スペシャルインタビュー第11回
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 領域長 関口 智嗣 氏(1/2)

2015年10月5日

国立研究開発法人産業技術総合研究所情報・人間工学領域領域長 関口智嗣氏「CPS社会実現に向けたコア技術とは-産業技術総合研究所 情報・人間工学領域研究の役割-

CPS/IoTスペシャルインタビュー第11回は、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 情報・人間工学領域 領域長 関口 智嗣 氏です。CEATEC JAPAN 2015 特別企画「NEXTストリート」に出展する技術や来場者へのメッセージを伺いました。

人とコンピュータの共栄

ーーーQ.初めに、関口領域長のご専門について教えてください。
2002年にグリッド協議会を発足するなど、今回の「NEXT ストリート」の全体テーマであるCPS/IoTの分野に早くから取り組まれていらっしゃいますが。

私はもともと、計算機がどうやったら速くなるのかといった研究を行ってきました。
分かりやすく言うと、計算機1つ1つでは、能力が不足することを、複数の計算機が協力することで、たくさんのチカラが出てくるという課題に取り組んできました。今で言う、スーパーコンピュータ/クラウドコンピュータの技術や、CPSという概念につながってきます。

当時は、コンピュータにも、色々なくせがありまして、人間がコンピュータを使うことに、ものすごく苦労していた時代でした。ややもすれば、人間がコンピュータに合わせることで、使われているという感覚を持っていた人もいたかもしれません。
私は、人間がコンピュータを使って、その向こうにある「結果」だったり、「答え」だったりを得るためにはどのようにすればいいかを考えてきました。コンピュータがどんな格好をしているのかということは、実は、使う人は興味がなかったわけですね。
例えば、電灯のスイッチを入れるときに、その電気がどの発電所からどこを通って供給されたものなのかは、普通は気にしないですよね。明るくなるサービスを享受できれば、それでいいわけですから。

そういう意味で、人があまり苦労しないで、コンピュータが簡単にサービスをもたらすためにはどうしたらいいのか。このサービスの考え方を情報の世界に置き換えていくと、どのような社会になるかということを常に考えてきました。

ーーーQ.関口様は、現在、産業技術総合研究所「情報・人間工学領域」の領域長を務められていらっしゃいますが、この領域では、具体的にはどのような研究を行っていますか?

Mr.sekiguchi「情報・人間工学領域」は「情報」と「人間工学」を・(中点)で結んでありますが、「情報」とは、データをどのように取得し、加工するか、さらにデータからどのようにして知識を抽出するのか、その結果をどのように提示するかといった技術の研究です。
ただ、情報を扱うときに、人間が何か意図を持って情報を操作している訳ですから、このとき人間がどのように感じているのか、感じた人間に何が起きているのか、といったところも同時に考える必要があります。ITのデジタル世界だけではなく、人間の活動といったアナログ世界との間をうまく整合させることがますます重要になると考えました。このことから「情報」と「人間」を同時に対象とした「情報・人間工学領域」という研究領域を設定しました。
研究者が250人以上おりますが、これだけの規模でこういった研究領域を作ったのは、初めてではないかと思います。
そして、先ほどの話に繋がるかもしれませんが、この領域においては、コンピュータが人を支配するのではなく、また、人がコンピュータを支配するのでもなく、お互いにそれぞれを考える「共栄」という世界を描いています。

ーーーQ.情報技術だけでなく、人間自身についても研究を深めるということですね?

