スペシャルインタビュー第11回
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 領域長 関口 智嗣 氏(2/2)

2015年10月5日

ロボットが社会に入っていくための人間工学技術


▲ 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 領域長 関口 智嗣 氏

ーーーQ.このほかにもロボットを展示するようですが、どのような点で、情報分野と関わっているのでしょうか?どちらかというと機械工学領域の印象がありますが・・・。

ロボットというのは、実は機械でもありますが機械だけではなくて、全てのところにセンサーやコンピュータが入っていて、それらが環境を理解し色々な制御をしています。その点で、情報技術がとても重要です。
そして、そういう動作や制御だけではなくて、これからロボットが社会に入っていくためには、人とのコミュニケーションがきちんと取れなければいけない。そうすると、これは人間工学の技術が必要となります。情報をベースにした総合技術という意味では、まさに我々の領域らしい技術分野ではないかと思います。
例えば、今回自動走行車いすを展示させて頂くのですが、先ほどの人間計測技術のところでも触れましたが、モビリティという意味では、人がどこかに移動するというのは基本的な欲求ですし、ロボットといっても完全独立型のものから、人が乗って操作するものと色々ありますけれども、ロボットに乗って、人が思った所に行くとなると、環境をしっかりと認識して、どういう方向に行けばよいか、また動力をどのように制御すればよいのか判断しないといけない。
これはまさに、環境をセンシングして、その情報に基づいて判断を行い、それを運転に繋げるという意味でCPSでもあると思います。サイバー世界においての分析結果を現実社会へアクチュエートする部分がロボットになるという考え方ですね。

技術とビジネスとをマッチアップさせるデザイン力

ーーーQ.「NEXT」ストリートの全体テーマであるCPS/IoT社会の実現に向けて、産総研の果たす役割についてどのようにお考えでしょうか。

Mr.Sekiguchi産総研という組織は研究機関ではあるのですけれども、単に研究しました、じゃあ、どこかで使ってくれませんか、といった押し売りをするのではなくて、今回でいうと、CPS社会を新しく皆様と作っていく役割を担うということだと思います。
今後の社会というのは、物理空間よりも情報空間の方がどんどん大きくなっていきますので、情報社会が人間社会に寄り沿って来るというのは、自然な流れなのです。逆の方向というのはありえなくて、現実の世界の事象をセンシングしていくというのが、我々としての役割と考えております。
そのような中では、情報処理の技術、インターフェースの技術、計測の技術など、我々の研究分野の果たす役割は非常に大きくなってくると思います。もちらん、それぞれの技術について、現時点で全て分かっているわけではなく、今後データ量が膨大に増えていった時に、どのような処理が可能になるのか、何ができて何ができないのか、できないとすればそれはどういう風にすればよいのか、そして、それを社会に戻していくときにどんなサービスをつくることができるのか、様々なことが分かっているようでわかっていないんです。
そういったところで、産総研は研究的な指導ももちろん行っていきますし、企業の皆さんがサービスを作っていきたいんだ、といった時に一緒になって考えていければと思っています。

ーーーQ.なるほど。甲乙つけられないと思うのですが、CPS社会の実現に向けて、コアとなるような技術はどのようなものであると考えていますか?

技術という意味では非常に多くあるんだと思いますが、最も大事なのは、僕は「デザイン力」だと思っています。全体をどうデザインしていくのか。ビジネスにしても技術にしてもどうデザインしていくのか。
技術とビジネスをマッチアップしてどうデザインしていくのか。そういうところがこれから非常に大事になってくるんではないですかね。
ひとつひとつの技術ももちろん大事だとは思いますが。

ーーーQ.最後にCEATEC JAPANへの期待と来場者へのアピールをお願い致します。

CEATECには、これまでプロジェクト単位で出展させて頂いたことがあったのですが、今回「NEXTストリート」という一つの大きな取組みを見せる場があるということで、我々としても、先ほどご紹介しました研究成果について、社会にどうフィットしていくか、というのを見届けていかなければと考えています。
我々のような研究者のコミュニティだけでものを作っていたり、ものを評価していたりしても、やはりその世界に留まってしまうものです。ですから、CEATECにいらっしゃる色んな企業の方々、企業といってもユーザ企業もあればIT企業もあれば、ユーザ企業の方もいらっしゃる、そういった方々とお話をさせて頂く、という意味では我々にとっても非常にメリットのあることだと思い、今回出展をさせて頂くことになりました。
さらには、今年から産総研では色々とスタイルが変わりましたので、この情報・人間工学領域の研究成果のアピールや宣伝をしていくことも意図しております。

今はITに関する技術を用いたとにかく多くのビジネスのチャンスが生まれてきていると思います。その可能性というのは、現場にいらっしゃる方の方がよくご存知かと思います。
その発想を組み合わせることによって、どういう新しいサービスが出てくるのか、といったところがこのような大きな展示会の非常に面白いところなんだろうなと思います。こっちの展示に行って、次の展示を見て、自分の中で色々とコーディネートし、デザインを考えることで、新しい発想が出てくるんだろうと思います。そういうところで、我々産総研も、色々と貢献できればいいなと思っています。

会場には若い世代の方もいらっしゃると思います。我々の展示にもロボットとかドライビングシミュレーターがありますが、未来の世界/未来の社会の入口がCEATEC会場にはあるので、子供たちには、ぜひそういうことを感じて、みんなが大人になった時に、俺だったらこうする、といった新しいアイデアを持てるようになってほしいと思います。

関口 智嗣(せきぐち・さとし)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 領域長

1959年生東京大学理学部情報科学科卒、筑波大学大学院理工学研究科修士課程、東京大学大学院情報理工学研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。1984年工業技術院電子技術総合研究所入所。2001年独立行政法人産業技術総合研究所に改組。同所グリッド研究センター長、情報技術研究部門長を経て、現在、情報・人間工学領域 領域長。技術士(情報工学部門)、HPCIコンソーシアム理事。並列・分散コンピューティングとE-サイエンスなどの応用システムに興味を持つ。


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