スペシャルインタビュー第2回

国立大学法人横浜国立大学 先端科学高等研究院 上席特別教授

内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) プログラムディレクター

藤野 陽三 氏(2/2)

2015年9月8日

先進技術の海外展開と市場形成に向けたイノベーションの必要性


▲国立大学法人横浜国立大学先端科学高等研究院上席特別教授で内閣府SIPプログラムディレクターの藤野 陽三 氏

ーーーQ.インフラ維持管理の事業には市場への期待感からIT企業のみならず様々な業種の参入が見受けられますね。

市場の創造に向けた課題は様々ありますが、これまで目立たなかった異業種の参入が相次いでいるのは事実です。一方で、山積する課題を解決するための資金が乏しく、現状は国の予算を使う上で国民の理解を得ることも難しい。社会的なコンセンサスを得ることは容易ではありません。


そのような課題もありますが、日本の持つ技術やノウハウは世界的に見て高い水準にありますので、SIPのプロジェクトでは有用な新技術を海外展開することを目指しています。例えば、急速な発展を遂げたアジア圏では、インフラ関連における潜在的なリスクが将来表面化してくる可能性があります。一度作ったインフラは、そう簡単に建て直せるものではないので、定期的な点検をしながら必要に応じて改修工事を行い、ある程度は使い続けなければなりません。これは日本にとっては大きなビジネスチャンスです。ただし、技術や製品だけを輸出するのではなくて、技術指導やアフターケアなども含めたパッケージで輸出することが大切です。

ーーーQ.モノを売って終わりではなく、サービスとパッケージ化して展開しないと導入は進まないのですね。その他にインフラ維持管理という市場が形成されるうえで、どんな課題があるとお考えですか?

Dr Fujino興味深い技術は沢山ありますが、残念ながら実用化できるレベルには至っていないのが現状です。インフラは千差万別なので、例えばある橋の検査に使った技術を他の橋の検査に使えるとは限らないのです。また、ひとつの技術で全ての検査ができるわけではないので、バラエティーに富んだ技術開発が必要とされます。加えて、現場の作業員が簡単に使える技術が理想的です。特殊な知識や訓練を必要とする技術ばかりでは、とても検査が間に合いません。

異業種間での会話がイノベーションを加速させる

ーーーQ.今年のCEATEC JAPANではCPS/IoTといった現実社会とサイバー空間の融合が大きなテーマです。今回ご出展いただくブースでは、まさにその概念に通ずるSIPプロジェクトの成果が披露されますが、来場者にはどのような視点で見てもらいたいですか?

土木建築技術というと、例えばトンネルを掘るとかイメージしますが、最先端の技術を最も必要としている分野です。例えば、世間ではホビーとしての印象が先行しているドローンですが、今まで人の目が届かなかった高所や危険な場所も点検できるツールとして期待されています。まだ新しい技術ですが、技術の進歩も著しい。

私は究極的にはインフラを使っている人がモニタリングもしてほしいと考えます。SIPのプロジェクトでは“連携”をキーワードにしていますが、インフラの利用者が意識せずに検査して、それが維持管理に繋がることが理想的です。例えば、橋の維持管理は専門家が出向いて行って検査しますが、将来的には一般の乗用車が走りながらセンシングするような世界です。
将来、インフラ維持管理の技術は国土すべてに応用できると考えます。建物や構造物はもちろん自然にも応用できるでしょう。

最近になってようやく土木建築業界とIT業界が垣根を越えてコミュニケーションできるようになってきました。異業種が信頼関係を築いてフランクに会話できるようになるにはもう少し時間がかかりそうですが、お互い必要としている技術を知り、技術開発を促す上で必要なプロセスです。
今後、技術開発やコストダウンを経て様々な技術が現場に浸透していきます。さらに、センシングされたデータが蓄積され活用できる将来がやってくるでしょう。SIPのプロジェクトを通じて、来場者の皆さんに最先端技術を知ってもらいたいと思います。

藤野 陽三(ふじの・ようぞう)
国立大学法人横浜国立大学 先端科学高等研究院 上席特別教授
1974年、東京大学大学院修士課程(土木工学)修了。1976年9月、ウォータール大学(カナダ)博士課程修了。橋梁(特に長大橋の風や地震による振動、制御、振動モニタリング)を専門に国内外で広く活動してきたが、最近は橋梁を含むインフラ全般の計画、設計、維持管理マネジメント、防災に携わる。2013年より内閣府 政策統括官(科学技術政策・イノベーション担当)付 政策参与として戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のインフラを担当。著作に「アーバンストックの持続再生」(技報堂, 編著)、「海外インフラの整備プロジェクトの形成」(鹿島出版会, 共著)、「橋の構造と建設がわかる本」(ナツメ社, 監修)、「巨大構造物ヘルスモニタリング―劣化のメカニズムから監視技術とその実際まで」(エヌティーエス, 共著)などがある。


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