研究を推進する組織の一つに人間情報研究部門があります。
そこでの研究は情報が提示されたときに、人間がどのように感じているのか脳機能から認知、感覚、生理運動にいたる人間機能を計測してその仕組みを明らかにすることです。
例えば、ショッピングに行きますね。興味のある商品の前で立ち止まって、何をどう認知し、行動するかを知るためには、生理的な指標だけではなくて、人間の挙動やその後の色々な動きをセンシングして、人の行動自体や感性をモデル化していこうというのが、研究対象のひとつです。
もちろん、人といっても、単独の人、グループの人、それから、社会の中での人という色々なレベルがあります。個の人間を観測するだけではなくて、グループの行動などもネットワーク技術や数理モデル化技術などを用いて、分析しています。
そして、人の行動の先にあるSNSなどのネットの社会。そこは物理的には目に見えませんが、ネット―ワーク社会内部での距離などのつながりみたいなものは必ずあります。
このように、人間の生身や個人レベルから、その先にあるネットワークまでも範囲として、人間生活視点での研究をしています。

CPS社会を実現する最先端技術を紹介

ーーーQ.今回、「NEXTストリート」では、産業技術総合研究所の情報・人間工学領域の重点戦略である(1)サイバー・フィジカル・システム、(2)人間計測評価、(3)人工知能、(4)ロボット技術と全ての研究成果をご紹介頂きます。
概念である「サイバー・フィジカル・システム」を見える化するのは難しいと思いますが、どのような技術を展示予定ですか?

CPS(サイバー・フィジカル・システム)とは、世の中の状態をセンシングすることでサイバー側に実世界のモデルを構築することでコンピュータが処理を行うようにしたうえで、そこに人工知能なども使いながら計画・予測を行い、フィジカルの世界に何らかのアクションを起こすという一連の流れとそのシステムです。
CPSはデータが取得しやすくなったこと、処理速度が向上したこと、人工知能の適用が広がったことなど、いろいろなアプリケーションが期待されています。

Mr.sekiguchi今回は、その一つとして、「逃げ地図」という技術を紹介します。先ほど述べたように、産業技術総合研究所の、人の行動についての研究成果を活かし、災害が起きた際に、どこに、どのように避難したらいいのかといった避難のシュミュレーションができる技術を開発しました。
実際のフィジカルな世界の中で、この周辺では、このような避難場所があるという情報を収集し、即座にどこに逃げたらいいですよといった情報を個人の端末やデジタルサイネージ等を通して提供できる技術です。まさに、物理側の世界と、データ側の世界とを組み合わせて見せていくことができます。

もう一つ、「高機能暗号化技術」を紹介します。
例えば、ある企業がデータの収集情報を漏洩し、プライバシーの問題が発生すると信用にかかわります。また、企業側としても、今どういうデータを検索しているのかがライバル企業に漏れてしまったとすると、「次の製品は、あの辺りを狙っているのか」といった情報が競業他社に分かってしまうわけです。そういったことを防ぐ為に、データを特殊な暗号化させ、みんながどこからアクセスしているのか分からない状態のなかで、他人に知られずに、安心して検索ができるような技術が必要になってきます。

ーーーQ.次に人間計測評価の研究成果の中からどのような技術を展開予定ですか?

今回は、運転行動計測用ドライビングシミュレーターをポスタ展示する予定です。
自動車についていえば、自動車そのものは将来的に今のような形状かどうかはわかりませんが、モビリティは、今後も人間の一つの欲求であると思います。日本においては、高齢社会ということもあり、多くの高齢者の方が自動車を運転されています。例えば自動ブレーキの必要性といったことが、安全性の観点から議論されていますが、高齢者の方々が運転されている時にいったい何が起きているかということは実は科学的には解明されていないんです。
歩行者や自転車が急に飛び出しをした際に、高齢者がどういった反応をするのか、年齢が若い方の反応とは何がどう違うのか、どういう機能がどう劣っているのか、というところは分かっているようでなかなか分かっていません。そういったところを科学的に解明するために、我々はドライビングシミュレーターを使用しながら、人間の認知や機能の計測を行っていこうとしています。
さらに、車を運転する時のプレジャーといいますか、楽しみみたいなものを感じてもらうための研究もしています。最近若い人の車離れが進んでいますが、何をもって車の運転が楽しいと感じるとかベーシックなところを研究として押さえて、自動運転といった次の新しい技術の進化に繋げていきたいと考えています。

ーーーQ.このほかにもロボットを展示するようですが、どのような点で、情報分野と関わっているのでしょうか?どちらかというと機械工学領域の印象がありますが・・・。


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