スペシャルインタビュー第9回
(株)日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 技術顧問 城石 芳博氏(2/2)

2015年9月30日

CPS/IoT社会に人間と機械の協調は不可欠、一丸となって取組みましょう

▲(株)日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 技術顧問 城石 芳博氏

ーーーQ.CPS/IoTは、我々の生活やビジネスモデルにどのような変化をもたらすと考えていますか?また、どのようなことが課題と考えていますか?

ビジネスという面では、これまでにないサービス形態が次々と出てきて、既存のビジネスモデルが大きく変革すると考えています。
例えば、個人情報を保護して家庭冷蔵庫の在庫情報をセンサで把握し、小売店が商品入荷に役立てる。あるいは、携帯電話のアプリで近くを走るハイヤーを配車できるサービス等です。現在は限られた分野でビジネスが検討、展開されていますが、今後はさらに広い分野でCPS/IoTの活用が進み、だんだんと業界の垣根がなくなっていくと思います。
Dr.Shiroishi課題としては、特にセキュリティについて検討する必要があると思います。場合によってはルール、規制を適正化する必要もあると思われますので、業界全体で政府へ提案していくこと、共通の課題として産学官で検討することが重要であると思います。
また、生活という面では、CPS/IoTが我々の生活を元気で豊かにすることを願っています。しかしその一方で、人間と機械が競争してしまう、あるいは機械によって仕事が奪われてしまうといった懸念も指摘されています。そのため、人間と機械が協調できるように取り組まなければならないと思います。人間と機械が協調できるという前提があるからこそ、自動運転や見守りサービスが我々の生活を元気で豊かにするのだと思います。

ーーーQ.人と機械が競争するという話をいただきましたが、日立製作所様はロボット分野には、取り組まれていますか?

はい。ハードウェアの分野に長年取り組んでいますが、ロボットと人間を協調させようとすると、やはりAIの技術が重要になります。特に、人にとっての幸福をどのようなものとして認識させるかがキーテクノロジーだと思います。
自動運転を例にすれば、運転する車が対向車と衝突してしまう状況において、何を優先して守るようにプログラミング、もしくは学習させるのか。人を優先させる場合でも、最優先とすべきは同乗者なのか、対向車なのか。また、AIは正常に作動するのか。つまり、技術にどのような倫理を組み込むのかを、関係者全員で良く考える必要があると思います。
また、AIを活用する目的が「人の生活を元気で豊かにする」ことだとすれば、機械を扱う人間に対する教育も、豊かな社会に向けた枠組みに入れて取り組む必要があると思います。教育方法も、Eラーニングなどを用いるとした場合に、大手企業は自前で効果的なアプリケーションを開発できても、中小企業では難しいかもしれません。企業規模に関係なく企業の良さを引き出せるプラットフォームが必要です、政府・産業界・公的研究機関・大学などが連携して取り組むことが必要でしょう。

単なるシステム・製造にとどまらない国、それが「ニッポン」

ーーーQ.聴講者として、ITベンダーとりわけCPS/IoTの潮流やビジネスに関心のある方が想定されますが、彼らに対して一言お願いいたします。

Dr.ShiroishiICTの発展、普及により、世の中が変化するスピードが加速度的に上昇しており、先行者が全てを総取りする状況を生む可能性があります。そのような状況においてスピーディーに物事を決断、実行、成長するには、CPS/IoTの活用が不可欠だと思います。CPS/IoTの力を活用しつつ、各社が相補的に連携しないと日本は苦しい立場になっていくと懸念しています。
現在の日本は、三兄弟の次男のような立場にいると思います。長男にシステムを押えられ、三男に製造、モノづくりで攻め込まれています。次男としてどうするのか、という局面にいるのではないでしょうか。
日本は、「おもてなし」という言葉に代表されるように独自の文化を持っています。CPS/IoT社会においても「いかにお客様へサービスを提供するか」ということが革新的なビジネスにつながっているのが本質ではないでしょうか。「単なるシステムや製造ということから脱却した新たなサービス」を提供する素地があるのは日本だと思います。日本の特徴を活かして頑張っていくことを皆さんと共有したいと思っています。

城石 芳博(しろいし・よしひろ)
(株)日立製作所 研究開発グループ 技術戦略室 技術顧問

東京工業大学理学部物理博士課程終了 理学博士 IEEEフェロー
専門は、磁気記録(システム、方式、デバイス)、材料科学・工学(強磁性体、微細化プロセス、強誘電体、相転移)、技術開発戦略、など。
1978年 (株)日立製作所 中央研究所、1999年 ストレージシステム事業部技術開発本部長、2002年 ヘッド・メディア本部長 兼 技術開発本部長、2003年 HGST Deputy General Manager、HM-BU、2005年 同 執行役員主管技師長、2009年 (株)日立製作所 研究開発本部 主管研究長、2015年 技術顧問。


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