやりたいことについて、それが物理的なのか、サイバー的なのかは本質的に関係がないからです。
そうした融合が進んだ時に、楽天にどんな技術的な備えが必要なのかと同時に、融合の半歩先にも取り組まなければならないと考えました。

ーーーQ.楽天技術研究所の具体的な研究内容を教えてください。

Mr.mori主要な研究フィールドは3つあって、「パワー」「インテリジェンス」「リアリティ」と呼んでいます。

「パワー」は、クラウドやビッグデータ、さらにその先のI o Tになった時に、隅から隅までインターネットが入り込むことでデータが膨大に溢れます。また、サービスの利用も膨大に増える。そうすると、コンピューティングパワーが求められる。コンピューティングパワーをいかに高めて、溢れるデータをどのように処理していくかが「パワー」です。

「インテリジェンス」は、膨大に集まったデータから我々のサービス、ユーザの生活をどうやって向上させるかです。例えば、商品のレコメンデーション、商品の検索、あるいはデータを分析することで様々なプロモーション企画や特典サービスをお客様に沿った形で提供する。そうしたデータを高度化させる部分が「インテリジェンス」です。

3つ目の「リアリティ」は、人々を取り巻く技術環境が変化していき、世界観が変容していくフィールドでの研究開発です。人とネットの接点は、昔はパソコンだったのが、携帯になって、スマホになって、スマートデバイスになって、この先さらにI o Tになっていく。仮想現実でもどんどんサービスが登場する。車はもう普通にネットに繋っている。今後、冷蔵庫や、街中、駅、様々なもの全部が繋がった時に、人とネットの接点が変わります。そこで、どのようなサービスやアプリケーションによって、新しいユーザ体験を生んでいくかが「リアリティ」です。

ーーーQ.具体的に我々にも見えやすい楽天技術研究所の研究成果はありますか?

「見えやすい」のがポイントですよね。

基本的にインターネットというのはプロダクトアウトではない。製品を作って売っているわけではないので、ほとんどの技術が裏方にまわるんです。だから、全体像を分かり易くご説明するのは難しいですね。
一例として、今年リリースした「評判解析」があります。
「楽天市場」において、「みんなのレビュー」というお客様が自由にコメントを書き込める機能があります。たくさんのレビューの中には、商品を購入したお客様が思いを込めてと言いますか、パッションと言いますか、すごく気合いの入ったレビューがあります。
「楽天市場」では、たくさんのレビューの中からクオリティの高いレビューをピックアップすることを始めました。単純にクオリティの高いレビューをピックアップするだけではなく、さらにそのレビューがポジティブな評価なのか、難ありと言っているのか両方を分けて見えるようにしています。他のお客様が購買する時に、どちらもちゃんと参考にできるように。
一点ものの商品や、初めて買う商品の場合、皆さん評判を見られることが非常に多いんです。だから、このサービスは評判が良く、実際の買い物に繋がったという声もたくさんいただいています。そして、売り上げにも貢献していますね。

CEATEC JAPANは異質な人同士が出会う場

ーーーQ.最後に教えて下さい。今回初めてCEATEC JAPANに出展されます。CEATECの歴史の中でも、サービス業を中心とする楽天が出展するというのは、たいへんインパクトのあることだと思います。出展を決めた理由はなんですか?

出展を決めたというよりも、チャレンジを決めたという気持ちです。
楽天グループの業容が広がってきている、また、世の中の技術が変化している中で、我々自身もフィジカルな領域にどんどんサービスを提供していかなきゃいけないと感じています。
我々自身が考える新しい概念や理論の実現を色んな方に見ていただき、評価をもらいたい。
たくさんのクエスチョンがほしい。これ本当に意味があるの?とか、何だかよく分からない、という反応でもいいんです。とにかく何でも疑問点をいただきたい。

CEATEC JAPANはコンシューマ機器の技術展示会で、我々とは遠いところにいたと思います。プロダクトとインターネットの距離は本当に遠い。
インターネットは基本的に「コモディティレボリューション」、つまり技術をコモディティ化していく民主化の過程だと言えます。民主化された技術を使って、誰もが使えることによってイノベーションを起こしていくのが基本的な姿です。プロダクトの世界では、役割分担が決まっていましたが、インターネットの世界は関わっている人たちが自ら越境し参加していく世界です。ユーザがコンテンツを作る。インフラエンジニアがサービスを作る。アプリケーションのエンジニアがサーバやスイッチを自作する。もちろんクラウドもありますけど。そうしたことをやっていくうちに、多くのサーバを並べるようなケースが出てきた際は、クラウドを使ったり、またクラウドを使うにあきたらず、自分たちで自作した方が実は全体のトータルコストが下がるとか、オペレーション的に効率が高まるといったことがある。インターネットは、そうした枠組みを再組織化する過程であり、プロダクトの世界とインターネットの世界の枠組みは本質的に違うんだと思います。

だから、今回のCEATECは異質な人同士が出会う場ではないかと思います。様々なQ&Aを通して、自分達もその違いをちゃんと理解したい。どんな疑問であれ非常に参考になります。
欲を言うなら、我々がインスピレーションを与えることができたら非常にいいなと思います。

森 正弥(もり・まさや)
楽天株式会社 執行役員/楽天技術研究所 代表

1998年、アクセンチュア株式会社入社。2006年、楽天株式会社入社。現在、同社 執行役員 兼 楽天技術研究所代表として東京、NY、パリ、ボストン、シンガポールの世界5拠点のマネジメントおよびAI・データサイエンティスト戦略に従事。情報処理学会アドバイザリーボードメンバー。 企業情報化協会 幹事およびビッグデータ戦略的ビジネス活用コンソーシアム副委員長。 2013年日経BP社 IT Pro にて、「世界を元気にする100人」に、日経産業新聞にて「40人の異才」に選出。著作に「クラウド大全」(日経BP社, 共著)、「ビッグデータ・マネジメント」(NTS社, 共著)、「ウェブ大変化 パワーシフトの始まり」(近代セールス社)がある。


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