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活動報告関西支部

2022年新春特別講演会

関西支部の部品運営委員会、新分野・異業種研究専門委員会では1月17日(月)に新春特別講演会を開催しました。ハイブリッド開催の準備を進めましたが、年明けのコロナ急拡大により、オンラインでの開催となりました。

部品運営委員長「年頭挨拶」

最初に、部品運営委員会の村田恒夫 委員長((株)村田製作所 代表取締役会長)より「年頭挨拶」を行いました。
IT・エレクトロニクス産業の2020年度国内生産は9.9兆円、輸出は9.2兆円、全製造業に占める従業員数割合は7%を占めます。自動車産業と並び、日本の雇用・輸出を支える産業に位置付けられます。
2021年の電子部品世界生産は、上半期において、ワクチン接種の進んだ米欧での経済活動正常化等により需要が拡大しましたが、下半期に入ると、半導体不足や各国のロックダウンが自動車、電子機器の生産回復に対する制約となりました。2022年は、カーボンニュートラルの取り組み進展を背景に、自動車の電動化、環境製品向けの需要拡大等により、JEITAによれば28兆5千億円、前年比+3.5%の見通しです。日系企業のシェアは、2020年35.3%、21年34.4%、20年34.3%(9.8兆円)と推移しています。
このたび、村田製作所では、2030年のありたい姿として「Vision2030」をまとめました。成長戦略として「基盤事業の深化とビジネスモデルの進化」ならびに「4つの経営変革」を掲げています。前者については、3層のポートフォリオ(標準品型ビジネス、用途特化型ビジネス、新たなビジネスモデルの創出)と4つの事業機会(基盤領域=通信+モビリティ、挑戦領域=環境+ウェルネス)において取り組みを進めます。後者については、①社会価値と経済価値の好循環を生み出す経営、②自律分散型の組織運営の実践、③仮説思考にもとづく変化対応型経営、④DXの推進、に向けて取り組みます。“Innovator in Electronics”として、社会価値と経済価値の好循環を生み、豊かな社会の実現に貢献したいと考えています。

新春特別講演

東京大学大学院の江崎 浩 教授より「脱炭素・カーボンニュートラルに向けたデジタルインフラ整備 Green(Energy)x Digital(Internet/DC)」と題して講演いただきました。
カーボンニュートラル、価値創造、BCP、効率化等の経営課題は、デジタルをツールにOpen Platform上で複合的に進めることにより「一粒で4度おいしい」「新しい三方良し=至宝(四方)良し」となります。デジタルの世界はTech-DrivenからData-Drivenを経てIssue-Drivenに進化しました。現実のデータを収集・分析、サイバー空間でシミュレーションして現実にフィードバックする時代から、現実のデータを基にサイバー空間でシミュレーションを繰り返し、最適解によって現実を構築するCyber Firstの時代となっています。
金型工場の「中島工機」は効率化を目的に工程のデジタル化に取り組みました。データの管理・分析による効率向上に加え、待機電力も48%削減して「省エネ大賞」を受賞。就業時間も短縮され、働き方改革につながりました。仙台の酒蔵「浦霞」は、杜氏の高齢化による事業継続危機からデジタル化に取り組んだ結果、品質管理の精度が上がり生産性の向上を実現しました。加えて、東日本大震災後は蓄積されたデータを活用し、いち早い復旧を果たしています。山口の「獺祭」でも西日本豪雨後の復旧にデータを活用。現在では、サイバー空間でケミカル、バイオを活用し、新製品開発のイノベーションも実現しています。
カーボンニュートラルの方向性には、RE-100(Renewal Energy 100%)とEP-100(Energy Productivity 100%)があります。後者は日本のお家芸である生産性向上にほかならず、100を上回って進めることも可能です。オンプレミスのサーバーをデータセンター(DC)に集約することで電力消費を大幅に削減できますが、東京証券取引所では、データをDCに置いたおかげで東日本大震災時に取引停止を免れ、つまり、DCが日本経済の崩壊を防ぎました。今ではDCを再生可能エネルギー源の豊富な地方に置くことも可能となっています。
デジタルはあくまでツールであり、真のDXは新たな技術を導入できるようルールを変えることです。在庫50億の倉庫建設オーダーに対し、ITの活用でサプライチェーンを効率化、倉庫を在庫30億のサイズに縮小してコストを40%削減した例もあります。物流、作業量、産廃も併せて圧縮、つまり省エネ、効率化、環境対策を同時に実現したことになります。
コンテナパレットの発明で運ばれるものと運ぶ手段が切り離され、物流におけるデジタル化=シェアリングエコノミーが成立しました。情報においてはインターネットが同じ役割を果たし、これに3Dプリンターが加わると、物流は情報と原料だけを送るシステムへ劇的に変わります。携帯電話がガラケーからスマホに進化した様に、車も都市もハードとソフトが分離(unbundle)され、システムは垂直統合型から水平統合型に再構築されます。IoT(Internet of Things)とは、モノをサイバーで接続することではなく、コト(機能=Functions)をモノに置き、それを稼働させること、と理解する必要があります。デジタル化の本質はモノとコトを切り離すことに他なりません。
BCP・災害対策について述べれば、日本マイクロソフトは震災直前に本社を移転、サーバーをすべてDCに置きオンラインの業務体制に移行した結果、発災直後も社員の安全は確保され、業務は継続しました。この経験を踏まえて、ライフタイムコストとエネルギー使用の削減、BCP向上を旗印とするAzureを提供しています。エネルギー問題は喫緊の課題ですが、二宮尊徳が言う通り「道徳なき経済は罪。経済なき道徳は寝言」です。デジタルをツールに経済合理性の下で解決しなければなりません。
サイバーセキュリティを考える場合、のびのびと仕事ができる体制でなければ企業は衰えます。安心を実現しつつリスクに対応することが肝要です。Melvin Kranzbergによれば「発明は必要の母」であり、工場をデジタル化すれば、副産物としてデータの改竄は不可能となり、またさまざまな忖度が不要となる面もあります。

デジタル化に関わる諸課題につき、多くの事例を交えつつ明快に解説いただきました。講演後の懇談では、Chief Architectの重責を担われるデジタル庁の取り組みや、デジタル人材の育成をめざす「三重県ものづくりDX寺小屋」の事例も紹介いただき、主催両委員会が本年度の取り組みを考える貴重なヒントが得られました。