スペシャルインタビュー第4回
東京大学大学院 情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター 中田 登志之 教授

2015年9月11日

東京大学大学院 中田 登志之 教授「全てがConnectedな世界に向けて」

技術の進歩が社会の課題を解決する時代が到来

ーーーQ.近年CPSという言葉が世の中に出回るようになりましたが、CPSが注目を集める背景をどのようにお考えですか?

背景の一つとしてニーズの高まりがあります。世界人口の50%が都市に住み、かつ日本のように高齢化社会が進むと、このままでは破たんする恐れがあります。破たんを防ぐためにICTを使って何とかできないかというニーズが顕在化してきました。

例えば、橋など50年以上経過したものが増えていますが、それを全部修理するには非常にお金がかかります。そこにインフラ問題におけるCPSのニーズがあります。

シーズにおいては、従来、人工知能学習やリアルワールドコンピューティングなど2000年ごろから色々言われてましたが、ようやくその処理が適用できるようになってきました。まだ完成とは言いませんが重要な技術が登場しています。

それらのニーズとシーズがマッチメーキングすることがCPSにとって重要です。

ーーーQ.CPSにはどのような可能性があるとお考えになりますか?その実現のために必要な技術とはなんでしょうか?


CPSにおいては、先ずは実世界の動きをセンサーによって取り込まねばなりませんが、これには多様なものがあります。

例えば、トンネル事故防止のためにはトンネルの状況を把握するセンサーが、水道管の漏水を防ぐためには水道管の状態を把握するセンサーが必要になります。自動車の自動走行ではカメラでデータを取り込みますが、カメラを使用すると大量に連続してデータが届きます。これをどのような技術で処理するかも課題になります。全てをクラウドで処理するのは無理なので、フロントエンドで車自身がカメラからの情報を基に安全に走行を考えるコンピューティングも必要になります。

一方、クラウド側においては、最近ビックデータやディープラーニングなどが流行っていますが、従来出来なかったデータ解析を行うことで、新たなサービスの提供を可能にします。これらが最終的には自動走行、老人の見守り、インフラ劣化の診断に適用され、実世界のいろいろな問題を解決するCPSの技術となります。技術の進歩が課題を解決する時代になると期待しています。逆にいえば我々は課題を解決するように研究しなければならないということになります。

CPSは社会のほとんどの産業にまたがり、ICTが下支えする

ーーーQ.CPSを構築・推進するために、大学やIT・エレクトロニクス業界はどのように取り組む必要があるとお考えですか?

大学には二つのミッションがあります。
一つは研究です。もう一つですが、CPS社会を実現するためには、全てがつながらなければなりません。一企業ではできないことを、みんなで連携する必要があるのですが、そのお手伝いも大学のミッションです。

データをみんなで使用するためには、フォーマットを共通化し、その内容をみんなが同じ意味で理解しなければなりません。更に実世界ではプライバシーとセキュリティの問題が伴いますので、それらは産業界も含めてみんなで合意ながらクリアしていく必要があります。

CPSは自動車・ITS関係、医療関係、教育、介護など社会のほとんどの産業にまたがりますが、ICTはそれを下支えするものと思っています。

ーーーQ.中田先生が所属する東京大学大学院の「ソーシャルICT研究センター」ではどのような取り組みが行われていますか?

ソーシャルICT研究センターは、ICTを基軸として社会を再設計すること、そのための方法論を確立することをミッションとしています。その中で私は、このICTをCPSに置き換え、CPSを使って社会を再設計するためにはどうすれば良いかについて考えています。
2020年の東京に向けて、今後重要になるマイナンバー制度やオープンデータなど、いろいろな情報連携によって安全・安心なサービスの提供を実現していきたいと考えています。

ーーーQ.ソーシャルICT研究センターでは社会を良くするための人材育成も実施しているのでしょうか?


ソーシャルICT研究センターでは、2012年より「グローバル・クリエイティブリーダー育成プログラム」を推進しています。ここでは、修士から博士まで5年間の一貫したプログラムで社会に役立つ人材育成を目指しています。従来の大学だと5年間研究室に閉じこもっていることも多いのですが、そうではなくインターンなどで社会と交わるようにしています。これからはこういう人材の育成が大事だと思っています。

このセンターの特徴に、情報理工学系だけではなく、医学系や農学生命科学など幅広い分野から参加していることがあります。直接CPSとは関係ありませんが、企業とも連携し、ICTを使って世の中を良くするための幅広い人材を育成する教育機関です。

ーーーQ.海外とはこれからどのような連携、もしくは競合の関係になっていきますか?

先週もシンポジウムがあり、海外の方とCPSに関する議論を行いました。今後も海外と連携の話は出てくるでしょう。米国にはIoTをリードしていこうとする団体・企業があるので、そことどのように付き合っていくかが課題になります。日本では、JEITAなど関係する団体や機関での取り組みを推進しながら、今後議論されるのではないでしょうか。

全てがConnectedな世界に向けて

ーーーQ.先生はCEATEC JAPAN 2015のコンファレンスでご講演予定ですが、聴講者にはITベンダー、とりわけCPS/IoTの潮流やビジネスに関心のある方が想定されます。彼らに対して一言お願いいたします。

私の講演では、日本の高齢化社会などこれから社会が直面する課題を解決するためにはCPSが重要であること、そしてCPSが実際にどのような構成になっていて、どういう技術が大切かということを説明します。2020年、2025年に向けて、ICTを活用して良い世の中を実現する必要があり、特に日本ではICTが高齢化社会を解決する一つのカギになると考えています。それは一企業、一産業で実現できることではないので、皆様と一緒に考えていきたいと思っています。

これからは全てがConnectedな世界です。この世の中をよりよくするために、かつ産業の活性化のために連携していきましょう。

中田 登志之(なかた としゆき)
1990年3月京都大学工学博士
1985年4月~2015年3月日本電気株式会社勤務
並列計算機アーキテクチャ、OMCS、グリッドコンピューティング、マイナンバー制度、CPSのアーキテクチャなどの研究に従事。
2015年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科ソーシャルICT研究センター教授
社会課題解決や新たな価値の創出のためにICTの高度利活用を軸とした社会システム変革を設計し、そのために持続的に変革を推進するための研究に取り組む。