スペシャルインタビュー第5回 楽天株式会社 楽天技術研究所 リードサイエンティスト 益子 宗 氏(2/2)

2015年9月16日

どうやったらインタラクションを実現できるか

Mr_MASUKO
▲楽天株式会社 楽天技術研究所 リードサイエンティスト 益子 宗 氏

WallSHOP

▲自分のスマホで大型ディスプレイを操作できる「WallSHOP」

今回、2種類の「WallSHOP」を展示しようと思っています。一つは、大型のディスプレイに表示されたカーソルを来場者が自分自身のスマートフォンを使い、自由に動かしてもらうというものです。大型ディスプレイには楽天市場の売れ筋商品がいくつか表示されていて、来場者が「商品を購入したい」、「もう少し詳しい商品情報が知りたい」、といった時に自分のスマートフォンの画面をタップすると、ディスプレイとスマートフォンが連動し、自分のスマートフォンの画面に商品ページが開き、詳細な情報を見たり、商品の購入ができたりします。

これまでのデジタルサイネージですと、大型ディスプレイ上で操作しなければならないので、人前で自分が何に興味を持っているのか見られてしまいます。「WallSHOP」では、複数商品の情報については、大型ディスプレイではまとめて閲覧し、ユーザが興味のある情報については個人のスマートフォン上で閲覧できる、つまりプライバシーにも配慮できるシステム設計になっています。
また、離れた場所にあるディスプレイや、大型のディスプレイ、タッチできないようなディスプレイに対してどうやったらインタラクションを実現できるかというところも一つのキーにして考えました。技術的にはHTML5というベーシックなウェブの技術を使っています。

もう一つ重要な機能として、「多言語対応」というのを取り入れています。これは、利用するスマートフォンの設定言語に応じて、大型ディスプレイに表示される文字が自動的に翻訳されるというものです。
これまでのサイネージはわりと静的なものが多かったですが、この「WallSHOP」はディスプレイ上に楽天市場で売れているものを表示したり、スマートフォンと連動させたり、さらには多言語対応だったり、ユーザ自身がコンテンツをカスタマイズすることができるなど、かなり新しい試みを取り入れてます。

そして、もう一つの「WallSHOP」では、C to C向けのフリーマーケットアプリ「ラクマ」を大型のディスプレイに表示し、来場者がタッチしたり、購買したりすることのできる機器を展示します。

ーーーQ.ユーザにとっては予備知識がないと分かりづらいサービスではないかと思いますが、その点は何か工夫されているのでしょうか?

いくつか段階を踏まないといけないと思っています。

ただ公共の場にドーンとサイネージを置いたとしても使われづらい。道路に面したみんなが見ているような公共の場所におかれたサイネージ上で操作すると周りの人に何を買ったかが分かってしまう。そういった場所では、一般的な広告の方が向いている。
ですから、サイネージの置き場所とコンテンツを適材適所で考えなきゃいけないと思っています。
我々は主にネットサービスを提供してきた会社ですので、リアルのところで持っている経験が少ない。実際、「WallSHOP」を置いてみて、うまくいった点、うまくいかなかった点、こういうのがあったらいいねという改善点を聞いている段階です。
また、クレジットカードの「楽天カード」や通話サービス「楽天モバイル」、プロ野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」などのスポーツ事業など、楽天ではリアルの世界で展開する事業が増えてきました。それらのサービスと我々が開発する技術を上手くコラボレーションしていきたいと思っていますね。

ネットとリアルが混ざっちゃった環境は僕にとって面白い

ーーーQ.こうした技術で私たちの生活がどういう風に変わると思いますか?

Mr.masuko
私たちの生活が変わるという話になると、やっぱりそこまでには様々なステップを踏まなければならないと思っています。今回の企画展示「NEXTストリート」のテーマ「CPS(サイバーフィジカルシステム)」というのは、長年様々なところで取り組まれてきましたが、我々もネットとリアルの情報を融合することで、新しいユーザ体験を生み出されることを期待しています。
「買い物」という体験に絞って言うと、オムニチャネル(実店舗やネットショップなど様々な販売チャネルや流通チャネルを統合することにより、販売チャネルにかかわらず、商品を購入できる環境)という言葉が最近よく聞かれるように、大きなイノベーションが起きていると感じています。ユーザにとってはリアルな場においても、情報にいつでもどこにでもアクセスできるため、お買い物のしやすさがかなり向上していくんじゃないかと思います。
ネットショッピングについて色々なアプリが登場しているので、他の分野に比べると、ネットとリアルを融合する技術は、今後我々の生活に直接的に影響してくるんじゃないかなと思いますね。

ーーーQ.リアルとバーチャルの垣根がなくなっていくわけですが、その先はどのような展望を持っていますか?

僕たちが研究する技術はeコマースという発想から始まっているので、ネット上でのユーザ体験をリアルに導入、拡張することで昔より一歩進んだ形で、個人間の売買がリアルよりスムーズに場でも起こるようになると面白いかなと思っています。
ユーザ同士が自由に商品を売ったり買ったりできる「ラクマ」のようなネットでのユーザ体験が現実の世界でもより簡単に行われると面白いかなと思っています。どういうことかと言うと、僕が今持っているこの時計に自分でタグをつけて、「これ売ってます」、「楽天市場で買えます」、という広告を自分に付ける。で、自分自身が広告媒体になり、商品が売れると収入を得る。すると、色んな商品を持ち歩きたくなるといった風に。そういうネットとリアルが混ざっちゃった環境というのは僕は面白いと思ってますね。

益子 宗 (ますこ・そう)
楽天株式会社 楽天技術研究所 リードサイエンティスト

2008年、筑波大学大学院システム情報工学研究科博士課程修了。博士(工学)、楽天株式会社入社。現在、楽天技術研究所、リアリティドメイングループマネージャー、バーチャルファッションシステムの構築、AR(拡張現実)、デジタルサイネージを活用したO2O施策の展開など、エンタテインメントコンピューティング、HCI(ヒューマンコンピュータインタラクション)における研究開発に従事。2011年より筑波大学大学院システム情報工学研究科、非常勤講師や2015年よりWISS(Workshop on Interactive Systems and Software)、プログラム委員を務めるなど、アカデミックでの活動も展開している。


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